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171 お前誰だよ・・・

「……もういない」


 男を殺してから暫く経って、ふとエリスは警戒を解いた。

 何か確信したように頷いてから、剣を下ろす。


「大丈夫なのか?」


「問題ない」


 彼女が警戒を解いたので、太陽もまた緊張をほぐす。

 敵はいなくなったようだ。


「……何故、貴殿がここに?」


 と、ここでようやくエリスが太陽の存在に首を傾げた。

 

「殺されたと、聞いていた」


「今更かよ」


 先程は無我夢中になって気付いてなかったのだろう。

 しかし、聞かれたところで太陽には何も答えられないわけで。


「俺も分からないんだよなぁ……なんでここにいるんだか」


 二人して、首を傾げてしまった。


「たぶん、王女様が知ってると思うんだけどな。俺、誰かに呼ばれた気がして、ここに来たと思う」


「そう……アルカナ! こっちに来て」


 エリスは遠くで身をすくめているアルカナに声をかける。

 その、微かに荒っぽいエリスの口調に、太陽は違和感を覚えた。


(ん? エリスさんって、もっと……)


 頭の中に疑問符を浮かべていると、アルカナがエリスの指示通りにやって来た。


「ごめんなさいっ。腰が、抜けちゃってて」


 それにもまた、違和感を覚えた。


(んー? 王女様って、もっと……)


 二つ目の疑問符。

 アルカナもエリスも、太陽は知っているはずなのに……まるで、知らない人を見ているかのような気分である。


 少し注意深く、二人のやり取りを窺った。


「アルカナ。何故、彼がここに?」


「えっと……あの、転移魔法で呼んだら、来てくれました」


「それはおかしい。アルカナの魔法は、死人を呼び戻すことなんてできない」


 ここまで聞いた太陽は、ものすごく驚いた。


(あのエリスさんが……王女様の意見を否定している!?)


 アルカナをこれでもかというくらい甘やかすことで有名なエリスが、アルカナの言葉に異を唱えている。


 こんなことをされては、あのメンタルが弱くてわがままなアルカナのことだ。すぐに泣くだろうと、太陽は思ったのだが。


「ごめんなさい……でも、分からないんです。アルカナも、びっくりしたの」


 なんと、あのアルカナが素直に謝罪したのだ!

 太陽は驚きのあまり口をあんぐりと開けてしまった。


 聞き間違いか、あるいは幻覚を見ているのかと思えるような、違和感のあるやり取り。


「アルカナ。また、子供っぽい口調になってる。王女様らしくしないと駄目」


「あ、はいっ。ごめんなさい」


 しかし、目の前の二人は幻覚でも何でもなかった。


(お前らは一体誰なんだよ……)


 まるで、真っ当な近衛騎士と普通の王女様らしい雰囲気を醸し出している。


 なんとなく、二人は太陽の知っている二人と違う気がした。


 そして、何よりも不思議な点が一つ。


「エリスさん……よく、こいつの首を斬り落とせたな」


 すぐそこに転がっている、男の首。

 これを斬り落とせたエリスの実力に、太陽は何よりも疑問を抱いている。


 何故なら、この男は太陽と同じ保有魔力量を持っていたはずだからだ。

 それは即ち、太陽と同じ肉体強度を有していたということでもある。


 彼の記憶だと、エリスは太陽を傷つけられるほど強くなかったのだ。


 その実力は、恐らくヘズと同等である。

 これが、何よりも不可解だった。


「……この身は、騎士王として『フレイヤの加護』を頂いている。加えて、王国の宝剣を預かる身……これくらいは、できて当然。いや、できなければならない」


 彼女は、無表情で持っていた剣を握りこんだ。


「『エリス』は、この男に力を奪われるという失態を犯した。そのせいで、厄介な難敵になってしまった……償いのために、一人でも多く殺さなければならない」


 エリスは【複写創造(クローン)】という力――正確にいうと、スキルを保有している。

 効果は、自身の体を魔力の尽きない限りに複製できるというものだ。


「失敗した。まんまと、この男――阿久津五郎に力を奪われた……そのせいで、こいつを殺すのは難しくなっている。『エリス』の持っていた力を持つ個体を殺さなければ、無限に出現することになる」


 でっぷりと太ったこの男の名は、阿久津五郎というらしい。

 転生者ということで、太陽と同じような日本名だった。


「阿久津、ね……で、こいつはどっから沸き出たんだ?」


 太陽の知る限り、阿久津のような転生者はこの世界にいなかったはず。


 他の転生者といえば、フレイヤ王国の隣国であるヴァナディース王国に、神楽坂刹那というイケメンの転生者がいたはずだが……阿久津は初見だった。


 新しく現れたのかと、太陽は予想する。


「え? この人は……太陽様と同時期に現れましたよね? 一緒に転生されたと、わたくしは太陽様から聞きました」


 しかし、アルカナはまたしても太陽の記憶にない事実を語る。


「最初から折り合いが悪くて、お二人は別々に別れたと言っておりました……それが、ある日を境に阿久津五郎が悪さを始めたから、太陽様が迎撃に出たのです」


「お、俺が? 迎撃……」


「ええ。『俺しかあいつを殺せない』と言って……戦ってくれておりました。そして、一ヵ月ほど前に――エリスの力を阿久津五郎が奪った後に、太陽様は殺されたのです」


 殺された。

 太陽は死んでいる、というのがアルカナとエリス、それから阿久津の認識だ。


 そう言われたも、彼には日本でしか殺された記憶がないわけで。


「――だから、生きててくれて、とても嬉しいです」


 そして、アルカナが嬉しそうに微笑みながら、太陽に抱き着いてきたものだから……余計に混乱するのだ。


 おっぱいがあたって、太陽は反射的にのけぞってしまう。


「お、お前は誰だ! 俺の知っている王女様は、もっとわがままで無礼で頭の中お花畑の見た目しか取柄がないへたれ泣き虫だったのに……さてはこの王女様は偽物だな!?」


 少なくとも、アルカナは太陽が生きていて喜ぶような性格をしていなかった。

 むしろ、太陽が死んだら喜ぶ。そでこそアルカナ・フレイヤだったはずだ。


「……流石に、そのような人物が王女になれるわけがありません。今の言葉は、訂正してくれると嬉しいです」


 そして、アルカナ本人も太陽の知るアルカナを拒絶していた。


「でも、泣き虫なのは当たっている。国を統べる者として、もっとしっかりしないと駄目」


 加えて、エリスも何やらとんちんかんなことを言っている。


「おかしい……俺の知っているエリスさんは、こういう時に王女様を全力でなだめて、甘やかすはずだ。王女様は悪くない。世界が悪いって、平気で言っていたあのエリスさんはどこに行った……」


「ちょっと待って。そんな人物が、近衛騎士になれるわけがない。訂正して」


 エリスもまた、自分自身を否定している。


(お前らは一体誰なんだよっ)


 疑問符でいっぱいになった太陽は、大きな息を吐き出すのだった。

いつもお読みくださりありがとうございます!

このたび、新作「お目覚めですか魔王様! ~幼女と始める魔王城建設記~」を投稿致しました。

最強の魔王が主人公です。もしよろしければ、こちらもよろしくお願い致します!

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