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ダンジョンマスターへの道

「勇者よ、最深部への到達歓迎します。」

「…へ?」

「さぁ、そのオーブに手を触れ、我がマスターと…」

「ちょちょちょ、ちょっと待って。」

「いかがなされた?あなたはこのダンジョンのマスターになる資格を得た。迷宮の契約により…」

「いや、でも、大丈夫なの?」

「?」

「勇者も何も、レベル1なんですけど?」

「…」

「冒険も今日初めてだし。」

「…」


話は半日ほど遡る。

僕はマリオ、マリオ・バーチス。

バーチス家の三男坊。

自分で言うのもアレだけど、何の取り柄も無いどこにでもいる男だ。

父は昔は冒険者だったらしく、母はその当時の父を慕って結婚したらしい。

でも二人ともあまり昔の話をしたがらず、聞いてもいつもはぐらかされる。

ただ、嫌がるのじゃなく恥ずかしそうにしているので黒歴史ではないと思うんだけど。

冒険してた頃の稼ぎで城下町から少し離れた郊外に一軒家を建て、家族仲良く暮らしている。

父は毎日二時間かけて城下町の剣技道場まで通い、そこで師範として働いているらし…。


バン!

勢いよくドアが開けられる。

「おはよう、もう用意は出来たか?」

…兄だ。

…苦手な方の。

「おはよう。用意って言っても大した物は持ってないけどね。」

「はは、可愛い弟の初陣だ。兄ちゃんはあまり眠れなかったよ。」

「…それはゴメンよ。」

本気で言ってるんだと思う。

そして悪気も微塵も無い。

だから、苦手なんだと思う。

…わかってる、ただの劣等感だ。

「マリオはちゃんと眠れたか?まぁ、今日は雰囲気だけでも味わって、俺たちの後ろにいればいいから。」

「わかってる。信用してるよ。」

「よし、じゃあ行こうか!」


この国では15才になると大人とみなされる。

いわゆる成人だ。

バーチス家は父の仕事以外にこの地方特産のコスの実を栽培、収穫している。

もちろん母だけでそんな重労働しているわけではない。

離れには使用人を何人か住まわせ、母屋には執事もいるので、家柄としては中流になるのだろうか?

疑問符なのは、自分が三男坊だからだろう。

生まれた時から使用人も執事もとても良くしてくれた。

だが、もちろんこの家を継ぐのは長男。

自分はいずれここから出ないといけないのだ。


「今日の陣形はもちろん俺とライルが先頭、リザとユッカが中盤、マリオは殿な。」

「だよね。」

「うん、慣れてきたら中盤を任せるようになるから。」

「わかった。」

「でも本当にいいのか?こう言っちゃなんだがお前に戦いは不向きだと思うんだが。」


悪気は無い。

「自分でもわかってるよ。」

「まぁ何事も経験だからな。もしやっていけないと感じたなら…。」

「廃業するよ。」


説明が遅れたが、次男ガンツについて。

自分より二つ年上で…一言で表すなら真逆。

ポジティブで強引で人当たりも良く、何より剣の腕は弟の目で見ても一流なんじゃないだろうか。

がさつでデリカシーに欠ける面はあるが、ガンツを慕っている女の子も少なくない。

ネガティヴで人見知りが激しく、どれだけ剣の修行をしても全く上達しない僕とは大違いだ。

女性関係は言わずもがな。


「おっ、来た来た。よく眠れたかい?」

「久しぶりね。元気そうで何より。」

「ライルもユッカも相変わらずだね。今日はよろしくお願いします。」

「まぁ今日はお試しだから、日が落ちる前には帰れるさ。」


ライルはガンツと同じく前衛で戦う剣士。

腕前は兄より少し落ちるが、レベルはなかなかのものらしい。

ユッカは火の魔法が得意で、同い年の魔法使いの中では注目株との噂だ。

二人ともガンツと一緒に冒険を始めて、めきめき実力を上げている。


「マリオ、あまり無理はしないでね。」

「…うん。」

「はは、リザは心配性だな。俺たちがいるから大丈夫だよ。」

「マリオはガンツとは違うの。優しい子なんだから。」

「んー、俺が優しくないみたいな口振りだな。リザの過保護ぶりも度を越すとマリオのためにはならないぞ。」

「そうだけど…。」

(その「そうだけど」はどっちに対してだよ)


リザ、エリザベスは僕の一つ上で、僕ら兄弟の幼なじみ。

昔から過保護で、何かあればちょいちょい僕をかばう発言をする。

本来リザも冒険をするようなタイプではないお嬢様なのだが、去年ガンツの猛烈な勧誘でパーティに加入して回復や補助の役目を担っている。

それがパーティから回復役が脱退したせいか、ガンツが前からリザを好きなせいかはわからないが。

長男のフィルはどうだか聞いた事は無いけど、僕が冒険者を選んだ理由の一つでもある。

リザはこの地方唯一の教会で育ち、そのため神聖魔法を使える貴重な存在なので、冒険者の間では二つの意味で引っ張りだこだ。

教会育ちに相応しい綺麗な顔立ち、透き通る肌、仕草や言葉の端々に感じる上品さ。

ここいらでリザに憧れてない若者なんかいるんだろうか。


「さぁ無駄話もその辺にしてそろそろ出発しようか。」

「…そ、そうだね。」

「目指せダンジョンマスター、だな。」


ダンジョンマスター。

この世界にはいくつものダンジョンが存在する。

大きさ、規模は様々で、階層が深いほど難易度は高くなる。

中にはいろいろな魔物が徘徊していて、冒険者は魔物を倒し得られる物で生計を立てている。

またダンジョンには武器や防具や装飾品なども見つかる事があり、奥へ進むほどお宝のレベルは上がり、価値、売却値段も段違いになる。

そのお宝の中には稀に魔力を秘めた物もあり、運良くそれを手にした冒険者はさらなる強さと名声を得る。

そして、ダンジョンの最深部に到達する事が出来れば、その迷宮を支配する権利を得られる。

それが全ての冒険者が目指すダンジョンマスター。

この世界でも数えるほどしか存在せず、より深いダンジョンを制覇した者は、そこいらの小さな国の王より大きな名声や権力や富を手に入れられる、らしい。

…この地方にはダンジョンを制覇した英雄はいないので、あくまで噂でしかないのだが。


30分ほどでダンジョンのある遺跡には到着し、皆が潜る準備をしている時に、僕はかねてからの疑問を口にしてみた。

「ねぇ、ライル。」

「ん?どうした、マリオ。」

「初歩的な質問なんだけど、このダンジョンって何層まであるの?」

「どうなんだろうな。なんせまだ誰も踏破してないダンジョンだからな。」

「…なるほど。」

「ここだけの話だが、このダンジョン、世界で一番の深さらしいぞ。」

「マジで?何でわかるの?」

「この世界で一番有名なダンジョンマスター知ってるよな?」

「うん、確か勇者エリアスとか…。」

「そうだ。俺らより一世代上の勇者、北の国のダンジョンを制覇した英雄だ。」

「僕でもわかるよ。」

「そのダンジョンは地下200階だったんだ。」

「そうなんだ。」

「で、もちろんこのダンジョンを制覇しようとチャレンジした奴も山ほどいるんだけど、ある名うての冒険者が到達した階数が…」

「…うん。」

「452階だったそうなんだ。」

「…嘘でしょ?」

「いや、事実なんだ。」

「何でわかるの?」

「何でって、知らないのか?その冒険者が…」

「ライル。そろそろ行くぞ。」

「あ、そうだな。」

冒険前の無駄話は、今度はガンツに遮られてしまった。


入口は広々としてるが少し湿っぽく感じる。

転ばないようにしないとな。

「マリオ、転ばないようにね。」

…過保護になるのはわかるが、リザから見てもよほど頼りないんだろうな。

いよいよ情けなくなってくるよ。


この時はまだ自分に降りかかる波乱万丈な冒険なんて知る由もなかったんだ…。

まさか、自分が世界で一番偉大なダンジョンマスターになろうとは。


冒険初日で。

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