試合
魔物騒動もウソのように元に戻った高等部グラウンドにて、トムとレベッカはお互いに向かい合っていた。
「トム、本気でお願いね」
笑顔で言うレベッカに対し、心底嫌そうな顔のトムは渋々頷く。
「兄さん、持ってきました!」
「マリーありがとう」
マリーから、刀と白いローブを受け取る。軽やかにローブを羽織り刀を腰にさした。マリーは、いつの間にかできていた見物人たちのもとに行く。そこには、エリーゼたちも勢ぞろいしていた。群集の中から、理事長のライラが出てきて向かい合う二人の間に立つ。
「出来れば中止してほしいんだけど」
「俺はそうしたいけど」
「ぜっったいやる!」
「これだからな」
トムは、肩をすくめる。ライラはため息をつき、ロングワンドで地面を叩く、すると叩いた地面を中心にドーム状に障壁が展開された。
「これなら、他に被害は出ないでしょう」
そう言って、ライラは障壁の外に行った。
「思いっきりできるね!」
「悲しいことにな」
レベッカは満面の笑み、トムは絶望の表情の中、レベッカもトムも剣を構える。
「ブーストアップ!」
レベッカの体が輝きすさまじい速さで肉薄する。聴衆からどよめきが起こる中、トムは刀を横に持ち、両手で支え、レベッカの振り下ろされる剣を受け止める。
ドオオオン……大きな岩が落ちたかのような音と衝撃が障壁をビリビリと振動させる。舞い上がった土煙が晴れるとそこには鍔迫り合いするトムとレベッカの姿があった。レベッカは本当に嬉しそうに、恍惚とした表情をしてる。
「はああぁぁぁああ、さすがトム」
「お前、ホント戦闘狂だよな、そんな顔じゃお嫁に行けないぞ」
「トムに貰ってもらうから大丈夫よ」
二人は、剣に力を籠め、お互いに距離を取る。
「おいおい、たった一撃であれかよ、てか、あの一撃を受けられるトムもすげぇな」
「相当、身体強化してるんでしょうね」
ドレットとエリーゼが凄まじい激突を分析していると、リコがおどおどしながら訂正する。
「あの、トムさんは身体強化を使ったません」
「「へ?」」
「リコさんの言う通りですよ。兄さんは身体強化を使っていません。というより使えません」
「マリー、どういう事?」
クロムがマリーに説明を求める。
「兄さんは、魔法が使えないの」
「でも、私たちを助けてくれた時、使ってたよ?」
「あれは、魔法では無く、精霊術よ。兄さんは今、六体の精霊と契約してる。その精霊に魔力を渡すため、魔法を行使できるほど魔力の余裕がないの。そもそも、兄さんは魔力操作が生まれつきできないのよ」
「じゃあ、トムは生身であの剣撃を受けたってことかよ」
「信じられないわね」
ドレットが目を見開きながら訊く。マリーは、話している間にも戦っている二人の激戦を見ながら答える。
「兄さんは、魔法が使えない、魔力操作もできないと聞いたとき、何でもないように次の日から自分の体
を鍛え始めました。その努力の賜物です」
マリーは両手を握りしめ祈るように戦いを見つめる。
互いの剣撃を防ぎ、いなし、躱しながら二人は剣を交わしていた。
「アハハハハハハハハ!楽しいね!」
言動は狂っているが、その剣筋は剣聖の名に恥じない流麗で美しいものだった。トムは、激しい猛攻を反射神経のみで目視してから防いでいく。
「戦闘狂の相手は疲れるな」
トムはため息をつきながらレベッカの剣を受け止める。二人は向かい合った状態で何度目か分からない鍔迫り合いをする。するとレベッカが口を開いた。
「ん~、そろそろ、体が温まってきたかな、準備運動はこの辺でおしまい!本気で殺ろうよ」
レベッカの雰囲気が一気に変わる。明かな殺気は、そこに獰猛な獅子の幻影を見せる。トムは冷や汗を流しながら、笑った。
「殺す気かっつーの、でもそうだな、そろそろ終わりたいからな。」
トムの雰囲気も一変する。濃密な気迫は、牙むき出しの狼の幻影を成す。濃すぎる殺気同士のぶつかり合いは、まるで、雷が落ちたかのように空気を震わせる。先に動いたのはトムだった。刀に力を籠め、レベッカを吹き飛ばしながら後ろに跳び距離を取る。
「行くぞ、【辻風】」
トムの言葉と同時に白い刀身が淡い緑に変わっていく。舞っていた土ぼこりがその刀の周りを一瞬渦を巻き消えた。
「斬破・四十雀」
トムは刀を構え横なぎに振るうと斬撃が鋭い風を帯び、それが四十の鳥の形になり、レベッカに向かって行く。レベッカは笑みを消し真剣な顔で魔法を唱える。
「聖なる力を!【ライトニングフォース】!」
レベッカの体が光に包まれる。迫りくる斬撃の群れを信じられない速さで全て切り落としていく、一発の斬撃がレベッカの足元に着弾し土煙を舞い上げる。その土煙からトムが刀を鞘にしまった状態で突っ込んできた。驚き、レベッカは後ろに跳ぼうとするが、トムが跳ぶよりも早く抜刀する。
「【鳶斬り】」
トムが切った場所から竜巻が起きる。レベッカは竜巻に呑まれ上空に飛ばされる。竜巻は空気を切り裂きキンキンと鋭い音を立ていた、竜巻が消えるとそこには頬に傷をつけたレベッカが嬉しそうに笑い剣をトムに向ける。
「【ライトニング・トレイス】」
レベッカ自身が光に変換されトムの後ろに一瞬で移動する。トムは振り向くがレベッカの剣で胸を斬られる。服は着られたがなんとか薄皮一枚斬られるだけで済んだトムはレベッカの次撃をいなし続ける。
「纏え、火竜の息吹【サラマンダーブースト】」
レベッカの剣が真紅の炎に包まれる。炎は渦を巻き、まくり返しながらボボッと音を立てている。それを見たトムは急いで呟く。
「【枯山水】」
刀が淡い緑から蒼く変わる。風が消え、水が滴る。
「【サラマンダーテイル】!」
レベッカが燃え盛る剣を振りかざす。
「【油凪】!」
トムは水しぶきを刀から出しながら刀を振り上げる。二人の剣と刀が触れ合う。その瞬間、時が一瞬止まったかのような静寂。次の瞬間、地を割るような大きな爆発音とともに衝撃波が波及し、結界を揺らす。結界内は霧が覆いつくしていた。
霧が晴れると、そこにはお互い結界の端まで吹き飛ばされ倒れ込む二人がいた。ライラはすぐに結界を解除し、二人を医務室に運ぶように指示した。マリーはトムの下に駆け寄る。
「兄さん!」
トムは、ゆっくりと力なく右手を上げ、弱弱しく振る。
トムが目を覚まし隣を見ると同じくレベッカが起きたところだった。レベッカはトムと目が合うといたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「トム、楽しかったよ。またやろう」
「勘弁してくれ」
嫌そうにレベッカに背を向けようとしたとき、また呼びかけられる。
「トム」
「なんだよ」
振り向くとそこには、慈しみに満ちた優しい笑顔があった。
「おかえり」
トムは少し顔を赤くしながら答える。
「ただいま」
二人は、柔らかい空気に身を任せ、また眠りについた。
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