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209 最終決戦 幕間

「……まったく、しょうがないご主人様です」


 阿久津五郎が、新たな加賀見太陽の存在に驚愕している時と同じ頃。

 王城のゼータは、ベッドの上で横になっていた。


 裸である。


 しかも、汗だくだった。

 その頬は普段の無表情とは違って、赤く染まっている。


 これはまさしく――事後だった。


「いきなり帰って来たかと思ったら、これですか」


 彼女は呆れたように笑っている。

 しかし、表情は緩みきっており、喜びを隠しきれていなかった。







 ついさっきのことである。

 待機している部屋で、ゼータが見送った太陽の無事を祈っている最中だった。


「ただいまー」


 気の抜けた声が聞こえてきたかと思ったら、待ち望んでいた人物が部屋に入ってきたのである。


「…………」


 彼の姿を確認して、ゼータは一瞬だが言葉を失った。

 何故なら、そこにいたのは――先程送り出した加賀見太陽ではない、この世界の加賀見太陽がいたのである。


 ずっと行方不明で、死んだとさえ言われた最愛のご主人様が、まるでお使いから帰ってきたかのような気軽さで手を上げて笑っていたのだ。


「よっ。ごめんな、待たせちゃって」


 とはいえ、この加賀見太陽は、ゼータの知っているご主人様と少しだけ雰囲気が変わっていた。

 片腕と片目はなくなっており、髪の毛も少し伸びている。そして体格も一回り大きくなっていた。恐らくは発達した筋肉のせいだろう。


 一見すると荒くれ者のようだが、しかし声や表情、そして彼という存在そのものは変わっておらず、ゼータはすぐに加賀見太陽だと察知できた。


 そして、ようやく帰ってきてくれたのだと――少し遅れて、理解した。


「っ……」


 色々と言いたいことはあった。

 でも、今この時、ゼータの心を満たしていたのは――『愛』だけだった。


 だから彼女は、ただ一言だけ言葉を紡ぐ。




「お帰りなさいませ、ご主人様」




 深々とお辞儀する彼女を、帰ってきた加賀見太陽はゆっくりと撫でた。


「ようやく、帰って来れた……色々あったんだ。ずっと、会いたかった」


 それから、太陽はゼータに今までのことを話してくれた。


 太陽は阿久津五郎と戦って、一度は本当に死んでいた。

 しかしその後、彼は死の神である【タナトス】の手で魂を回収されたのである。


 神は時間や空間に囚われない存在なので、どんな時空、世界であっても共通の存在だ。故に、別の世界で太陽を取り逃がしたことをタナトスは惜しんでおり、この世界の太陽を手に入れようと狙っていた。


 そして、念願叶って太陽を手に入れたタナトスは、早速太陽に【不死の恩恵】を授けた。


 死を象徴する神は、太陽なら誰よりも多くの生物に死をもたらしてくれるだろうと期待していたのである。太陽が生きてさえいれば多くの死が手に入る。タナトスはそう考えたが故に、怪我や病気、寿命だろうと死ねない属性を付与したのだ。


 かくして太陽は蘇ったのだが、流石に無傷とは言えずに片手と片目を失っていた。その状態で『不死』の属性を持っていようと、意味がなかった。


 ましてや、この世界の太陽は阿久津五郎に能力を奪われた状態でもある。

 戦う手段がなかった太陽は、ここでとある人物に教えを乞うた。


 その人物は、魔法に頼らず己の腕っぷし一つで最強へと近づいた、異常者であり戦闘狂である。魔法が使えなくなった太陽の師匠としてうってつけの存在だった。


 そんな師匠の名は――ヘズ。

 そう。太陽は、蘇ってからずっとヘズと一緒に修行していたのだ。


 帰って来れなかったのは、ここからとても遠くにいたからである。様々な【災厄級クエスト】を、太陽はヘズと一緒にこなしていた。魔法を使えずに最初こそ苦戦した太陽だが、持ち前の度胸と根性でどうにか戦えるようになった。死んでも死なない体は、修行をする上で大いに役立ってくれた。


 そして今、彼はようやく帰ってきたのである。

 最強に近い力を、手に入れて。


「どうにかゼータを守れるくらいにはなった。これからは、離れないよ」


「……はい。信じて、おります」


 そこまで言われたゼータは、再会できた喜びのあまり太陽に抱き着いた。

 彼の鼓動を感じて、幸せな気持ちに浸っていた。


 だが、一方で――ずっとヘズと一緒に修行三昧だった太陽は、『女性』に飢えていた。

 性欲がたまりにたまっていたのである。


 故に――童貞のへたれさも、この時ばかりは機能しなかった。

 ずっと、大好きなゼータに会えなかったと言う感情も相まって、彼の性欲が爆発したのである。


「ゼータ――俺、我慢できない!」


「へ? あ、っ……ダメです、ごしゅじんさまっ」


 ゼータが制止しようとしても、無駄だった。


 彼女もなんだかんだ太陽のことを受け入れている。

 だから、再会できた喜びもあって、太陽の行為を受け入れたのだ。


 そして――全てが終わって、帰ってきた太陽は阿久津五郎と決着をつけにいった。

 満足そうな顔で、ゼータに手を振って走り去る。


 それから太陽は一緒に来ていたヘズと一緒に、アルカナ王女の転移によって戦場へ向かった。


「……本当に、仕方ないご主人様です」


 口ではそんなことを言いながらも、やっぱりゼータは嬉しそうに微笑んでいる。

 胸元をぎゅっと握りしめながら、彼女は幸せの余韻に浸るのだった――


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