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69 サキュバス・ハーレム

 魔族の社会は純然なる実力主義である。

 力さえ強ければ、それで良し。血も、見た目も、性別も、果ては種族すら魔族は気にしない。


 そもそも、魔族とは魔界に住む一族を指す言葉なのだ。魔族と一口にいっても、その種類は多様である。

 見た目が歪な悪魔族、獣の特性を持つ獣人、意思を持った魔物、そもそも人じゃない死霊、闇に堕ちたダークエルフ、そして淫靡なサキュバスなどなど。


 表の世界――いわゆる人間が住まう世界に居られなくなった者たちが寄り集まって出来た世界ともいえよう。


 そんな世界を束ねるのは、一番の強者――魔王だ。

 魔王とは、魔界の意思によって決まるといわれている。魔界という世界が力を与え、それが『闇属性』となるのだ。故に、闇属性は魔王の証というわけである。


 魔族は魔界の意思を絶対としている。いかなる存在であろうと、魔王に選ばれた者には絶対の忠誠を誓う。

 それが例え、かつて魔族を滅ぼしかけた人間であろうとも。


「魔王様、あなたの再誕を待ち望んでおりました」


 力さえあれば、それで良し。そう、魔族は考えているのである。

 だから太陽は、魔王として認められてしまったのだ。


「おいおい、ちょっと待てよ。お前らプライドとかないのか? 人間で、しかも俺ってお前らの敵なんだろ? だったら、魔王とか危ないじゃん」


「過去のことなど、どうでも良いのです。大事なのは今、この時でありましょう」


 さっきは無駄に突っかかってきた老魔族が、ものすごい勢いで手のひらを返していた。

 そのあからさまな態度に、太陽はちょっと引いている。


「お、俺なんかを魔王にしたら、また魔族滅ぼすかもよ? それでもいいのか?」


「魔王様の意思が、我々の意思となります。魔王様がそのようにしたいのなら、どうぞご自由に」


 一気に魔王至上主義になった魔族一同は、誰もがキラキラした瞳で太陽を見ていた。

 先ほどまでは……神の使徒とかいう天使とか、神の使いであるウロボロスをぶっ殺した時は、絶望を見せていたというのに。


 今は心配など何もいらないと言わんばかりの顔をしていた。

 魔族にとって魔王とは、それほどの存在なのだろう。生気を取り戻しているかのようにも思えた。


「……リリン、後任せた」


 魔族にどう接していいか分からない太陽は、ここでリリンに丸投げする。


「ええ、あたしに任せて」


 隣で腕を組む彼女は、何が面白いのかニヤニヤと笑っていた。先程、お漏らししていたくせに今はなんとなく威張っているように見える。


 ふと悪い予感を覚える太陽だが、時すでに遅し。


「下僕ども、よくもあたしを生贄にしようとしたわね」


 やけに上から目線で、跪く魔族一同に舐めた口を利き始めた。


「ちょ、おい」


 止めても無駄。リリンはふふんと息を漏らしながら、こんなことを口走る。


「あたしは疲れたわ。ここにいるあたしの『使い魔』共々、先代魔王様が使っていた別荘に案内して。そこで最上級のもてなしを期待するわ」


 先ほどもまで、おしっこをちびっていた生贄だったくせに。

 降ってわいた幸運を前に、リリンはこれみよがしと権力を振りかざす。


 されども、魔族にとって魔王様は絶対。

 その主にもまた、絶対の忠誠を誓わなければならないのだ。


「急いでご用意しましょう」


「「「「魔王様万歳!」」」」


 老魔族の言葉に、ほかの魔族一同も唱和する。

 この状況に、ただ一人……加賀見太陽だけが、頭を抱えていた。


「なんでこうなるんだよ……」


 記憶喪失な上に、突然の魔王様継承。

 意味不明な事態に、彼はただただ息をつくのであった。




 魔王城が滅んだのはとうに昔の話。

 魔族の象徴ともいうべき施設を失った魔族だが、生活の場所はしっかりと残っている。


 魔族の居住エリア『ゾロアスター』。活気はあまりないが、寂れてもいない魔族の街。

 その中心にあるのが、先代魔王様の別荘である。


「……疲れた」


 その場所に案内された加賀見太陽は、最上級とも呼べる部屋でベッドに寝転がっていた。

 太陽が十人眠っても問題ないサイズのキングベッドである。そこで大の字になりながら、淡いピンク色の天井をぼんやり眺めていた。


「ってか、ここラブホテルっぽいな」


 実際に行ったことはないが、エッチなビデオで見たラブホテルに似てなくもない一室である。

 だからといって、何をするわけでもないが。というか本当は何かしたいのだが、相手がいないので何もままならない。


 そしてもうやることもないので、少しすると太陽はうとうとし始めた。

 まどろみの中で、彼は夢に迷い込む。


「うふふ、魔王様ぁ」「お眠りになられてるのですかぁ?」「それなら、私達も共に」「存分に、夢のような快楽をお楽しみください」


 欲求不満だったのか。

 夢の中には、やけに扇情的な恰好をした魔族の女性が何人も出てきた。


 少しだけ尖った八重歯。金色の瞳。背中には小さな翼があり、お尻のほうには尻尾が見える。下腹部には不可思議な文様が刻まれており、そしてその体は……ムチムチであった。


 まさしく、太陽好みの肉体である。


「うへへ。い、いいの?」


 鼻の下を伸ばして、すぐ近くにいた女魔族の腕をつかむ太陽。


「ゃん、魔王様ったら。慌てなくても、じっくりと……楽しんでもいいのですよ?」


 腕を触られても、その女魔族は嫌がる素振りを見せない。むしろ満更でもなさそうに嬌声をあげていた。


(え? いいの? マジで? よっしゃ!)


 夢とはいえ、最高のシチュエーションだ。太陽は鼻息を荒くする。夢だというのに、匂いまでも感じられる現実感があった。男性の本能をくすぐる香りに、頭がぼんやりと霞む。


 触感も素晴らしい。触れた女魔族の手はすべすべでありながらモチモチで、いつまで触っていたくなるような気がした。夢にしては、なんというか……とても、生々しくて。


「魔王様? サキュバスの快楽を、存分に味わってくださいませ」


「って、夢じゃない!? 現実だ!」


 そして太陽は気付くのだった。

 これは夢にあらず。自分が寝てる時に夜這いかけられているのだと、太陽はようやく理解する。


「夢のように、気持ちいいですよぉ?」「魔王様は何もしなくていいです」「私達にお任せを」


 ベッドに乗って、太陽に触れようとするサキュバス一同は合計すると五人。誰もが太陽にとって好ましい肉体をしており、簡潔に表現するとエロかった。


「それとも、魔王様はサキュバスのこと……お嫌いですか?」


「いいえ大好きです」


 思春期で童貞の太陽にとって、サキュバスなど夢のような存在である。断る理由などなかった。


(嗚呼、ようやく……ようやく、この日が来たのか)


 童貞の卒業。

 この日を夢見て、太陽は異世界を生き抜いてきた。記憶はないので思い出もないが、ともあれ童貞を捨てられる日が来て太陽は喜んでいる。


(お父さん、お母さん、俺は今から大人になります。こんな俺を生んでくれてありがとう)


 心の中で、世界の違う父母に感謝をささげて。

 太陽は、大人の階段を上る――




「ご主人様っ」




 ――上る、その瞬間だった。


 扉が、突然に蹴破られて。


「ようやく、見つけました……」


 中に乱入してきたのは、ボロボロのメイド服を着た魔法人形ゴーレム


「ゼータの、ご主人様っ」


 人間界に居るはずの、ゼータであった――

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