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14 チート野郎の天敵

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名前:シリウス

種族:人間

職業;召喚士

属性:無属性(召喚)

魔力:SSS

スキル:【召喚魔法適正】【魅了の幻惑】

冒険者ランク:SSS

二つ名:【超越者】

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「太陽様! お願いですっ。この前みたいに騙すことなんてしません! だからもう一度だけ! 転移を……転移をさせてください!」


 ある日、王城に呼び出された太陽は王女様に土下座された。なんでも転移をさせてほしいといのこと。


「…………」


 はっきりいうと怪しさ満点だった。この前はそのお願いを聞いて襲われたのである。今回も同じように襲われるかもしれないと、警戒していた。


「どうかぁ……どうかこの通り!」


 しかし、彼女がどうしてもと地面に額をこすりつけるので断ることはできなかった。仮にも一国の主がプライドを捨てて土下座しているのである。情けなくて涙が出そうだったのだが、その心意気を評価して仕方なく転移されてあげることにした。


「フハハハハハ! バカめ、それは嘘だ!」


 しかし転移した場所は……周囲に何もない、平原であった。

 転移直前に見た王女様のしたり顔が脳裏にちらつく。また騙されてしまったらし。懲りない人だなと息をついて、太陽は周囲を見渡した。


 何もない平原。どこまでも広がる草原はどこか牧歌的で、のんびりと昼寝でもしたくなる。だが、それはどうやら許されないらしい。


「あらん? あなたが、カガミタイヨウ……だったかしら?」


 平原には一人の男性がいた。女性の格好をしているが、少なくとも太陽には男性にしか見えなかった。


 筋骨隆々の肢体をぴちぴちの鎧で覆うその男性を前に、太陽は頬を引きつかせる。


「そ、そちらは?」


「アタクシ? アタクシはシリウスちゃんよ! シリシリって呼んでねっ」


「ぐはっ」


 ウフンというウィンクに太陽は吐血しそうになる。この世界に来て一番ダメージを受けてしまったようだ。


「な、なんでここに……?」


「アタクシは王女様からアナタの討伐を依頼されたのよん。これからよろしくお願いするわ」


「したくない……」


 戦うのはもちろん、顔を合わせているだけでも疲れそうな相手を前に太陽は気勢を削がれていた。シリウスは、なんというか……目が怖い。相手を舐めまわすような目が、太陽は苦手だと思った。


「うーん……アナタ、微妙だわ。とっても強いって聞いてたから、もっと凛々しい男の子を想像してたのに。パッとしなくて、少し期待外れかしらん」


「き、期待外れ、か」


 オカマに言われて太陽は少し複雑な気持ちになってしまった。別に好かれたいわけではなかったが、面と向かってパッとしないと言われるとなんだか少しへこんでしまう。


「強そうにも見えないわねん。アナタ、もっとお肉を食べなさい? いい男になれなくってよ」


「よ、余計なお世話だしっ。なんだお前、俺に喧嘩売ってるのか!?」


 一方的に言われるのもいいかげん我慢できなくなった太陽は、声を荒げてシリウスを睨みつけた。


「俺を討伐するんだろ? やってみろよ……できるもんならな!」


「あら。そういう生意気なところ、嫌いじゃないわ……よ!」


 そうして唐突に、戦いが始まる。

 先に仕掛けたのは、シリウスの方だった。ボディービルダーのようにポーズをとりながら、一つの魔法を展開する。


「【召喚(サモン)】――『邪龍』」


 それは、召喚魔法。

 異界の契約獣を呼び寄せる魔法。


「……え?」


 シリウスの召喚魔法が発動した、その瞬間。

 太陽の目の前に【邪龍】が現れた。


『グルァアアアアアアア!!』 


 禍々しい黒の鱗に、黒の牙。太陽の何十倍もある巨体を揺らして、邪龍は迫りくる。


 完璧に不意を突かれてしまっていた。回避は間に合わない。


「――っ!!」


 パクン、と太陽は邪龍に丸のみにされてしまう。地面ごと抉るように食べられた太陽は喉元を通って胃の方に落ちていった。


(臭っ! っつーか、なんだこれ……胃液か!?)


 煙をあげる液体を見て、太陽はそれが強烈な酸であることを理解する。保有魔力量の高い彼の肉体は普通より相当頑丈だが、それでも長時間邪龍の胃液に浸かるのは不味いと判断。


「【爆発(エクスプロージョン)】!」


 即座に魔法を展開。内部ごと邪龍を爆発させた。


『ガァ……ッ』


 同時、邪龍の体が破裂する。内部から膨れて破けた邪龍は、そのまま絶命していった。


「は、初めて食べられたぞ……」


 どうにか邪龍の内部から脱出した太陽は、薄らと汗をかいている。経験したくないことを経験して少し気持ち悪くなっているようだった。


「流石ね、やるじゃない。一応、アタクシが半年間かけてようやく調教できた相手なのに……こうも簡単に殺されちゃうと、もったいないわぁ」


 一方のシリウスは楽しそうに笑っている。太陽を前にしても危機感をまるで抱いてないようで、その態度が彼は気に入らなかった。


「【火炎剣(ファイヤソード)】」


 火炎の大剣を出現させて、シリウスに向かって思いっきり振り落とす。炎龍ですら真っ二つにした威力を有する魔法だ。シリウスもただではすまないはず――と、思っていたのだが。


「お茶目ねん。そういうところ、素敵よっ」


 大地が割れて、大気が焦げる。平原にヒビが入るほどの火炎剣の直撃を受けて、しかしシリウスは平然と佇んでいた。


 その体には一切の傷がない。


「……なんで?」


 不思議だった。そういえば、邪龍の内部で爆発の魔法を唱えた後もシリウスは平然としていたのだが、これはよくよく考えるとおかしいことだ。爆風で周囲一帯が焦土となっているのに、シリウス本人はなんてこともなさそうなのである。


 そんな太陽の疑念に、シリウスは機嫌よさそうに答えてくれた。


「アナタ、火属性なんでしょ? だから火炎耐性の高い鎧を持ってきたのよん。炎龍の骨で作った一級品なんだからっ」


「……なる、ほど」


 以前あげた火炎龍の龍骨。活用してくれて何よりであると、太陽は肩を落としていた。こうして活用されることに対して少し釈然としない気持ちはあるが、それはともかく。


「あと、アタクシの体に【火炎魔神(イフリート)】を召喚して憑依させてあるから。熱耐性は完璧に近いわね……アナタ対策は、十分にしてきたのよん」


 シリウスは、万全の態勢で太陽を殺しにかかっていた。太陽の十八番である炎熱が完璧に封じられてしまっているようである。


「【火球(ファイヤボール)】」


「無駄よっ」


 火炎の球体も意味はなかった。爆発しようとも涼しげな顔で佇むシリウスには欠片も効いていないようである。恐らく、シリウスもまた太陽と同様に保有魔力値が高く、高い肉体強度を有しているのだろうと太陽は推測した。


 爆風も通用しない。熱はもってのほか。火炎もまた然り。


 完璧ともとれる太陽対策に、当の本人が思わず笑ってしまうくらいだった。


「……強いな、あんた」


「いいえ、アナタよりかは強くなんてないわ。でも、お坊ちゃん? 勝負は強さだけで決まるものじゃない。アナタがいくら強くても、アタクシに勝つことは不可能っていうことよ」


 チート能力で強くなった太陽とは魔逆。努力と経験によって力をつけた存在こそ、太陽にとっての天敵だ。


 シリウスもまた、盲目の剣士――ヘズと同類だったのだ。

 太陽の届かない領域にいる敵なのだ。


「…………面白い。やっぱり、これが戦いって奴だよな」


 だが、太陽は笑う。

 楽しそうに、愉快そうに、好戦的な笑顔を浮かべていた。


「お前を、倒す」


 そう宣言して、太陽は魔力を高める。

 これから始まる戦いに、胸を躍らせて――

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