二回目の授業
ダンジョン学の講義室には、マリーをはじめとする生徒が集まっていた。そこにトムが、入ってくる。最初の授業のような動揺やざわめきは無く誰もトムが教壇に立つことに文句を言わない。トムの実力があの【剣聖】と同等であるという事を、その目で見たのだ。あの戦闘を見て、自分たちとトムの実力の差が、天と地ほどあることを察した。
「良し、みんな装備を付けて、すぐに【大広場】に移動してくれ」
トムはそう言うと教室から出て行った。全員ザワザワとお互いの顔を見合わせながら、自分の装備を取りに行く。
全員フル装備で【大広場】に来ると、ただ、雑草が茂っていただけだったはずのそこには、外周を囲むように土でできた大きなトンネルが設置されていた。そのトンネルの入り口に、トムが立っている。
「ほんの二、三日前まで、何もなかったわよね、ここ」
エリーゼが唖然としながら見ている。他の生徒も口を開け呆然としている。一人を除いて。
「さすが、兄さんです」
相変わらず、マリーはトムに対して尊敬のまなざしを一層濃くして注いでいる。
「良し、全員そろったな、じゃあこれからやる事を説明する。その前に」
そう言って、全員を見回し魔法使いであろう生徒に向かって言う。
「魔法使いの人たちは、もし、探索者を目指すならショートワンドに替えた方がいい。小回りの利かないロングワンドはダンジョン内で自身の動きを制限してしまう。それと、杖は基本二本は持っておくこと。あと杖の他にもナイフなどの副武器は持っておいた方がいい」
ここまで聴いた魔法使いの生徒が手を上げる。
「それは、なぜですか」
「ロングワンドは、荷物がかさばる。それに、ロングワンドは魔法発動までにショートワンドに比べて二
秒ほどの差がある。この二秒はダンジョン内では致命的だ。二本持つのは、ダンジョン内の罠で杖を失うことが多い。その時に、予備の杖があれば対処ができる。基本的に罠には魔物がセットだ。罠にかかったヤツを魔物が襲ってくる。その時、二本目の杖があれば対処できる。副武器をもてって言うのも同じだな。杖を失ったからと言って、すぐに、ダンジョン内から脱出できるわけじゃない。ダンジョンから脱出するときにも魔物は容赦なく襲ってくる。その時に、魔法が使えないから戦えませんじゃすぐに死ぬ」
生徒はいまいち納得いかないといった顔だがひきさがった。それを見てトムは、内心盛大にため息を吐く。『ダンジョンがどんなところか知らないんだろうなぁ』気を取り直し、トムは今回の授業を説明する。
「来い、【土塊】」
そういうと、トムの横の地面が盛り上がり、中から屈強そうな褐色の男性が出てきた。ガテン系な男性は生徒にサムズアップして歯を見せて笑う。歯の端がキラっと光った気がした。
「おう!お前らがトムの生徒か!俺が作った【疑似ダンジョン】楽しんでくれよ!」
やたらハキハキと大きな声で【土塊】が喋る。
「これが、おれが契約してる精霊の一人、土精霊の【土塊】だ。こいつに頼んで作ってもらったのが、このアスレチック【疑似ダンジョン】。このアスレチックを、コンスタントに十五分で踏破できるようになることが当面の課題だ」
「面白そうだな!」
ドレットは、笑顔で拳を打ち合わせ気合十分だった。
「一人で踏破しなきゃいけないの?」
エリーゼはトムに聞く。
「そこも自由だ。このダンジョンを踏破するなら何でもいい、危なくなったら、オレが助けに入るから安心していい。と言っても魔物はいないから大丈夫だと思うけど」
全員が、各々パーティーを組んだり、一人で中に入ろうと準備を始める。
「マリー一緒に行こう!」
「えぇ行きましょう」
クロムがマリーを誘いパーティーを組んでいるとエリーゼたちもやってきた。
「私たちも混ぜてくれる?」
エリーゼが言うとマリーも承諾し、マリー、クロム、エリーゼ、ドレット、リコの五人がパーティを組むことになった。
「お互いできる事を確認しましょう」
マリーが言うとクロムから順に自分の出来ることを説明する。
「私は魔拳師です。魔力の身体強化とこの手甲に魔力を流して殴るのが基本的な戦闘スタイルです」
次にドレットが話しだす。
「俺は槌師なんだが、たぶん、ダンジョン内だと動きづらいから、今回はそこの子と同じく手甲で戦う」
そう言って、手甲を見せる。
「私は、魔剣士ね、火魔法と風魔法が使えるわ」
エリーゼが話し終わった後、リコがおずおずと話しだす。
「わ、私は魔盾師です。一応、回復魔法と土魔法、光魔法が使えます。あと、魔眼もちで、相手の魔力の流れが見えます」
「魔眼?あぁだからあの決闘の時、トムが身体強化してないって分かったのね」
「は、ハイ」
この世界に魔眼もちがいることは常識であるが数は少なく、その魔眼の効力は多岐にわたるため、重宝されていた。
「最後に私は、水魔法、氷魔法、風魔法、光魔法が使えます」
「さすが、トムの妹ね、四つも属性魔法が使えるなんて」
エリーゼが驚きに目を向けると、マリーは照れたように顔を伏せる。
「いえいえ、そんな、兄さんに比べればまだまだです」
「「「「それは比べる相手が間違ってる」」」」
そのあと、全員でどう動くかを話し合っているとトムが話しかけてきた。
「お前ら、いつまで話し合ってんだよ、もうみんな行っちまったぞ」
その言葉に周りを見回してみると、自分たち以外誰もいなかった。もう全員潜ったらしい。
「それでは行きましょうか」
エリーゼが言うと全員がトンネルの入り口に入っていく。マリーは見送ってくれるトムを一瞥し背筋に悪寒が走った。兄妹としての勘がうるさいくらいに警鐘を鳴らす。『これは、気を引き締めなければまずいかもしれませんね・・・・・・』入り口を抜けた先で全員に自分の不安を告げる。これはダンジョンで大事な事だ。ダンジョン内では、パーティーメンバーとは密に情報交換しなければならない。それがたとえ勘という極めて曖昧なものであったとしてもだ。
「皆さん、気を付けてゆっくり行きましょう。嫌な予感がします。兄さんはこのダンジョンに何か仕込んでいるかもしれません」
その言葉に全員が息を呑み、真剣にお互いを見て頷く。そして、前へ進みだした。
彼らはまだ知らない。ここは、トムの感覚で作った【教育用疑似ダンジョン】だという事を。
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