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7 邪神クエスト

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クエスト名:再臨の邪神

クエスト系統:討伐、または撃退

クエスト内容:西方のニョルズ洞窟奥地に出現した邪神の討伐

討伐ランク:SSS

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 冒険者ギルドのギルド長から聞いた話によると、邪神はフレイヤ王国の西にあるニョルズ洞窟という場所に突如として降臨したらしい。

 ニョルズ洞窟は魔法鉱石の採掘地として有名なのだが、そこに降臨されたせいで色々な人が迷惑しているとのこと。


 報告があってすぐにギルドから腕きき冒険者が討伐に出たところ、完膚無きまでに返り討ちにされてしまったとギルド長は口にした。

 いや、それだけではなく、返り討ちにあった冒険者の一部は邪神の教徒になって帰ってこなくなっているらしい。


 普通の人間では手に負えないということで、太陽にクエストの依頼を出した――という経緯なのだと。


「もしかしたら災厄級クエストより難易度が高いとか……俺いなかったら人類終わってたんじゃね?」


「邪神は手を出さなければ襲ってくることはないので、人類は終わらないです。もう少し考えて言葉を話してください。人間なのですから」


 依頼を受けてすぐのこと。太陽はニョルズ洞窟の入口付近に来ていた。太陽の家からニョルズ洞窟は結構距離があるのだが、王女様の転移魔法でひとっ飛びしたのである。

 一応、国を揺るがしかねない事件なので王女様に転移魔法をお願いしたのだ。

 

「……どうしてゼータもクエストを受けなければならないのですか。非常に不愉快なのですが」


 隣にはメイド服の魔法人形(ゴーレム)――ゼータもいる。今回は彼女にも戦闘を手伝ってもらおうと考えて連れてきたのだ。


「ここ洞窟だからさ。俺の魔法使うと崩れちゃうかもしれないんだよね」


「崩せばいいでしょうに。邪神も一緒に潰れるのでは?」


「王女様に泣きながら頼まれたんだよ。『どうか洞窟を壊さないでください』って」


 魔法鉱石がたくさんとれるニョルズ洞窟は、フレイヤ王国の財政を支える貴重な収入源らしい。

 ここを崩されてはどうにもならないと、王女様に泣きながら土下座されたので太陽は自重することを決めたのだ。


「それに、洞窟って土属性魔法使いの独壇場だし。ゴーレムのゼータも戦いやすいだろ?」


 ゼータ型魔法人形である彼女は何だってできる。掃除から洗濯、炊事はもちろん。戦闘だってお茶の子さいさいだ。


「…………まあ、否定はできませんが」


「だろ? だから、頼むっ。ご主人様の為だと思って頑張ってくれ」


「あ、それは嫌です。なので帰らせていただきます」


「なん、だと……!? じゃあこのクエスト終わったらもう一体魔法人形買う! これでお前の作業量減るぞっ」


「ふむふむ。では、追加で週に三日お休みをくれると約束していただけるなら、頑張ります」


「え? い、今でも二日あげてるのに!? お前この世界の使用人基準だと相当甘やかされてるっていう自覚あるのかっ」


「ないです。ゼータはもっと甘やかされたいです」


「……くっ、分かったよ。週三で休みやる。だから、頑張れ」


「かしこまりました。ゼータは精一杯頑張ろうと思います」


 俗物的なゼータである。太陽はやれやれと息をつきながら、洞窟の方に視線を向けた。


「しかし……邪神か。邪神ってもちろん、神様なんだよな?」


「神という名がついていて神じゃなかったら何になるのでしょうか? ご主人様の思考回路がゼータには理解できません」


「神様かぁ……ちょっと不安だな」


 いくらチート級の力を持っていようとも、相手は神だ。

 負けるかもしれないと太陽は少し心配になっていた。せめて事前情報くらいは知りたいなと、彼は少し考え込む。


「……よし、あいつに聞くか」


 次いで、彼はおもむろに目を閉じた。そのまま体から力を抜いて、心の中で大きく呼びかける。


――神様、ちょっと話があるんだけど!


 そして、彼の意識は飛んだ。

 刹那の時間。彼の魂は肉体から天へと昇る。


 そこは、雲の上の世界だった。牧歌的な景色がどこまでも広がるその中に、太陽の意識は降り立つ。


「ふぇっふぇっふぇ……おう、元気そうじゃのう。たいへい」


 その世界には、一人の老人がいた。

 真っ白の服を身にまとい、真っ白のひげと髪の毛を長く伸ばしたその老人の正体は――


「神様、俺は太陽だ。たいへいじゃない。ぼけてんじゃねぇよ」


 ――神。またの名をゼウス。この老人こそが太陽を地球から異世界ミーマメイスに転生させた存在である。


「たいよう? 誰じゃお前、名を名乗れ!」


「名乗ってるし、顔見知りだし、いいかげんにボケたフリするのはやめろ」


 うんざりしたようにそう言い捨てると、神様は長いひげをなでながら陽気に笑う。


「ふぇっふぇっふぇ……爺の道楽じゃて。若者はせっかちでいかんのう」


「なんで爺の道楽に付き合わないといけないんだ……どうせなら綺麗な女神様が良かったのに」


「残念、爺でした~。どう? 今どんな気持ちじゃ? 怒ってる? 怒ってるじゃろ?」


「うぜぇんだよ! だいたい、お前がモテるからって言って炎系統のスキルもらったのに、未だにモテないんだけど!? もっとカッコいい能力寄越せば良かったのにっ」


「いい気味じゃ。他者の言うことなんぞ信じるから後悔することになるのじゃろうよ。思い知ったか!」


 顔を合わせて早々にギャーギャー喚きあう二人。仲が良いのか悪いのか判断しづらかった。


「なんじゃお主。文句言うくらいならここに来なければ良かっただろうに。というか、来るなって感じなのじゃが」


「お前がいつでも来ていいっつーから来たんだよ……まあ、事情があってさ」


 そこでようやく、太陽は本題へと入る。


「今、俺のいる世界に『邪神』がいるらしいんだけど、何か知ってない?」


 異世界ミーマメイスに降臨した神について、彼は同じ神であるゼウスに問いかける。


「うむ、知っておるぞ。確か我が娘である【ヘパイストス】が暇潰しに行っておるようじゃが」


「神様の娘だったのかよ……」


 途端に脱力する太陽。言いたいことは山ほどあったが、とりあえず一言。


「娘の教育はきちんとしろよ爺」


「面目ない。あれは我がままなじゃじゃ馬でな……儂の言うことをまったく聞かん娘じゃった」


 暇つぶしに降臨されて人間はとても困っているのだ。そのあたりゼウスも分かっているのだろう。少しだけ申し訳なさそうだった。


「ちなみに、人間界に下りてきた目的とか分かるか?」


「うむ。あれは鍛冶が好きな変態じゃからな……人間界で凄い魔剣作るんだ! って気合入れておったよ」


「よりにもよって魔剣作んなよ」


 魔剣――人間の魔を引きだす最凶で最悪な武器だ。所有者は我を失い、ただ血肉を求める剣鬼と化す。

 ミーマメイスでも何本か発見されており、どれも例外なく危険物扱いされて封印されている。


「なるほど。だから鉱石の豊富なニョルズ洞窟に降臨したのか」


 剣を鍛えるために鉱石が必要だったのだと太陽は推測して、敵の思惑を把握する。

 害意はないが迷惑ではある。現に人間からは邪神認定されているわけだから、討伐か撃退しないわけにはいかない。


「神様の娘、倒せるなら倒してもいいのか?」


「ん? 構わん。どうせ人間界に下りてるから力が弱体化してるじゃろうし、お主なら勝てるじゃろ。あれに灸をすえてやってくれ」


「了解。まあ、適度にやる」


 邪神の全体像を把握して太陽は大きく頷いた。

 自分の力でもどうにかなるとゼウスに保証してもらったので、憂いなく戦いを挑むことができる。それだけが分かっただけでも収穫だった。


「じゃあな、神様。それ以上ボケんなよ」


「ふぇっふぇっふぇ。二度目の生を楽しむのじゃぞ、人間。儂はお主らのような矮小な存在を見るのが大好きなのじゃ」


「悪趣味な奴」


 思いっきり顔を歪めて、彼は神界から姿を消す。


「……っと。戻ったか」


 次の瞬間には、再び自らの肉体に戻っていた。


「ご主人様、さっさと入りましょう。ゼータはすぐに終わらせたいのでございます」


 ゼウスとの会話は、およそ一瞬の出来事である。故にゼータは太陽の異変に気づくことはない。


「おう、行くか」


 そうして、太陽はゼータと洞窟に入っていくのだった。

 邪神討伐の戦いが、いよいよ始まる――

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