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54 希望は断たれ、絶望が訪れる

「エリス君、戦いにおいて最も大事なのは何だと思う?」


「……数だと思う」


「残念。まあ、数の暴力もいいけど、もっと重要な要素が一つあるんだ」


 ところかわって、エルフ国アルフヘイムより遥かに離れたヴァナディース王国近郊にて。

 銀髪銀眼の少年が、地面に固定された筒を撫でていた。隣にはフレイヤ王国のエリスがいる。二人は世間話をするかのように談笑していた。


 見るからにイケメンなこの少年は、ヴァナディース王国の総帥であり、同時に太陽と同郷の転生者――神楽坂刹那である。


「重要な要素……?」


「それはね、射程だ」


 神楽坂刹那は和やかに微笑んでいた。


「拳から始まり、棒、剣、槍、弓……果ては大砲、銃、ミサイルと進化していった武器の違いは、威力もそうだけど一番は射程にあると僕は思っている」


 単純な話だと、神楽坂刹那は言った。


「相手の届かない距離から、一方的に攻撃をしかける。これは戦いにおける必勝の方法だからね……武器だって当然、そうなるように進化していったわけだ」


「すまない……何を言ってるか、よく分からない」


「異世界人の君には分からないか。この世界、魔法という概念が発達しすぎてて、武器もあまり進化してないしね……そこはいいんだよ」


 つまり、彼が何を言いたいのかというと。


「要するに、相手の見えない位置から攻撃をしかけること。これこそが、戦いにおける最も重要なことなんだ」


 そして、神楽坂刹那は地面に固定されている大きな筒に大きな球状の何かを入れた。赤黒い光を放つそれは、とある洞窟跡地から掘り起こされた魔鉱石である。


 ふざけた転生者が放った爆発魔法の魔力を吸い取った魔鉱石だ。


「さっきから気になっていたんだけど……それは、何?」


「これは『大砲』っていうんだ。僕の【想像創造(イマジネーション)】で作り出した、君たちの世界にはない武器だよ」


 大きな筒――大砲に込めた魔鉱石は、砲弾となる。


「今から、君が教えてくれたエルフ国アルフヘイムの座標に攻撃をしかける。そのための武器さ」


「……こんなに遠くから?」


「そうだ。そのために、筒も長く大きく作ってる……って、まあ魔法で作ってるから、細かい部分は魔法の力で補われるだろうけど。僕はあくまで想像した概念を形にしているだけだからね。実際の大砲とは、ちょっと違うかもしれないね」


「……貴殿は話が長いな。簡単に言ってくれ」


「ん? ああ、すまない。どうも、生前教師だった癖が抜けなくてさ……まあ、要するに今からアルフヘイムの結界を壊すってことだよ」


 アルフヘイム――エルフ以外の他種族には存在すら認知できないエルフの国は、結界を張ることで場所の秘匿に成功していた。その結界を、神楽坂刹那は壊すと言っているのだ。


「できるのか?」


「君が捕まえたエルフから聞きだした座標が正しいなら、問題なく壊せるね」


「……助かる」


「何、困った時はお互い様だよ。同じ人間なんだから……それに、エルフ国の魔法アイテムを分けてくれるっていうのも、ありがたい話さ。僕たちの国も、少し戦力を増強したかったからね」


 鼻唄混じりに砲弾をセットして、神楽坂刹那はおもむろに大砲を放つ。轟音と共に空高く舞い上がった砲弾は、真っ直ぐにエルフ国アルフヘイムへと向かっていった。


「とりあえず、百くらいか。大砲はいくつも用意してる……君も砲弾をセットするの手伝ってくれよ」


「分かった」


「あと、加賀見太陽君のことだけどさ……絶対に刺激しないでくれよ? 僕たちの国はあの子に逆らわないことに決めたんだ。だからこそ、今回協力したっていう経緯もあることを、忘れないでくれよ? いや、本当にマジで」


「……ぜ、善処しよう」


 神楽坂刹那は知らないようだが、渦中のエルフ国に加賀見太陽はいる。そのことをエリスは秘密にしておいて、大砲に弾を込める手伝いをするのであった。


 アルフヘイムの遥か遠くより、地味だがイヤらしい砲撃が降り注ぐ――






「陛下! 緊急事態です……結界が、破られました!! 何者かに攻撃されているようですっ」


 エルフ国アルフヘイム、バベルの塔最上階にて……アールヴ・アルフヘイム王女は荒い息を吐き出していた。


「嘘じゃろう……攻撃をしかけた者を始末できんんのか?」


「それが、敵の姿がどこにもなく……どうしようもない状況です」


 あまりの状況に、アールヴ王女は唇を噛みしめる。眼前には加賀見太陽がいて、それだけでもどうにもならないというのに、アルフヘイムの結界まで破られたというのだ。


 絶望的な状況に、さしものアールヴ王女も頭を抱えていたのだ。


「そうか……もう、終わりじゃな」


 ぽつりとそう呟いて、アールヴ王女は決断を下す。


「緊急避難じゃ!! この国を捨てる……そなた達空間魔法使いは、急いで住民を避難させよ! 緊急避難場所はしかと頭に入っておるな?」


「はっ! それでは、失礼します!!」


 一刻の猶予も、余裕もない。伝令係の空間魔法使いは、即座に空間移動をして指示通りに避難へと向かったようだ。


「【宝物殿の鍵サクチュアリ・ゲートリング】――『エルフの鐘楼』」


 それから取り出したのは、手のひらほどの大きさの鐘。それを軽く揺らすと同時、エルフ国アルフヘイム全体に鐘の音が鳴り響いた。


 これはエルフにおける、緊急避難の合図だ。それを効いた住民達は、一ヶ所に集まって決められた場所に避難することになっている。


「……もう負けじゃ。妾のやるべきは、時間稼ぎか」


 口元に浮かんだ笑みは、自嘲から零れたものだった。頭の良いアールヴ王女は、もう勝つことを諦めている。


「ようやく、だな……エルフの国の王女様よぉ」


 目の前に佇む加賀見太陽は、好戦的な笑みを浮かべていた。それを見てアールヴ王女の身体は震えていた。


 勝つことはもう不可能。トリアとシルトが敗北した時点で、このことは分かってしまったのだ。だが、まだ大規模な破壊はないと彼女は理解していた。このバベルの塔には太陽の仲間であるヘズ、ゼータ、そしてミュラがいるのだ。


 周囲一帯を吹き飛ばすほどの大きな魔法はまだ放てない。故に、住民が巻き込まれるような魔法はまだ来ないし、時間を稼ぐ程度なら可能だと……思っていた。


「アタクシの登場よ!!」


 空間から、筋骨隆々のオカマ野郎が現れるまで……アールヴ王女は、まだ大丈夫だと信じていたのだが。


「ん? お前は、えっと……オカマの」


「シリウスよん? 加賀見太陽きゅんってば、忘れっぽいのねん!」


「ああ、そうそう。で、何でここに?」


「結界が壊れて、アタクシも入れるようになったらしいわね! 邪龍の空間移動の力が仕えたわ……で、アタクシの手伝いは必要かしら?」


「要らん。でも、こいつ……ミュラと、下層にゼータ、あとヘズさんがいる。連れて帰って、治療してくれないか?」


「任せてよろしくてよん? あと、うちのアルカナ王女様より伝言があるわ。『好きに暴れてもいい。責任はアルカナが背負います』だって」


「ふーん。ま、どっちみち暴れるんだけど……ま、許可が出たならそれでいいのか。よし、思う存分暴れますかね」


 そんな会話を交わす二人を見て、アールヴ王女の顔から自嘲さえも消え失せた。


「そ、んな……」


 希望さえも砕かれてしまう。全てが悪い方向へと動く。

 時間稼ぎさえも、できないかもしれない。アールヴ王女は、現状の酷さに自失しまっていたようだ。


 しばらく、その場を動くこともできない。太陽も動かないので、恐らくはシリウスによる仲間の回収待ちだとは予想がつくが……ここで変に刺激しても良いのかと、迷いが生じてしまっていたのだ。


 持ち前の冷静さも、決断力も、今はなくなってしまっていた。


「回収終了よん! あとは任せたわねん」


「了解。そっちも任せた」


 そうして、戦いの準備はできてしまう。鐘の音はまだ鳴り終わっていない……これは即ち、避難が未だ終了していないことを意味した。


「……っ」


 それでも、太陽に慈悲はない。非情なまでに笑む彼に、アールヴ王女は全身全霊を賭して時間稼ぎを試みることになる。


 ここから、太陽の一方的な蹂躙開始だ――

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