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198 阿久津五郎について

「ひとまず、これで戦力は集まった。機を見て阿久津五郎の討伐を遂行できるだろう」


 女神フレイヤの私室にて、彼女は太陽に阿久津五郎討伐の計画を話す。


 現在、このフレイヤ王国には絶大な力を持つ人員が揃っていた。


 人間からは太陽と同じ転生者である神楽坂刹那を始め、超越者のシリウス、そして騎士王のエリスとアルカナがいる。


 エルフからはアールヴ一人だが、彼女の持つ魔法アイテムは大軍と同じ価値があるだろう。


 魔族からはリリンと魔王だ。リリンの【隷属】によって力が増幅されている魔王は大きな力となるだろう。


 三種族でも最上位の人員が揃っていた。


 その上、最強の加賀見太陽もいるのだ。

 阿久津五郎にも対抗できる戦力だと、女神フレイヤは判断しているらしい。


「かつては貴方だけに頼りすぎた。私の軽率さが招いた敗北だろう……数の暴力に屈してしまったが、今回は違う。しっかりとしたサポートが期待できるはずだ」


「ふーん? 阿久津は俺が倒すってことでいいんだよな?」


「ああ。【複写創造クローン】の力を持つ阿久津を殺してくれ……恐らくはSSR級の阿久津に守られているだろうが、それも少数だろう。貴方なら大丈夫だと信じている」


 フレイヤは大丈夫と口にはしたが、しかしその表情は少し曇っていた。


「貴方の戦闘が邪魔されないよう、その他大勢の処理は貴方以外のメンバーに任せようと思っている。これで、勝てると信じたいが……果たして、そう簡単にうまくいくか」


 どうやら不安らしい。

 だが、太陽からしてみると、阿久津はそんなに大した人間ではないので、警戒する必要性は薄いと思っていた。


「あいつってそこまで強いか? 正直、この世界の俺が負けたっていうこともちょっと信じられないんだけど」


 今まで何度か戦いはしたが、全て圧勝だった。

 苦戦らしい苦戦もなく、楽勝だったと太陽は思っている。


 阿久津五郎はあまり強くない――というのが、太陽の認識だった。


 だがそれは違うと、フレイヤは首を振る。


「確かに阿久津五郎本人は、まぁ大したことはないかもしれない……持っている力は脅威だが、本人の人格に問題がありすぎる。あれが一人なら、この世界の貴方も負けることはなかっただろう」


「え? 一人、じゃないのか?」


 てっきり阿久津に仲間はいないと太陽は思っていたが、どうも違うらしい。


 とはいえ、冷静に考えてみれば分かることではある。

 阿久津五郎は転生者だ。つまり――彼を転生させた存在がいるということである。


「悪神『ロキ』……悪戯好きの厄介な神だ。何を思ったのか、私の世界にちょっかいを出してきてな……ロキが関わったせいで、この世界は滅茶苦茶だ」


 阿久津五郎を転生させた神は、ロキという悪神らしい。

 悪戯好きで迷惑なようだが、とても厄介とのこと。


「ロキは他者を困らせることが得意だ。かなり頭もいい……きっとロキが阿久津五郎に色々と入れ知恵しているはず。【複写創造クローン】の力を奪ったのも、貴方を倒したのも、全てロキが介入した結果だと私は分析している」


 だから、今回の戦闘も想定通りにはいかないかもしれないと、フレイヤは不安に思っているのだ。


 対して、加賀見太陽はと言えば。


「ふーん? 神様なら一回殺したことあるし、まぁ何とかなるんじゃないか?」


 別に全然緊張してなかった。


 フレイヤの説明も退屈そうにしていたくらいで、むしろフレイヤの鎖骨が綺麗なことの方に興味を持っていたくらいである。


 彼はかつて、死の神『タナトス』さえも殺したのだ。

 今更、神様ごときでおろおろすることはないのである。


「大丈夫だよ。この世界の俺が帰ってくる前に、俺が全部終わらしてやる……で、元の世界に帰って童貞を卒業する。よし、完璧な作戦だな」


 頭の悪い、楽観的な作戦だ。

 でも、フレイヤはその言葉を頼もしそうに聞いていた。


「そうか……貴方がそう言うのなら、そうなのだろう。信じている。それしかできなくて、申し訳ない……戦いにも介入したいが、そこで力を使っては貴方を基の世界に帰せなくなるだろうからな」


 フレイヤは太陽をこの世界に連れてくる神力を大きく消費していた。

 太陽を帰す分の目途は立ったようだが、戦いに介入することは難しいだろう。


「いいよ、助けは要らない。どうせ俺が勝つし」


 申し訳なさそうにするフレイヤに、太陽は力強い言葉をかける。

 彼は阿久津五郎やロキの脅威を聞いてなお、勝利を疑っていなかったのだ。


「俺は最強だからな」


 加賀見太陽は、最強である。

 ただそれだけの話だ。


「ああ……貴方は最強だ。しっかりと、勝利してくれ」


 フレイヤも太陽の自信に勇気づけられたのか、表情を明るくした。

 人間にはない芸術品じみた美しい笑顔が、太陽に向けられる。


「う、うん。頑張る」


 童貞の太陽にとっては、阿久津よりもこの笑顔の方が脅威だった。

 心臓をドキドキさせならがも、彼はフレイヤに約束する。


「じゃあ、タイミングが来たら言ってくれ。いつ出ても、勝つから」


 最終決戦は、目前である――

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