勇者
レイウス教皇国は他の国とは違い、【王】ではなく【教皇】が統治する特殊な国だ。教皇が統治していることから分かる通り、この国には【レイウス教】を国教とし、国民全員がこの宗教の信者で、周囲からは【信仰の国】と呼ばれている。ちなみに【守護聖女】セシリアはこれとは別の宗教を信仰している。
レイウス教は、この世界を創生神レイウスが創ったとし、人は創生神レイウス様からこの世界の管理を任せられた使徒だと考えている。レイウス神の導きは【未来視の巫女】を通し行われるので、巫女に対し信託を下ろし、信者を救いへと導くとされている。この宗教は一つ厄介な点がある。この宗教はレイウス教信者のみを使徒と考えており、信仰しない、または別の宗教の信者を神からの使命を放棄した愚者だと見下しているところだ。そのため、各地で時々騒ぎを起こす。そんな国から召喚された勇者は、トムにとって面倒なことこの上なかった。
「おおう来てくれたか、トムよ」
【槍神】オイゲンに担がれ暴れているという状況にも関わらず、王は平然と受け入れる。
「お前が【ダンジョン王】トムか!」
ようやく降ろされたトムに向かって、無駄に金ピカな鎧と剣をもつ黒髪の青年がトムに毅然と言い放つ。その容姿は、世間では女性受けが良いであろうイケメンだった。青年の後ろには完全武装の聖騎士が、へらへらとこちらを見ていた。謁見の兵士たちもいつでも剣を抜けるように臨戦態勢だ。トムは青年を無視して王に向き直り、声を潜めて会話する
『それで?どういう状況なんですか?』
『いや、それがなー「ダンジョン王をだせ!」の一点張りで困ってたんだよね』
既に四十後半のナイスミドルな王は、軽い口調で答える。
「なにをコソコソしている!これ以上人々を苦しめるな!」
勇者はトムに向かい再び怒鳴る。その目にはいかにも自分の正義を信じて疑わない、といったものだった。トムはため息を吐きながら丁寧に応対する。相手の挑発に乗って、こっちが手を出したら国際問題になってしまう。
「勇者さま、私にいかようなご用件でしょうか?」
「なにをとぼけたことを!お前が世界各地にダンジョンを築いて人々を苦しめているのだろう!今すぐこのような事を辞めろ!」
『こいつ、いちいち怒鳴らないと気が済まないのか?』
ずれたことを考えていると、その様子が勇者の癇に障ったのか、さらに語気を強める。
「お前がダンジョンを世界中に作ったせいで、多くの人が苦しんでいるんだ!」
「具体的には?」
「え?」
「具体的にはどのように人々を苦しめているのでしょう?」
「ダンジョンからあふれたモンスターが人を襲ってるんだぞ!?」
「それはありえません」
「なんだと!」
「原則ダンジョンからモンスターは出てきません。ダンジョンにはモンスターを閉じ込めている【檻】のような機能があります。仮に出てくるとすれば、それはダンジョンそのものが崩壊したときです。しかし、ダンジョンを崩壊させる際は、必ず家の者が数名、有力な探索者を雇い担当させています」
「自然に崩壊したダンジョンが・・・・・・」
「ダンジョンは自然に崩壊はしません。ダンジョン内の最奥ダンジョンマスターの部屋のさらに奥にある【ダンジョン核】を破壊しない限り崩壊を起こしません。ちなみにですが、ダンジョン核の硬度は、最上位魔法の一撃でやっと破壊できる代物です。自然崩壊するようなものではありません」
「テスラが僕に嘘をついていると!?」
「やはり、あの腹黒女・・・・・・いえ【巫女】の仕業ですか」
トムはあの見た目だけは良い【巫女】の顔を思い出しながらため息を大きく吐く。この問答の間、他の八偉人達はメイドにお茶の準備をさせて、謁見の間でティータイムを始めており【槍神】オイゲンなどから
「よ!さすが【ダンジョン王】!詳しい!」などの茶々入れがあった。『謁見の間でお茶とかいいのかよ』と思ったトムがチラ見すると、そこにはお茶をすする王の姿もあったため、手で顔を覆った。
「嘘だ!お前いい加減な事ばかり言うな!」
「いや事実のみを申し上げておりますが・・・・・・」
「決闘だ!僕が勝ったら今すぐダンジョンを全て取り壊せ!」
決闘という言葉に、レベッカや他の偉人たちも沸き立つ。退屈しのぎにもってこいだと思ったのだろう。
「いや、それはお断り」
「その決闘受けてたとう」
王がトムの返答をさえぎり、決闘を受けてしまう。国際問題になる前に個人の決闘で済ませてしまおうと考えているのだろう。それを察したトムは王を睨むが、王はどこ吹く風と吹けてもいない口笛を吹いて目をそらす。王のそばにいた執事が、先ほどからトムに平謝りしている。
「良いじゃねえか面白そうだ」
「お兄ちゃんの戦ってるとこみたい」
能天気な八偉人はこれ幸いと煽り立て、トムは諦めて決闘の場へと向かった。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
なんかトムが決闘ばかりしている気が・・・・・・




