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45 ププー、王女様の側近さんなのに情けないぞ!

「……よし、この辺りでいいだろう」


 トリアとヘズから少し離れて、辿りついた先にあったのは階段であった。


「ここを昇ればいいんだな? 案内御苦労さん」


 シルトが立ち止ったのを確認して、太陽はすぐに上へ駆けあがろうとする。トリアの言葉通りなら、ミュラとゼータが上にいるはずなのだ。


「だから、行かせないと言っているであろう……【空間隔離】」


「ですよねー」


 だが、ここでやはりシルトが邪魔をしてきた。周囲の空間を遮って、太陽自身を動けなくしてしまう。透明な壁に包まれたような感覚だった。


「面倒なんですけど……これやめてくんない? 俺、上に行きたいって言ってるじゃん」


「私がお主の言葉を聞く必要などない。大人しく待っていろ……トリアがあの剣士を抹殺するまでな」


 白髪頭の髪の毛をなでつけ、眼鏡をくいっと直す中年のエルフ。太陽はシルトに嫌そうな顔を見せて、それみよがしにため息をつく。


「いやいや、無理だろそれ。ヘズさんあれだぞ? 手で牛人間斬るんだぞ? あんな化物に勝てるわけないだろ」


 低級魔法で周囲一帯を更地にする化物が言うなと、シルトは呆れたように肩をすくめていた。


「まあ、それを言うなら我らのトリアも化物だ。あれはなかなかの逸材でな……負けるわけがない。現に、前回戦った時は圧勝した。心配する必要などない」


「ふーん。そういえばヘズさん、あんたとあの無表情男に負けたんだっけ? でも、たぶん次は勝つでしょ。ヘズさんめちゃくちゃ執念深いし。あと、頭おかしいくらい戦闘狂だし」


 ともあれ、太陽はヘズについてまったく心配してないようだ。


「それより気になるのは、ミュラとゼータだな。あの二人はどうしてんの?」


 そしてここで、太陽は二人の身の安全を問いかける。


「俺としては、無事でいてくれると信じてる。もしも無事じゃなかったり、何かしら苦しい思いしてたら……ちょっと困る」


「困る、とは?」


 太陽の言葉に、シルトは眉をひそめる。そこで明らかに太陽の様子が変わったのだ。

 先程までは飄々としていたというのに、今はなんというか……禍々しいほどの雰囲気を発していたのだ。


 彼は言う。氷のように冷たく、無感動な言葉を零した。


「あの二人に危害があった場合……たぶん、エルフを滅ぼすことになる。自分を制御できなくなるから、困るって言ってるんだよ」


「――っ」


 今までのふざけた様子はどこにもない。明確な殺意を前に、シルトは息を呑んでいた。


(こいつは、危ないな……)


 本気だと直感した。もしも、ミュラとゼータに何かあれば、加賀見太陽は間違いなくエルフを滅ぼす。そう信じてしまうほどに、太陽の言葉は重かったのだ。


 シルトはゆっくりと深呼吸してから、太陽の逆鱗に触れないよう言葉を選ぶ。


「……その点については、心配しなくて結構。あの二人はお主の人質だからな。危害を加えては人質の意味がなくなる」


「そっか。うん、だと思った。お前らの王女様ってうちの王女様と違って頭良さそうだったから、きっと捕虜にしてくれてるだろうなって信じてたよ。利用価値があるもんな。傷つけるわけ、ないか」


 捕虜とは、無傷であるからこそ価値があるのだ。傷つけて、変に太陽を刺激することの方が愚かだとエルフ側も理解はしている。故に、王女はミュラとゼータを監禁せよとだけ命じて、痛めつけろとは口にしなかったのである。


「うん、じゃあ二人の無事も分かったことだし……適度に暴れることにするかな。俺の知りたいことは全部、あんたの王女様が知ってそうだ。そろそろ喧嘩売らせてもらうぞ?」


 奴隷の首輪についてと、人間の奴隷について。エルフ国の王女アールヴ・アルフヘイムが全て把握しているだおうと太陽は予測して、啖呵を切る。


 対するトリアは、当然のように首を横に振った。


「させると思うか? 私は王女様の側近。お主を殺すよう命じられているのだ。お主は、ここで殺す」


「逆に聞くけど、そんなことできると思ってんのか?」


 抵抗するとの言葉に、しかし太陽は不遜に笑っていた。


「お前、俺を捕まえた気でいるみたいだけど……甘いぞ?」


「は?」


 そんなことを口にした直後。


「【極大爆発(エクスプロージョン・バーストオーバー)】」


 太陽が放ったのは――火炎属性の上級魔法であった。


「っ!?」


 刹那、凄まじい爆発が太陽を閉じ込めていた空間を襲う。四方数メートルの立方体の中で、膨大な火炎と轟音が鳴り響いていた。


 その衝撃は、絶大の一言である。あまりの威力にシルトが作り出した空間が耐えきれなくなるほどの一撃であった。


「お、壊れたか」


 ピキピキ、と空間にヒビが入って……次の瞬間には、粉々に砕け散っていく。

 自由の身となった太陽は満足気に大きく頷いていた。


「いやー、俺もやっぱりレベルアップはしてるんだな。初めて上級魔法使ったんだけど、上手く発動してくれたみたいだ」


 今まで中級魔法までしか使えなかったのだが、ふと思い立って上級魔法を試したらしい。結果、不具合なく発動して無事空間を壊せたということである。


「ってか、やっぱあの赤髪エルフのマントすごいな……爆発を受けても燃えない。ちょっと便利かも」


 更に、裸にならずに済んだことで太陽の機嫌は良くなっていた。先程アブリスから奪ったマントはかなりの一品だったらしい。


「くっ、そんな……私の空間魔法が破られるなどっ」


 意表をついた太陽の突破に、冷静だったシルトは動揺を見せていた。太陽はその心の隙を突くかのように、次々と言葉を繰り出していく。


「なんだ? お前、自分の魔法が完璧だとでも思ってたのか? 残念でした、俺の魔法が上だったみたいだなっ! 悔しい? もしかして悔しがってる? ププー、王女様の側近さんなのに情けないぞ!」


 持ち前の煽りスキルをフル活用して、シルトを揺さぶる太陽。流石のシルトも少し頭にきたようで、若干声を荒げていた。


「い、いいだろう……っ! 私の全力を見るがいいっ」


 シルトはそう言って、再び太陽の周囲に空間魔法を展開した。


「【空間隔離】――『八重奏(オクタプル)』!!」


 そして太陽の周囲に、八つの空間が重なるように出現する。八つの空間を層のように重ねることで、耐久力を更に高くしたようだ。


「これで、お主でも逃げられまいっ」


「……これがお前の本気なんだな? じゃあ、俺の少しだけ本気を出してやる」


 鼻息を荒くするシルトに、太陽は不敵な笑みを浮かべて。


「【超新星爆発(スーパーノヴァ)】」


 繰り出したのは、太陽の膨大な魔力をひたすらに圧縮して爆発させた、彼のオリジナル魔法であった。


 ――パキン!! と、魔法が放たれると同時に八つの空間が砕ける。一瞬も持ちこたえることなく、爆発はシルトの作りだした空間を壊したのだ。


 否、それだけではない。爆発は八つの空間を壊してなお周囲に広がり、シルトへと襲いかかった。


「ちっ……」


 間一髪で空間移動魔法を展開したシルトは、少し離れた場所で自身の周囲に空間隔離魔法を続けざまに展開する。そうすることで爆発は防げたが、太陽の身は自由にしてしまった。


「ま、こんなもんかな。俺がちょっと本気を出したら、お前程度だと防ぐこともできないってわけだ……じゃ、俺行くから」


 軽く手を挙げて、再び走りだす太陽。


「……私一人では、どうにもならんな」


 シルトはその後ろ姿を眺めることしかできなかった。かけはなれた実力差を実感したので、深追いはしないことにしたらしい。


「足止めは、スカルがやってくれるだろう。私がやるべきは、トリアと協力してあの剣士を素早く倒すことか。その後に、トリアと共に加賀見太陽を討てばいい」


 そう自身の行動を決めてから、シルトは元の場所に戻っていった。太陽のことは一旦頭から話して、今度はトリアの加勢に思考を集中させる。


(前に戦った時のように、私の魔法で相手の動きを封じてしまえば……すぐにでも決着はつくはず)


 そんなことを考えてから、広場に到着する。そこで見えたのは……


「ん? シルト、ここはもう終わった。僕が、勝ったから」


 槍でわき腹を深く抉られたヘズと、無表情で勝利を口にするトリアの姿であった――

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