表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/223

158 償いと、これから

 影で構成された世界が、崩れていく。


 もう頑張らなくてもいい。何もしなくても、太陽に愛される――とルナが理解したがために、世界を構成していた魔法が維持できなくなったのだ。


 影の世界は、ルナの不安によって生み出されたものである。

 故に、不安がなくなった今……影が、光で塗りつぶされるように、消えていったのだ。


 ルナの構成していた世界が、崩壊する。

 影の世界に閉じ込められていたフレイヤ王国も、世界の崩壊と同時に姿を消した。元の場所に戻ったのである。


 太陽とルナも、影の世界から魔王城に場所を変えていた。

 二人きりである。


「お父様……ルナは、愛されてもいいんですの?」


「もちろん。お前は俺の子供だからな。しっかり、愛情もたっぷり与えてやる」


「そう、だと……嬉しいですわ」


 ルナも、涙がようやく止まって落ち着いたようだ。声は先程よりはっきりとしていた。


「大きくなれよ。俺も、しっかりと育てるから。一緒に暮らして、お前の成長を見守るのも楽しみにしてる」


「……はいっ。ルナのこと、どうかよろしくお願いしますの」


 ルナは、太陽にぎゅーっと抱きついた。

 今まで甘えられなかった分を取り戻すかのように、彼女は太陽にべたべたとくっつく。


「お父様……あの、えっと」


「何だ? 何でも言えよ、親子なんだから」


「じゃ、じゃぁ……頭、なでなで、してほしいですわ」


「任せろ」


 黒い髪を梳くように、ルナの頭に触れる。

 ただそれだけで、彼女は嬉しそうに頬を緩めていた。


「も、もっと……」


「このほしがりめっ」


 遠慮がちにではあるが、甘えるルナはとても嬉しそうだった。

 太陽も、親としてルナをきちんと甘やかす。子供のお願いを叶えるのは、親としての役目だと認識したのだ。


「甘えんぼだな、ルナは」


「だ、だって……今まで、我慢してきましたのっ」


「うん、分かってる。ごめんな、今までしっかりしてなくて」


「……これから、お父様と一緒にいられるなら、許してあげますわ」


「もちろん。お前のこと、責任持って育てる。もう、心配しなくていいからな……」


 親として、ルナの責任は全て持つ。それもまた、親であることを自覚した太陽が決意したことだ。


 子供のやってきたことの責任は、親がとる。

 もちろん、今回の件だって――太陽が、償うつもりだった。


 想起するは、一連の出来事について。


「色んな人に、迷惑かけちゃったな」


「…………はい」


 ルナの『太陽英雄化計画』に、多くの人が巻き込まれていた。

 これについては責任ととらなくてはならないと、太陽は思っている。


「エルフと魔族……あと、フレイヤ王国の住人たち、か」


「……ごめんなさい、ですわ」


「うん。一緒に謝ろう……特にフレイヤ王国には迷惑かけたから、しっかりけじめをつけないと」


 エルフや魔族はまだ、過去のこともあるので罪悪感は小さかった。しかし、フレイヤ王国の人間は太陽とあまり接点がなく、ただ単純に巻き込まれただけである。こちらに関しては、色々と償う必要があるだろう。


 具体的に言うなら、フレイヤ王国の住人が今回の件を水に流せるくらいの、何かを与える必要があった。


 それは、分かりやすく考えるなら――やはり、お金だろう。

 あるいは、国の繁栄でもいいかもしれない。


 そのために、どうすれば良いか。


「…………俺もそろそろ、身を固める時かな」


 手段は、すぐに思いついた。

 太陽は苦笑しながら、腕に感じるルナの重みを確かめる。


 子供もできたのだ。そろそろ、自由奔放に生きるのをやめて立派な父になる必要があると、そんなことを考えていたのである。


「あの、お父様。ルナのせいで、ごめんなさい」


「だから、俺には謝らなくてもいいんだって」


 申し訳なさそうなルナに笑いかけて、太陽は大きく頷く。

 迷いはルナのために消した。なるべく明るい声を発するように心がげて、こんなことを口にする。



「俺、フレイヤ王国の騎士になるよ」



 彼の持つ尋常じゃない力を、自分のためでなく……国のために使う、という決意をしたのだ。

 子供であるルナに、親として胸を張るために――あえて太陽は、この選択をしたのである。


「騎士になって、功績をあげて……稼いだ金を、償いとして住民に配布する。あと、国も繁栄させれば、誰も文句言わなくなるだろ」


 ルナに巻き込まれたせいで色々と損をした、というイメージを払拭するために。

 ルナに巻き込まれたから太陽が騎士になってくれて、得をした。そう思ってくれれば、償いになるだろうと太陽は判断したのだ。


「王女様も喜ぶだろうし。まぁ、悪くない案だろ?」


「…………ごめんなさい、迷惑かけてしまって」


「だから、お前が責任を感じるなって。子供なんだから、迷惑くらいたくさんかけろ」


 彼は笑う。別にルナのせいで、なんて思っていなかった。

 むしろ、いいきっかけになったとさえ思っている。


 この世界に来た当初は、他人のために力なんて使いたくないとばかり思っていた。

 自分が楽しければいいと、そういう風に考えていた。


 だが、子供ができた今……自分勝手のままではいけないと、彼は自覚したのである。

 異世界に来て、大分時間も経っているのだ。太陽も少しずつではあるが、成長していたのである。


 幸せにしてあげたい、と思っている対象が増えていることも理由の一つだろう。

 ゼータ、ミュラ、リリン、そしてルナ……みんなが笑えるような毎日を過ごすためにも、太陽は身を固める決意をしたのである。


「よし、じゃあ帰るか! 俺たちの家に」


 今後の事を決めてから、太陽は暗い顔をするルナの頭を撫でる。


「もし、今回のことで申し訳ないって思ってるんだったら……健やかに、育ってくれ」


「え?」


「お前が、元気に育つこと。それが何よりの、恩返しだから」


 ルナを元気づけるような力強い声だった。

 そんな太陽に、ルナは小さな拳をぎゅっと握った。


「……ルナ、大きくなりますのっ。大きくなって……お父様と結婚しますわ! それで、幸せにしてさしあげます!」


 それが、ルナの『償い』らしい。

 良い案を思いついたと言わんばかりに胸を張るルナに、太陽はより大きく笑うのだった。


「そうか。まぁ、できるできないは別として。これから、よろしくな」


「はいっ!」


 子供らしい、元気な返事だった。

 願わくば、これからも――ルナが子供らしく過ごせるように、と太陽は祈る。


 そのためにも、色々と頑張ることを決意した。


「まずは、ゼータに報告から先か……その後にリリンとかミュラも回収して、王女様とエリスさんにもお願いしないと……やることは多いけど、とりあえず屋敷で休もうか。ルナ、移動よろしく」


「お任せください、ですわっ」


 二人は手を繋いで、屋敷へと帰る。

 世界を巻き込んだ大規模な親子喧嘩が、ようやく終わりを迎えたのだ。


 ゼータの想像通り、終わってみればただの茶番である。

 全ては、不器用な親と子のすれ違いでしかなかった。


 しっかりとコミュニケーションを取った今、二人の間に親子の絆が芽生えた。ただそれだけで、全部解決したのである。


 これからの太陽の生活は、子供が加わったことでよりドタバタするだろう。

 しかし、前以上に楽しいものになることも、間違いはなかった。


 依然、童貞のままではあるが……成長した太陽である。童貞卒業の日も、きっと近いだろう。




 こうして、太陽は元の平穏な日常を取り戻した。

 代償として、フレイヤ王国の騎士になったのだが……これはこれで、悪くない選択だったようだ。


 何故なら、この後のフレイヤ王国は、かつてないほどの繁栄を見せたからである。


 太陽はいつしか国の守護者とまで呼ばれるようになった。住民もルナによる事件を忘れるくらい、王国が隆盛の時を迎えることになったのだ。


 ある意味では、ルナの計画が成功したともいえよう。

 太陽は、真の意味で『英雄』となっていたのだから――




 異世界から来た少年、加賀見太陽の異世界生活はまだまだ続く。

 平穏な日々は、彼が異世界にやって来た当初に思い描いていたような、幸福の日々だった。




第四章 英雄編~童貞なのに娘が出来ました!!~【完】

第四章、終わりです!

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この後、数話ほど間話を挟んだ後に、第五章に入ります。

これからも、どうぞよろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ