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3 討伐ランクSSS・・・・Sじゃ足りない(測定不能)

「フハハハハハ! 騙されたな、太陽様!」


 何が一体どうなっているのだろう。

 太陽はぼんやりと佇む。どこまでも広がる平原の中、彼は幾数もの人影に囲まれていた。誰もが臨戦態勢を取って太陽に敵意を見せている。


 炎龍を討伐した三日後のことである。王城に呼ばれたので出向いたら、何かいきなり王女様が転移魔法かけさせてとお願いしてきた。胡散臭いし怪しさ満点だったのだが、断るのも面倒だったので了承したらいつの間にかここに居たのである。


「どうですか、驚きましたか! 今回はなんと、あなた様の討伐を行うのですよ! 見よ、この精鋭揃いの我が陣営をっ。降参するなら今の内です!」


 王女様が何やら自慢げに言ってるので太陽は周囲をキョロキョロ見渡す。王女様の近衛騎士が数名に、冒険者ギルドの高ランク実力者が十名ちょっと。合計すると二十名近くになるだろうか。


 だいたいが見知った面々だった。太陽も一応はギルドに所属しているので、高ランカー達とは何度も顔を合わせているし、王城にも何度も通っているので騎士の顔ぶれも把握している。


「あの、これって何の茶番ですか?」


「茶番じゃないですっ。なんですか? 恐れをなして状況も理解できないのですかっ?」


 興奮しているのか、王女様のテンションが高かった。いつもは土下座して泣きべそばかりかいているのだが、今日はやけに得意げである。

 気が大きくなっているようで、太陽に対しても舐めた口をきいていた。


 そうは言っても、純白の甲冑を着たエリスの後ろに隠れながら発言しているので、威厳など何も感じないのだが。


「陛下……前に出て言った方がかっこいい」


「イヤっ。だって怖いし」


 エリスの助言にも耳を貸さないようだ。なんか哀れな生き物だなと、太陽は怒りより先に哀しさを覚える。


「そう。なら、仕方ない」


「……エリスさんが甘やかすからそうなっちゃったのか。少しは厳しくした方がいいかと」


「バカ言わないで。陛下はポンコツだからこそ可愛い」


 後ろからやいのやいの言う王女様を撫でながら、エリスは頬を緩めている。こいつもダメだなと太陽はすぐに説得を諦めた。


「やーい、ばーかっ。いつもいつも、偉そうなのがむかつきます! わたくしが王なのです。つまり、あなた様よりわたくしが偉いんですっ。もっと敬ってください。称えてください。頭が高いんですよ、庶民のくせにっ。ここがあなた様の墓場だ!」


 子どもじみた挑発を延々と繰り返す王女様。普段とはまるで違う態度なのだが、恐らくこちらが素なのだろうと太陽は判断する。

 表情がとても活き活きしていた。太陽はうんざりとため息をつきながらも、この状況が茶番ではないことを理解する。


「で、つまり俺を倒そうとしてるってことでいいんですか?」


「そうです! 国直々のクエストとして発注させていただきましたっ。クエスト名は、【太陽を落とせ!】」


 王女様の掲げる用紙。それは、フレイヤ王国が発行したクエストの依頼用紙である。


----------------------------------

クエスト名:太陽を落とせ!

クエスト系統:討伐

クエスト内容:加賀見太陽を倒すこと

討伐ランク:SSS・・・・Sじゃ足りない(測定不能)

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「Sがいっぱいって聞いたから、Sランク冒険者とそれに相当する騎士を選抜したんです! これでたぶんSが20個くらいだから、太陽様に負けるはずがありません」


「なるほど、完璧な論理。流石は陛下」


「……頭大丈夫かよ」


 もしかしてふざけてるのだろうかと思うくらいには気が抜けてしまった。終始ポンコツな王女様に邪気が抜かれるというか……

 なんか、残念な人だなとしか思えなかったのである。


「はいはい、じゃあすぐにでも終わらせますか」


 真面目に戦う気にもならなかった。太陽は返事も待たずに右手をかざして、即座に魔法を展開する。


「【火球ファイヤボール】」


 火属性の低級魔法。通常であれば小枝が燃える程度の魔法だが、太陽が放てば四方数キロメートルは更地にする大魔法となる。

 それを展開して、瞬殺しようと画策していたのだ。


 なんだかんだいって実力者の面々なので、死ぬこともないだろうと思っての攻撃。


「甘いです! 【転移】!!」


 だが、そんな彼の思惑は一瞬で粉々に砕かれるのであった。


「……なるほど」


 頭上、遥か高くで。火球が爆発したのを知覚して、太陽は一つ頷く。

 自らの魔法が無力化されて少し驚いていた。


「ふふーん! どうですか、これが王族の力です。この場において、太陽様の魔法は全て転移させていただきますのでっ」


 そう。太陽の放った火球は、王女様の転移魔法によって遥か上空に転移、そして爆発したというわけである。



---------------------------------

名前:アルカナ・フレイヤ

種族:人間

職業:王女

属性:無属性(転移)

魔力:SS

スキル:【王族の加護】【次元魔法適正】

冒険者ランク:なし

二つ名:【ポンコツ王女様】【がんばって王女様】【ご立派になってください王女様】

---------------------------------


「なかなか面白いな……【炎熱剣ファイヤソード】」


「無駄です! 【転移】」


 王の血統も伊達じゃない。立て続けに太陽の攻撃は無力化されてしまい、この場の敵を一掃するのは難しくなった。

 遠距離系の魔法は全て転移させられてしまう。だが、人間は同意がないと転移できないと王女様が前に言っていたので、太陽自身が転移させられる心配はない。


 ならば、負けるわけもないと太陽は笑うのだった。


「ちょっと手間だが、たまにはいいか」


 好戦的に歯を剥きだしにして、拳を構える。彼は転生する前、ファンタジー好きの高校二年生だった。バトルへの憧れは世界を越えても失ってはいない。

 血沸き肉躍る体験に、彼の心は高揚していた。


「【火炎魔法付与アディション・ファイヤマジック】」


 低級に分類される、肉体に魔法を付与する魔法だ。効果は魔力による肉体の強化と付与された魔法による攻撃力の向上である。

 この魔法は低級ながらに広く普及している魔法で、使い勝手も良かった。


「よし、準備完了。そろそろ始めようか」


 接近戦は然程得意ではないが、この魔法のおかげで肉弾戦でも引けを取らなくなる程度には戦えるようになる。

 太陽はグッと拳を構えて、周囲の戦闘員に意識を集中させるのだった。


「冒険者の皆さん、騎士団一同。大規模魔法は陛下が転移するから、とにかく攻撃魔法をしかけるように」


 指揮をとるかのように、エリスが指示を出す。


「では、攻撃開始!」


 その声を皮切りに、冒険者と騎士団は動きだした。


「【神の雷槌トールハンマー】」「【英雄の聖撃エクスカリバー】」「【世界樹の炎剣レーヴァティン】」


 などなど。戦いが始まってすぐ、これらの【神級魔法】が次々と放たれた。低級、中級、上級、最上級の更に一段階上の魔法を、彼ら彼女らは詠唱破棄で展開する。

 【勇者】の称号を獲得したランクSの猛者と、王族の護衛に足る実力を認められた近衛騎士。両者の実力は、一人で千の兵と渡り合える程である。


 ここに呼び集められたメンバーの中に、弱者などいない。誰もが人間最高峰の実力者なのだ。


「勝てる……これなら、勝てます!」


 対太陽勢力が一斉に責め立てる光景を見て、アルカナ陛下こと王女様はグッと拳を握った。

 太陽だって、なんだかんだ人間なはず。ならば、これで死なない人間などいないと確信しての言葉だった。


 魔法が、太陽に向かって押し寄せる。


(結構多いな……振り払えるか? いや、やってみないと分からんか)


 想像以上の怒涛の魔法攻撃に少し気おくれしていた。

 火炎が付与された右腕を振って、それらの魔法を振り払おうと試みた――そんな時である。


「…………ぁ」


 不意に、体の奥底で何かが爆発した。

 太陽の体内に保有されていた膨大な魔力が、破裂したかのように溢れ出ていた。


「やっべ」


 思わず冷や汗をかいた直後、鼓膜が破けそうになるほどの轟音と光が太陽から放たれる。







 刹那、大気が割れた。






 ――爆発。否、それは魔法の暴走。

 太陽の魔法が暴走して形を保てなくなったがために、爆発してしまったのだ。


 ドゴォオオオオオオオオオン、といったところだろうか。そんな轟音と共にキノコ雲が立ち上り、辺り数百メートルはクレーターとなる。

 熱波は地表の鉱物を熱し、平原は一瞬の内に焦土と化した。


「うっわ。やっちまった……みんな死んでないよな」


 神級魔法も暴走による爆発によってかき消されたようである。煙が晴れて、クレーターの中央に直立していた太陽には傷一つなかった。

 呑気な声を発しながら、みんな大丈夫かな? とキョロキョロ辺りを見渡す。


「……ぅ、ぁ」「し、死ぬかとっ」「やっぱ、無理っす」「人間じゃねぇよ」


 少し離れた場所に地面を這うボロボロの人間を見つけた。彼ら彼女ら――つまり冒険者と近衛騎士達はみんな息があるようである。

 流石は高レベルの実力者。どうにか防いだようで、命に別状はないようだった。


「……殺したかと思って一瞬焦ったぞ」


 安堵に息をこぼす太陽。頭の中では、どうして魔法が暴走したのかについて原因を探っていた。


「えっと、なんでだ? 前にやった時は普通に展開できたのに……って、あ」


 そして、原因を即座に理解する。


「そういえば、スキルをオフにしてなかった」


 そう。彼にはデフォルトで【火炎魔法暴走】というスキルが宿っている。これがあるからこそ、通常の低級魔法が暴走してアホみたいな威力を生み出しているのだ。

 その上で【火炎魔法威力向上】【火炎魔法威力上昇】【火炎魔法威力増幅】【火炎魔法威力倍化】といった感じに魔法が強化されているので、ふざけた威力で魔法を放てられるというわけである。


 ともあれ、暴走のスキルをオフにしていなかった。これこそが、今回の爆発の原因である。


「あー……悪いことしちゃったかな」


 思い浮かべるは、王女様のこと。あんなに息まいていた彼女の顔を立てたかったのだが、結果として彼女の思惑を吹き飛ばすことになってしまった。

 少し申し訳ない気持ちになりながらも、彼女の姿を探す。


「アルカナ、分かった? あれは人間ではないから、勝つことなど不可能」


「……ふぇぇ」


 王女様はエリスの胸の中で泣いていた。爆発からエリスに守られたのであろう王女様は、これでもかというくらい泣きじゃくっていた。


(ちょ、ちょっと胸が痛い)


 罪悪感に心を痛めながら、謝るためにも彼女へ歩みよる太陽。

 お互いの顔が見える距離まで近づいたところで、エリスが太陽の存在に気付いた。


「ほら、彼に謝って。今ならまだ許してくれると思うから」


 優しげな顔で胸の中の王女様をあやすエリス。

 そうすれば王女様は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、太陽の方に向き直った。


「ご、ごめんなさいいいいいいいいいいい」


 そしてまた泣きだす始末。地面に泣き崩れた王女様に、太陽はもう何も言えなくなってしまうのだった。


「な、なんかごめん」


 こうして、フレイヤ王国は加賀見太陽に惨敗した。

 血の一切流れない、圧倒的な勝利であった――

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[一言] エリスとアルカナのポンコツっぷり嫌いじゃないわ 太陽も空気読めてなくて状況把握弱いだけで、なんか程々に思春期馬鹿感が強くて嫌いになれない
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