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8 邪神ヘパイストスの登場だヨ☆ボ●キしたら許さないんだから♪

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名前:ゼータ

種族:魔法人形(ゴーレム)

職業:使用人

属性:土属性

魔力:A

スキル:【土属性魔法適性】【家事万能】

冒険者ランク:なし(無所属のため)

二つ名:【ゼータ型魔法人形】

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『ァー、ゥー』


 ニョルズ洞窟に入ってすぐのこと。

 太陽とゼータは一人の人間に出くわした。


「こいつ……冒険者ギルドの奴か?」


 鎧やら武器やらを装備するその姿を見て、太陽はふむふむと頷く。


「しかし意識はないようだな……もしかして、持ってる剣のせい? どう思う、ゼータ?」


 ふらついた足取りで、唸りながら歩く冒険者。意識はないようだがゾンビのように動いている。


 その手には、黒くて禍々しい剣が握られていた。


「十中八九、その武器のせいでしょう。邪悪な魔力を感じますので」


「……なるほど。これが魔剣なのか」


 ニョルズ洞窟に潜んでいるのは【ヘパイストス】という鍛冶を司る神様らしい。恐らく彼女が打った剣を持っているのだろうと太陽は推測する。


「お、じゃあ邪神討伐に行って帰ってこなくなった奴らって、教徒になったのではなく魔剣に魅入られたってことになるのな。ふーん」


 我を失い、魔剣に体を乗っ取られた冒険者。この様では帰ってこれなくなるのも無理はない。


「とりあえず意識を奪って、魔剣を取り上げればいいだろ。ゼータ、行け!」


「指図しないでくださいませ。調子に乗ってるのですか?」


「……ご、ごめん」


 使用人にあるまじき事を言いながらも、ゼータは前へ出る。魔剣に意識を奪われている冒険者に向かって彼女は魔法を放った。


「【錬成(クリエイト)巨人の右腕(ジャイアントアーム)】」


 瞬間、冒険者の足元から巨大な右腕が出現する。

 土属性上級魔法【錬成(クリエイト)】の魔法である。これがあるから、洞窟は土属性の独壇場と言われるのだ。


「【錬成(クリエイト)巨人の右足(ジャイアントレグ)】」


 今度は天井から足を。冒険者の頭を押しつぶすようにして、魔法を放つゼータ。魔法人形故か一切の容赦がなかった。


「お、おい。殺さない程度で……」


「…………残念ながら、死んではいませんね」


 あまりの攻撃に冒険者の生命を心配する太陽だが、一方のゼータは心配する余裕などないようだった。


「流石は魔剣、といったところでしょうか」


 土煙が晴れる。しかしそこには未だに冒険者が佇んでおり、ゼータが魔法で構築した腕や足はどこにもなかった。


「全て切り刻まれております。ちょっと、ゼータでは勝てそうにないかもしれません」


 冒険者の足元には粉々になった岩石が見える。それを見て、彼女の攻撃が無力化されたのだと太陽は気づいた。


「恐らくは、Sランク冒険者……勇者の称号を持つ強者が相手では、ゼータが勝てるはずもありません」


 勇者を名乗る資格を得る、ランクSの冒険者。ゼータは高性能な魔法人形ゴーレムといえど、その実力はせいぜいがランクA程度だ。


「なので、帰ってもよろしいでしょうか」


「諦め早いな……」


 途端にやる気をなくしたのか、ゼータはめんどくさそうに岩壁にもたれかかっている。


「仕方ないな。ほら、ドーピングしてやるからこっち来い」


「イヤです」


「休み三日あげるって言っただろ」


「……くっ。報酬を餌に体を求めるとは、下劣なご主人様です」


「人聞きの悪いこと言うなよ。仕方ないことだし」


 そう言って仕方なく太陽の方からゼータに歩み寄り、その背中に触れる。


「セクハラです」


「我慢しろ……よし、送るぞ」


 魔法人形のくせにやけに柔らかい背中。そこに触れる手のひらから、太陽は魔力を送る。


 これこそが太陽の言っていた『ドーピング』のことである。

 魔法人形は魔力が動力源である。普段は大気中の魔力で自給できているのだが、戦闘となればどうしても魔力が不足してしまう。


 それ故に実力はAランク止まりでしかなかったのだが、太陽の膨大な魔力を与えることによって彼女の力は一気に飛躍するのだ。


「く……ぁ、っ」


 顔を紅潮させながら、思わずといった様子で声を漏らすゼータ。


「……何度もやってるけど、やっぱりエロいなこれ」


「だ、から、イヤなのです……っ。ご主人様程度に、こんな思いをさせられるとは。屈辱……です」


 一定量の魔力を送った後、手を離した途端にゼータは膝をついて荒い息を吐き出した。どうやら他人の魔力を受ける時、言いしれぬ感覚を受けてしまうとのこと。


「この恨みは、あちらの方にぶつけましょうか」


 ふらりと立ち上がって、魔剣を片手に棒立ちしている勇者をゼータは睨みつける。


「【土石魔法付与アディション・ストーンマジック】」


 その体は、茶色く発光して。


「【派生・硬化(ディライブ・スティフェン)】」


 ゼータは、自らの体に付与魔法を展開。更に魔法を派生させて、【硬化】の性質を発現させた。


 上級に分類される【付与魔法・派生】の魔法である。これを展開したことによって、彼女の肉体は一時的に硬度が増すことになる。


「行きます」


 太陽の膨大な魔力を惜しみなくつぎ込んだ付与魔法。硬化された拳を握りしめて、ゼータは思いっきり腕を振った。


『ァー』


 対する冒険者もまた、ゼータに合わせて剣を振るった。拳と剣が激突して、硬く甲高い音が洞窟内に響き渡る。


 そして……


「ふぅ。造作もない」


 ドサリと、冒険者が地面に崩れ落ちた。そのそばには根元から折れた魔剣の刀身が転がっている。


 ゼータの拳に魔剣は負けたのだ。真っ二つに折れた魔剣は持ち主の精神を操ることもできなくなったようで、冒険者はそのまま意識を失ってしまう。


 拳を突き出したゼータは一息つくと、そのまま前方に向かって歩き出した。


「では、参りましょう。さっさと終わらせて、ゼータは一週間の長期休暇を謳歌するのです」


「……いつ許可した? お前が一週間いなくなったら屋敷ごちゃごちゃになるだろ。せめて三日にしてくれ」


 二人でひたすらに歩き続ける。

 道中、現れた魔剣持ちは全てゼータが対処した。ドーピングによって力の増した彼女の実力はランクSの冒険者に等しい。


 魔剣に支配されている冒険者程度なら、容易く処理できる程度には強くなっていたのだ。


 そうして、太陽とゼータは思ったより早く洞窟の最奥に到着する。

 ニョルズ洞窟最深部。そこは、とても美しい場所だった。


「これは、美しいです……人形であるゼータでも、少し感じるものがあります」


 色とりどりの魔法鉱石。それが、地面や天井、岩壁にいたるまであらゆる場所に散りばめられているのだ。中には発光する鉱石もあり、光が淡く溶け合って幻想的な光景を作っているのである。


 そこを前にして、太陽も便乗するように一言。


「君の方が綺麗だよ、ゼータ」


「死ね」


「え? あれ? 今死ねとか言った? ご主人様に向かって暴言吐いた? おいおい、ご主人様が傷ついて死んでもいいのかよ」


「死ね」


 素っ気ない態度に太陽が落ち込む中、不意に甲高い声が響き渡る。


「ん? ナニナニ? ここは炎と鍛冶を司る神【ヘパイストス】ちゃんの神域なんだゾ☆ 勝手に入ってきたらダメなんだからネ♪」


 やけに甘ったるい声だった。何者だと太陽が視線を向ければ、そこにはミニスカ和装の褐色ロリが佇んでいた。


「お、お前が、ヘパイストス……か?」


 血のように紅い瞳と髪の毛は、あまりにも鮮烈で人間味を感じさせなかった。整い過ぎた顔立ちは、この世のものとは思えない美しさを宿している。


「そだヨ! アタシがヘパイストス♪ ヘパちゃんって呼んでネ~」


 が、口調がやはり粘っこく、まるで媚びを売るアイドルのような印象を受けてしまった。神々しさが台無しである。もっと言うなら見た目が幼女なので、美しいというよりは可愛くなっているのがちょっともったいないと太陽は思った。


「キャハ☆ ちなみに今年で17歳です♪」


「……神様だからたぶん年齢とか適当なのは察してるから。とりあえずこっちの話聞いてもらっていいか?」


「セッカチさんめっ。でもそういうの、嫌いじゃないゾっ」


 ウィンクをバッチリ決める神様。ゼウスといいこいつといい神様なんてロクな奴いないなと、太陽は息をつきながら単刀直入に用件を伝えるのだった。


「ヘパイストス。お前がここにいると迷惑らしいから、出ていってほしい。あと、冒険者に魔剣を与えるな。みんな魔剣に取り込まれて廃人になるから」


「え~? ヘパちゃん指図されるの嫌いなので、お断りだヨ☆ ィェィ!」


「……その謎のテンションどうにかならないか? いや、可愛いは可愛いんだけど、なんかむかつく」


「そうナノ? あ、もしかしてヘパちゃんが可愛すぎて勃起しちゃうのカナ? イヤン、ヘパちゃんって罪作りな女☆」


「……この幼女うぜぇな。さっさと討伐するか」


 太陽は年上好きである。おっぱいとかお尻とかに興奮するタイプだ。どちからといえば肉付きの良い女性が好きでもあるので、正反対の属性を持つロリ幼女には興奮など一切しない。


 故に、貧層な体でセクシーポーズをとるヘパイストスを見てもイライラするだけだった。


「ゼータ、やれ!」


「指図しないでくださいませ、ゴミがっ」


「お前どんどん俺の扱い酷くなってないか? なあ、俺お前に何かしたのか?」


「ケッ」


 地面に唾を吐いてから、ゼータはヘパイストスに向かって走り出す。


「正直、あなた様のような可愛い女性を殴るのは気が引けますが……鬼畜なご主人様がやれと言うので、仕方なくやることにします」


「アハッ! 鬼畜とかヘパちゃんの好みかも☆」


 なおも余裕そうにウィンクをかますヘパイストス。彼女へ向かって、ゼータは魔法で強化された拳を思いっきりに振るうのだった。


 ――刹那。


「でもでも、ヘパちゃん痛いの嫌いだかラ♪」


 迫りくるゼータの拳に向かって、ヘパイストスは剣を突き出す。

 いつの間に現れたのか、神の右腕には黒く禍々しい魔剣が握られていた。それが、真っ向からゼータの拳と激突したのだ。


 先程までであれば容易に折っていたはずの魔剣。だが、彼女の持っていた一振りはまるで違ったものだったらしい。


「……折れ、ない」


 ゼータの拳がぶつかっても、その魔剣の刀身は折れていなかった。


「この子はヘパちゃんの傑作だもん☆ 簡単に折れたりしないし……あと、残念だネメイドちゃん。この子に触れちゃったら、もう終わりダ-!」


 魔剣を壊せなかったことに動揺するゼータに、ヘパイストスは無邪気な笑顔を向ける。


「――っ」


 その直後、ゼータの目が白目を剥いた。体がピクピクと痙攣して、途端に四肢を脱力させる。先程までの慄然とした態度はどこにもなく、ただ無気力に佇む廃人と化してしまっていた。


 そんな彼女の姿はまるで、先程も見た魔剣に魅入られた冒険者達のようで……


「ま、さか……ゼータも、魔剣に取り込まれたのか?」


「そうだゾ! 魔剣に触れたが最後、メイドちゃんの意識はこの子に取られちゃった☆」


 ヘパイストスの肯定に、太陽は息を呑むのであった。

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