183 大きすぎても
「フレイヤー、イケメン連れてきたぞー」
フレイヤ王国、壊れかけの王城にて。
謁見の間で太陽が声を上げると、金髪の美しい女神がすぐに姿を現した。
「何!? もう阿久津五郎を倒してきたのか!」
「え、うん。まぁ……それよりもイケメンに反応して駆けつけるとか、面食いな奴め」
「べ、別にイケメンなんて興味ないっ。勘違いされては困るのだが!」
へらへらと笑う太陽に、隣のイケメン――神楽坂刹那は苦笑していた。
「君は相変わらずだなぁ……そうやって女の子をからかってると嫌われるよ?」
「――マジか。なるほど、だから俺はモテなかったのか……っ!」
「あとは顔だね。顔が良ければモテてたと思うよ」
「結局顔じゃねぇか! どうしようもないしっ」
顔は努力でどうにもならない。
太陽はケッと舌を鳴らす。
「お前嫌いだ」
「僕も君は嫌いだよ。思い通りにならなくてイライラするし」
転生者二人はあまり仲良くないのだが、ともあれ今回は共通の敵を持つ者同士である。
敵の敵は味方。協力することを、二人は事前に約束していた。
「おら、イケメン。助けてやったんだから俺たちの手伝いもしろ」
「はいはい、約束だからね………」
ため息をついた刹那は、おもむろに自身の力を発動させる。
「【想像創造】――『修復』」
その力は、想像した通りの結果が出現するというチートだ。
使用者の想像力によって全てを自在に操ることのできる力は今、半壊しているフレイヤ王国の王城を『修復』する。
仮定を飛ばして概念を形にする【想像創造】は、こういったことにも利用できるのだ。
一瞬で、城が元通りになる。
「……噂には聞いていたが、これほどとは」
フレイヤは刹那の力を知っていたのだが、実際に目の当たりにするのは初めてだったので驚いていた。
今回、刹那を助けたのは彼の力を復興に役立てるためにフレイヤが指示したことである。現在、阿久津によってフレイヤ王国は悲惨な状態になっているのだ。
刹那であれば、建物などを容易く修復できる。また、食料なども彼の力なら生み出すことが可能だ。
なので、フレイヤ王国の国民の住居や食料などの問題もないに等しい。刹那であれば全て用意することができるからだ。。
どちらかといえば、【想像創造】は補助に優れている力ともいえる。頭が良いこともあって、刹那は内政チートタイプなのだ。
「これからお前には働いてもらうからな」
「約束だからね、言う通りにしよう。その代わり、僕の国の民を守ってくれよ」
「約束だからな。それは任せろ」
お互いの欠点を補い合う、という目的で二人は手を組んだ。
太陽は刹那に建物の修復や食料の生産をお願いするために。
刹那は国民を太陽に守ってもらうために。
性格の相性は良くないが、ひとまず協力することにしたのである。
「……ん? ああ、ごめん。女神フレイヤ様、少しいいですか?」
と、ここで刹那はフレイヤに意識を向けた。太陽に対するものとは違って丁寧な態度で言葉をかける。
「うちの女神様が、話をしたいとのことです。いいですか?」
「……ヴァナディースか。気が進まないが、仕方ないか」
フレイヤは少し嫌そうにしていたが、否定はせずに了承する。
「では――どうぞ、出てきてください」
そして刹那は、【想像創造】によって構築していた別空間から、とある存在を出現させた。
「あ~ん。フレイヤちゃん、久しぶりですわ~」
その容姿を一目見て、太陽は目を大きく見開く。
「おっぱい!」
そう。今しがた出てきた人物は、爆乳のお姉さんだったのだ。
そのおっぱいは生物という次元を超えていた。
ここまで大きくていいのか!? と目を疑うようなおっぱいが目の前にはあった。
ピンクの髪の毛や紫色の瞳は美しく、神々しさすら感じるのだが……胸元がぱっくり開いているドレスを着ていることもあって、少し淫らにも思えるような存在だった。
彼女は、女神ヴァナディース。
刹那を転生させた、ヴァナディース王国の象徴である。
「……くっつくな。私は貴方が苦手なのだ」
「そんなこと言わないでくださいまし~。分身ではないですかぁ~」
間延びした喋り方はどこか甘ったるい。ヴァナディースにむぎゅっとくっつかれて、フレイヤはイヤそうな顔をしていた。
「はぁ……太陽に説明しておこう。彼女は女神ヴァナディースだ。私の分身的存在でもある」
「……なるほど、分からん」
分身と言われても太陽にはまったく理解できなかった。そしておっぱいがでかかった。
「むぅ……説明は少し難しいな。私とヴァナディースはもともと一つの存在で、美、愛、豊饒、戦い、魔法、を守護していたのだ。しかし下界に降りるにあたって、存在としての器が大きすぎたため、二人で分割したのだ」
「……ふむふむ、分からん」
未だに意味不明だった。そしておっぱいがでかかった。
「もう分からなくても良いか。とにかく、私とヴァナディースは存在を分け合った。私、フレイヤは『戦い』『魔法』を、ヴァナディースは『美』『愛』『豊穣』を司っている」
「つまり……おっぱいということだな!」
「ああ、それだ。ヴァナディースはおっぱいで、私はおっぱいじゃない。そう認識してればいい」
フレイヤは説明を諦めて溜め息をつく。
太陽の認識もあながち間違ってないので、もう面倒になって彼女は頷いた。
フレイヤは戦乙女である。戦いと魔法の力に特化しているため、女性らしさがあまり外見に現れなかった。
一方のヴァナディースは豊穣の女神である。美や愛、豊穣などの力に特化しているため、女性らしい外見となっているのだ。
「え~。ナディはぁ、おっぱいじゃないですのよ~?」
女性らしさが濃く出てしまい、少し頭が悪そうな話し方をする女の子だった。ナディ、というのは自分の愛称なのだろう。自分で言うあたり、少し痛々しい。
だが、こういうところが男受けするわけで、そしてフレイヤは苦手だった。
「……今回は~、助けてくれてありがとうございますですの~」
「利害の一致だ。当面はこの国で休め」
「お言葉に甘えますわ~。あの、阿久津五郎でしたっけぇ~? あれに狙われるのはうんざりですの~」
阿久津がヴァナディース王国に拘っていたのは、この女神ヴァナディースが居たからというのもある。
このおっぱいは、男を惑わす兵器なのだ。
「うーん、なかなか……どうやら俺は大きすぎたら無理なタイプだったか」
しかし、太陽は何やら頷いていた。
初めて目にした超巨大おっぱいに驚いていたが、少し時間が経って冷静になったらしい。
太陽としては、あくまで常識の範囲内が好ましいようだ。大きさで言うならエルフのアールヴくらいが限界なのである。
大きすぎても、少し下品になりがちだ。
おっぱいは奥が深いなと、太陽は改めて思うのだった。




