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200 阿久津五郎侵攻開始

 ――フレイヤ王国、外壁の近くには平野が広がっている。

 見晴らしの良いその場所に、突然一つの建物が出現した。


 地響きと同時に、大きな城のようなものが地面から出てきたのだ。


 この建物は、一人の阿久津によって作り出された建築物である。

 それを別の阿久津が転移のような力を用いて、わざわざ転送したのだ。


 フレイヤ王国を、侵略するために。


「殺せぇええええええええ!!」


 幾人もの阿久津五郎が、阿久津城から出てくる。

 とどめなく溢れる阿久津五郎の波に、フレイヤ王国の外壁を巡回していた兵士たちは慌てふためいた。


「アルカナ王女に連絡を! 急げ、すぐそこまで来ているぞ!!」


 近くに拠点を設けて、そこから攻め込む。

 頭の悪い阿久津らしからぬ策だが、これは彼を転生させたロキによる指示だ。


 城からは次々と阿久津が溢れてくる。

 止めるには、阿久津の拠点である城に乗り込まなければならないだろう。


 つまり、フレイヤ王国の実力者たちを、城という自分に有利なフィールドで迎え撃つことができるというわけだ。


 同時に、フレイヤ王国側は防衛もしなければならない。だが、攻勢にも出なければ、この阿久津五郎の波を止めることはできない。


 戦力の分散も必要になってくる。


 とてもいやらしい手だった。


「くそ! 報告が間に合わないっ」


 フレイヤ王国の兵士たちも慌てていた。

 突然の侵略なのだ。報告さえもままならず、混乱もしていた。


 このままではフレイヤ王国に阿久津の侵入を許すことになる。

 どうにか、外壁の外で撃退したいところだったが……もう遅かった。


「侵入! 敵が、入ってきます!!」


 兵は準備をすることすらできずに、先行していた阿久津五郎に侵入を許してしまった。


「追うぞ! 民に被害を出すな!」


 その後を、兵士たちは追いかけようとしていたが――


「ああ、ちょっと。君たち、そんなに慌てなくていいよ」


 いつの間に現れたのか、一人の少年が柔らかく笑って兵士たちを制止していた。


「な、何者だっ」


「僕は隣国『ヴァナディース王国』の総帥、神楽坂刹那だ」


 人間というよりは、造形物じみた美しい少年である。

 彼は加賀見太陽と同じ転生者だ。


「もう一度、繰り返す。慌てる必要はない。君たちはここで敵の動きを監視し、密な連絡を心がけるように……大丈夫、国内に入ってくる敵は、僕の結界に閉じ込めるから」


「――え?」


 そこまで言われて、そういえば敵が侵入しているにも関わらず、あまり騒がしくないことに兵士たちは気付いた。


 今もなお、阿久津五郎は国の関門を通って侵入している。普通なら国内が混乱してもおかしくないというのに……というか、侵入しているはずの阿久津五郎が、国内にはいなかった。


「関門を僕の結界と繋げているのさ。いやぁ、やっぱり準備って大切だよね。万が一を想定するっていうのも大切なスキルさ。女神フレイヤの指示だったんだけど、やっぱり上がしっかりしていると下は楽だね。うちの女神はかわいいんだけど頭がよろしくないからなぁ」


 つまり、阿久津五郎は関門を通って国内に侵入しようとしていたが、刹那が結界を張ってそこに誘導しているというわけである。


 余裕そうに言葉を繰り出す刹那に、兵士たちはぽかんとしていた。


「は、はぁ……」


「おっと。すまないね、喋りすぎちゃった。じゃあ、君たちは阿久津五郎の監視をよろしく。そろそろアルカナ王女へも報告が言っているだろうし、即時戦力も投入されるだろう。僕は、結界内の阿久津五郎を殲滅するから」


 そう言って刹那は姿を消した。

 自らが創造した結界内に入っていったのだ。


 残された兵士たちはまだしばらく呆けていたが、アルカナ王女から指示が来たことでようやく動き出す。


「アルカナ王女より『しばらく阿久津を監視するように』とのことです!」


 刹那と同じ指示だった。

 兵士たちは困惑しながらも、遠くの城を見守ることにする。


 開戦は少し唐突だった。

 しかし、フレイヤ王国は事前に準備していたがために、後れを取ることはなかったのだ。


 まずは刹那が阿久津五郎を迎撃する――





 ちょうどその頃、城で待機していた太陽たちにも連絡が入っていた。


「太陽様! 敵ですよっ。すぐそこにいるそうです!!」


 ゼータの部屋でだらだらしていた太陽のところに、慌てた様子のアルカナがやって来た。


「え~? 今、耳かきしてもらってるから、後でいい?」


 だが太陽はやる気がなかった。

 ここ数日、ゼータやミュラ、あとはリリンにちやほやされていたので、すっかりやる気をなくしていたのである。


 彼は女の子とイチャイチャしている時が一番幸せなのだ。


「ど、どうかお願いします……土下座! さぁ、一国を一生懸命守ろうとしている王女の土下座です!! これで動いてくれますか!?」


 必死のアルカナはプライドかなぐり捨てて頭を下げる。

 さすがにそこまでされると、太陽は動かざるを得なかった。


「わ、分かったから……行けばいいんだろ、まったく」


 ぶつぶつ言いながらも体を起こした太陽に、今度はゼータが声をかける。


「ご主人様、いってらっしゃいませ」


 優しい笑顔を向けられて、太陽もまた笑顔を返すのだった。


「おう、いってくる」


 そして太陽も、動き出す――

いつもお読みくださりありがとうございます!

このたび、新作『負け組奴隷生産職は『武具生成』チートで成り上がる ~無限に生産できる最強装備なら復讐も簡単です~』を連載しました。

よろしければ、そちらも読んでいただけると嬉しいです!

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