189 超越者
「太陽様、遅れてしまい申し訳ありませんっ」
ふと気づけば太陽の隣に王女様が立っていた。
転移してきたようである。
「このおっさんは王女様が連れてきたのか?」
「はい。太陽様がアルフヘイムを訪れるということで、あらゆる場所に転移して彼を探してまいりました」
「……マジか。王女様がちゃんと仕事してるだとっ」
「わ、わたしくは国のリーダーなのですっ。これくらい普通にやりますから」
太陽が元いた世界の王女様はわがまま放題な人なので、ギャップがすごかった。
そして、ギャップと言えば。
「殿下、お声掛けいただき感謝いたします。この超越者、命を賭して敵を討ってみせましょう」
膝をついて頭を下げるかっこいいおっさんが、あのオカマなシリウスと同じ人物だとは到底思えない。
ギャップというか、ここまでくるともう別人だった。
「はい、太陽様の力になってあげてください。それではわたくしは、お城に帰ります」
王女様は上品に微笑んでから城に転移していった。
この場にいてもお荷物になると自覚しているのだろう。早々に退散したようだ。
「うーん、どう対応していいか分かんない……」
戸惑う太陽。
一方、膝をついていたシリウスは立ち上がり、警戒している阿久津たちを睨んでいた。
重厚な鎧を鳴らして、歴戦の戦士のごとき雰囲気を醸し出している。
「少年、この場に『オリジナル』はいないようだな」
「……オリジナルって?」
「元の阿久津五郎のことだ。騎士王より奪った力を持つ個体ともいえる。あれを殺さない限り、阿久津五郎は消えない」
だから、倒すのであればそのオリジナルを仕留めなければならない。
「とはいえ、それはやつも理解しているのだろう……どこかに身を隠しいるようだな。ここはひとまず、こいつらを一掃しておくぞ」
「わ、分かった!」
色々と気になることはある。
しかし今は呑みこんで、戦いに集中することにした。
「敵には魔法消去の個体がいるらしいが、恐らく消去できる魔法は一人。しかも時間はほんの数秒程度だろう。二人でタイミングをずらせば問題ない」
「え、あ……はい」
「叩くべきは死者を操る力を持つ個体だ。どれも同じ顔で識別はつかないが、そいつはきっと一番防御の硬い場所にいる。戦闘中に見極めろ」
「な、なるほど!」
「他に少年が気になることはあるか? 私が来ていない間に変わったことがありそうなら何でもいいから伝えてくれ」
「ん? あ、あー……最初に爆発させた時、なんか防がれたっぽいような?」
「少年の爆発魔法を、か? なるほど、だから周囲への被害は大きいというのにやつの死傷者数は思ったより少ないのか。防御系統の力を持つ個体もいるようだな」
太陽の曖昧な情報だろうとシリウスは上手く汲み取る。
洞察力もかなりのものだ。この場の阿久津とはほんの一瞬しか戦っていないと言うのに、既に場の戦力を分析したようだ。
頭の回転がかなり速いのだろう。
(くそ! あのオカマが脳裏にちらつくっ)
この世界のシリウスはなかなか頼りがいもありそうだし、何より強そうである。
しかし、元の世界のシリウスとかけ離れすぎていて、太陽は頭が痛くなっていた。
「で、俺はどうすればいいっ?」
細かい作戦はどうでもいい。
とにかく太陽はやるべきことのみを考えることにした。
「少年は後方からひたすら爆発魔法を放て。魔法消去の阿久津はきっと、少年の魔法しか消せなくなる。爆発をひとたび許せば甚大な被害が出るからだ……その間に、私は死霊術を使う個体と防御の力を持つ阿久津を殺す。その後は手間取ることもないだろう」
「了解! おっさんは大丈夫なのかっ」
「無論――私に少年の爆発魔法は効かない」
「はっ! 言うじゃねぇか!!」
太陽は吠えて、保有している魔力を放出する。
やるべきことは分かった。
「少年の爆発魔法が発動するように尽力しよう」
「おう! とにかく、魔法が放てるようになるまでやってやるっ」
あとはただ、実行するだけ。
「【爆発】!!」
魔力が、刹那に膨張する。
だがここで、またしても邪魔が入った。
「【魔法消去】!」
阿久津のうちの一人が太陽の魔法を無効化する。
未だに何百もいるのだ。その個体を太陽は見つけることができなかった。
だが、超越者の目は、しっかりと捉えていたようだ。
「――見つけた」
瞬間、シリウスは疾走する。
巨体の上にヘビーアーマーを装備しているとは思えないほどに機敏な動きだった。
道中、阻もうとする阿久津は足を斬って行動を不能にする。
炎や風など、何らかの力を阿久津たちは放っているが、その程度の攻撃はヘビーアーマーのおかげで効かないらしい。
ただ、まっすぐに。
シリウスは魔法消去の力を持つ阿久津へと突っ込んでいった。
「ちっ! うぜぇんだよ、【障壁】!」
しかし、SSR級の力を持つ一人の阿久津がシリウスの行く手を阻んだ。
「なるほど」
見えない壁のようなものに遮られて、シリウスは動きを止める。
「かかれ!!」
その隙に死者となった阿久津たちが一斉に襲い掛かってきた。
身を挺した特攻である。
しかし、シリウスは意に介さない。
「ふんっ!!」
力任せに、押し寄せてくる阿久津を跳ねのけた。
「「「ぐぁあああああああ!?」」」
圧倒的なパワーに、阿久津は吹き飛んでいく。
超越者シリウス。
その力は、まさしく人間を超越していた――




