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98 ようやく、彼の悲願は達成されるのか――?

 どこまでも広がる、お花畑の世界。牧歌的なその場所に、加賀見太陽一行は出現した。


「久しぶりじゃのう。相変わらず、面白いことやっておるようじゃな」


 お花畑の中心には、マッサージ椅子に座って足湯に浸かっているおじいちゃんが一人。ふざけた様子のクソ爺だが、これでも歴とした神だったりする。


「……そういえば俺、神様とも面識あったっけ。存在を忘れてた」


「酷い奴じゃ。最近、女の子にチヤホヤされているからって調子に乗るなよ? お主が幸せだと、儂が楽しくないのじゃが」


「人の不幸を楽しむとか、性格悪いな。神様なんだから、もう少し慈愛を見せてくれない?」


「阿呆が。神だから、性格悪いのじゃ。ヘパイストスとか、タナトスとか、あの辺の連中を見てたら分かるじゃろう?」


 ゼウスは白い顎鬚を撫でながら、太陽に軽口を返す。相変わらずの飄々とした態度に、太陽は息をついた。


「そうだな。とりあえず、あの場から離脱させてくれたのは感謝しておく。二人を守ってくれて、ありがとう」


「……なんじゃ、急に大人になって。儂は童貞であたふたしながらも、他を蹴落としてまで女性と仲良くなろうとしていた頃のお主が好きじゃぞ?」


「そ、そそそそんなに性格悪くねぇよ!? まあ、ちょっと前までは必死すぎてたかなって、反省はしてる」


 目を逸らす太陽。今でも割と童貞の必死感が出ててあれなのだが、それでも一時期よりは大分マシになっている。


「まあ良いのじゃがな。今のお主は、それはそれで面白い。自分ではなく、他のために戦うその心構えは悪くない……加えて、他のために神をも殺そうとするその愚かさは、むしろ好みじゃ」


 笑うゼウスは、心からこの状況を楽しんでいるようだった。


「もっと儂は、お主で楽しみたくてのう……故に、普段は傍観を貫いているのじゃが、手を出させてもらった。今のままでは、お主に不利すぎる。せめて、勝てるという『可能性』を、与えてやろう」


 神タナトスとの戦い。太陽は神様ぶっ殺すと意気込んでいるが、現状では戦いにすらならないとゼウスは言い切る。それほどまでに、神は次元が違う存在なのだ。


「で、どうすれば殺せるの? 前、人間界でヘパイストス殺したし、あれと同じように殺せないってわけではないよな?」


 以前のことだ。邪心の討伐を太陽はしたことがある。その時、一時的ではあるがヘパイストスを葬ることが出来た。


「うむ。神が現世に顕現する際、その身は絶対ではなくなる。一定のダメージ量を与えれば現世に留まる力を失い、神の世界へと戻る。概念として存在は続けるが、現世からしてみれば、これが神にとって『死』となるのじゃ」


 ダメージを与えれば、殺せないことはない。

 だが、ヘパイストスと同じように、全てが簡単にいくわけではないらしく。


「神は現世で力を使う際、自らへの『信仰』を用いる。この信仰が多ければ多いほど、神は現世で大きな力を使えると言うわけじゃ」


 ヘパイストスは、魔剣を冒険者に与えることで自我を壊し、そこから信仰を無理矢理に奪って力を発動させていた。だが、それでは弱すぎたために、太陽に呆気なく負けてしまったのである。


「タナトスは、天使を信徒として莫大な信仰を集めておる。今のあれは、お主らにとってまさしく神に近い存在じゃよ。今の小僧でも、勝てぬじゃろうな」


 現在のタナトスは、絶大な力を持っている。それこそ、一生物である太陽に勝てるわけがないと、ゼウスが断言できるくらいには。


「そうか? 聞いてみた感じ、やりようによっては殺せそうって気しかしないんだけど」


「ふぇっふぇっふぇ……正直なところ、お主は儂でも理解できん化物じゃからな。殺せないと今は言い切れるが、実際に戦ってみるとどうなるか分からん。故に、楽しみでもあるのじゃが」


 不遜な太陽にゼウスは目を細めている。神様から見ても加賀見太陽は規格外らしい。


「じゃが、お主でない者が死ぬのは確かじゃ。そこの、小僧の後ろに隠れている二人は、まず間違いないと言わせてもらおうかのう」


 と、ここでゼウスはリリンとゼータに目を向けた。それだけで二人はビクンと体を揺らし、太陽にギュッと身を寄せてくる。


「ちょ、ちょっと、あれ何よっ……神様なの? 本当に? オーラが、凄いんだけどっ」


「……ごしゅじんさまぁ」


 二人とも神様オーラに怯えていたようだ、平気な太陽が異常すぎるだけで、これくらいの反応が普通ともいえる。


「怯えなくとも良い。儂の興味はそこの童貞小僧にしかないからのう」


「童貞って言うな。あと、ゼータとリリンを怖がらせるな。殴るぞ?」


「お主に殴られたらたまらんわい」


 そう言って、ゼウスは太陽に一つの提案をした。


「二人を死なせたくないのじゃろう? 儂が手を貸してやる」


「手を貸すって……何するんだ?」


「儂の加護を、そこの小さな魔族に与えてやろう。全能なるゼウスの加護じゃ。お主とタナトスの戦いでも、死なないくらいに役立つじゃろうて」


 まず、リリンに向けてゼウスは手を受けた。放たれた光はリリンの体内に吸収され、加護という形となって定着する。


「今のお主たち二人は、主と使い魔じゃからな。引き離すと弱くなるじゃろうし、それでは面白くない。仲間に気兼ねなく、お主は全力で戦うといい」


 自分が面白くなるためなら手間を惜しまないゼウス。理由はなんであれ、その提案が悪いものでないことは、太陽自身が誰よりも理解していた。


「助かる。で、ゼータはどうするんだ?」


「そこの人形は、この世界で保護する。最終決戦には連れて行かないほうが良いと、進言しておく」


 そして、ゼウスはゼータの待機を言い放った。これからの戦いにおいて、足手まといにしかならないという神の一言に、ゼータは太陽を握る手に力を込める。


「……離れたくない、というのはゼータのわがままですね」


 一度、離れ離れになって以来、彼女は過剰なまでに太陽のそばに居続けた。少しの間だろうと、ずっと一緒にいたがっていた。


 だが、今回ばかりは一緒に行けないと、彼女本人も理解しているようで。


「承知しました。ゼータは、待機しております。でも、その前に少しだけ――お時間を、いただけないでしょうか? ゼータとご主人様の二人で、お話をさせてくださいませ」


 俯く彼女は、そう言い放つや否や返事も待たずに太陽を引っ張った。


「あ、ああ……ゼータ? その、あまり心配することないぞ? サクッと殺して、戻ってくるから」


 二人きりになって、太陽は心配不要と断言する。不安がっているであろうゼータを、安心させるために紡いだ一言だが。


「知っております。ご主人様が、負けるわけありませんので」


 それはどうでも良いのだとゼータは首を振った。不安を感じているわけではないらしい。

 というか、その顔はほんのり赤くなっていた。


 何が言いたいのだろうと、太陽が首を傾げた――そんな時。


「でも、ご褒美は、今あげたいと思います。ちょっとだけ、早いですが……どうぞ、遠慮なく」


 ゼータが、おもむろに服をはだけさせた。露出された大きな胸の谷間に、太陽は目を見開く。


「――――」


 すぐに何も言えなくなった彼に、ゼータはそわそわと焦らすように体を揺らしながら……こんなことを、口にするのであった。


「触っても、良いですよ?」


 それは、太陽がずっと望んでいたこと。




 おっぱいを、触っても良い。




「ま、じ、かよっ」


 そう、ゼータは言ったのである――

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