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133 鍛冶神ヘパイストスの提供でお送りします

「おっすおっす☆ へパちゃんのこと覚えてる~?」


 突然のことっだった。

 コホォとか変な呼吸をしているトリアにドン引きしていたところで、不意に太陽の世界が暗転した。


 天界の闘技場にいたはずなのに、いつの間にかとある工房に立っていたのだ。

 目の前には、褐色の幼女が一人。


「へパちゃんだゾ♪ イェイ!」


 満面の笑顔で横ピースを決める彼女は、鍛冶神ヘパイストス――つまり、神様であった。

 以前、何度か顔を合わせている存在である。


「……相変わらずテンション高いよな」


 容姿は作り物みたいに美しいが、性格がクソうざいところが難点だ。


「オイオイ、へパちゃんの登場なんだゼ☆ もっと喜べヨ☆ 勃起させてもいいんだゾっ」


「……おっぱい大きくしてから言え」


「アハハ、殺すぞコラ☆」


 甘ったるい声の彼女に、太陽はうんざりしたように肩をすくめる。


「あのさぁ、何か用なわけ? 俺、今から戦わないといけない相手がいるんだけど」


 リリンとエッチなことをするために。

 トリアを倒して王女を助け出し、鍵を手に入れる必要があった。


「用があるから呼んだに決まってるヨ♪ いいから黙って聞けナ☆」


 呆れた様子の太陽を前に、ヘパイストスはあくまでマイペースは貫く。

 人の話をまったく聞かないあたり、やはり神様である。ろくな存在じゃなかった。


「ニヒヒッ☆」


 ヘパイストスは慣れ慣れしく太陽に触ってくる。何がしたいのかまったく分からない。


「おい……何やってんだ、ってわぁあああああ!?」


 呆れて振り払おうとするが、ここでヘパイストスが太陽の下半身を触ってきた。

 驚いて声を上げる太陽。


「な、ななな何すんだよ!?」


「…………なるほどネ☆ お子様に優しいサイズだネ♪」


「ち、ちげーし! 臨戦態勢になったらバズーカだし!? っつーか、何で触った!?」


「ノリ♪ あとは、確認かナ? 本当に未使用なのか調べたんだゾ☆」


 未使用……そう言われて、太陽は何も言えなくなる。

 確かに未使用だった。使いたいとは思っているが、なかなかチャンスが訪れない。


「べ、別にそれはどうでもいいだろっ」 


「良くないゼ☆ だって、これであのルナとかいうハーフサキュバスが、処女受胎の結果生まれた存在だと分かったからネ♪ イェイ!」


 横ピースを決めて、ヘパイストスは不思議な踊りを始める。


「ア八ッ……なんだヨ、あの生物☆ 性能的には神様に劣ってないゾ♪」


 ヘパイストスの会話から、太陽は誰のことを話しているのかに気付く。

 この褐色幼女神は、童貞の太陽と処女のリリンから生まれた、ルナについて話していたのだ。


「お前……ルナと接触したのかっ?」


「ん~? そだヨ☆ ってか、あっちから接触があったんだゾ♪ 色々協力して欲しいって言われたんだゼ!」


 ルナの存在に興味を持ったから、ヘパイストスは今回太陽を呼び寄せていたのだ。


「マジか……」


 どうやら、ルナは神様さえも巻き込んでいたらしい。

 太陽は思わず呻いてしまった。ファザコン娘の被害が留まることを知らない。


「どんなことを協力したんだ?」


「えっとネ! 貞操帯に、建物に、ショーケース……あとは、エルフの強化☆」


 天界関連の建造物やアイテムは、だいたいヘパイストスが提供していた。

 鍛冶神なので、色々使われたらしい。ついでにトリアはヘパイストスの手によって、ああも頭がおかしくなっていたのだ。


 まぁ、トリアはともかく。


「娘が迷惑かける。悪いな」


 色々とヘパイストスに手間をかけさせたなと、太陽は娘の代わりに誤った。


「悪いと思ってるんなラ、へパちゃんのお願い聞いてくれヨ☆ っていうか聞けナ♪」


 そう言いながら、ヘパイストスは太陽に抱き着く。


「へ?」


 戸惑う太陽。ヘパイストスは太陽の態度なんてまるで気にせず、気が向くままに動いていた。

 おもむろに、彼女は太陽に唇を重ねる。


「むぐっ……痛っ!?」


 キス――されたかと思った瞬間、唇を噛まれた。

 顔をしかめる太陽の唇から、ヘパイストスは血を舐めとる。


「良し☆ これで完成だゾ♪」


 次いで、彼女が取り出したのは――漆黒の大剣だった。

 その刀身に、今しがた舐めとった太陽の血を沁み込ませる。


「……いったい何なんだよっ」


 意味不明だし、あとキスされて太陽は動揺していた。

 困惑しながらヘパイストスの様子を伺っている。


 対するヘパイストスは、漆黒の大剣を掲げて――満面そうな笑みを浮かべていた。


「久しぶりに魔剣以外の剣を鍛えたネ☆ うん、最高の一品かモ♪」


 禍々しい大剣である。鉱物というよりは、生き物の骨で作られたような武骨さがあった。


「……それ、何?」


「これはキミから作った大剣だヨ☆ ほら、前に変形してた時のヤツ♪」


「変形……もしかして、リリンに隷属してた時、か?」


 以前のこと。太陽はちょっと人間じゃなくなっていた。

 一時期ではあるが、魔族化していたのだ。しまいには狼みたいな体にもなっていたのである。


 その時、太陽には牙とか鱗とか生えていた。そのあたりの素材を使用したらしい。


「タナトスの神界に素材が落ちてたから作ったんだゼ☆ いや~、これもいわゆる神具になるのかナ?」


 神の鍛えた武器、神具。ヘパイストスはまがりなりにも神様なので、一応その分類になる。


「名は――『フェンリル』がいいネ☆ 神殺しの獣こそ、この剣の名には相応しいかモ♪」


 魔剣ではふざけた名前を付けるのが常だが、真剣に鍛えたらしく今回は普通の名前をつけていた。


「ほらヨ☆ 使ってくれナ?」


「え? くれるのか?」


 大剣を差し出されて、太陽は少し驚く。

 まさかヘパイストスから何かもらうことになるとは思っていたかったのだ。


「いいから、もらえヨ♪ これ、凄いんだからネ☆ 闇属性の素材を使用したから『強奪』のスキルを持ってるんだゾ! 相手の魔法を強奪して、自分の魔力を上乗せして放出できるって感じだゼ☆」


 性能は凄い。流石は神具である。


 だが、太陽にはもらう理由が分からなかった。


「えっと……俺、武器は使えないんだけど」


「大丈夫、使っとけナ♪ これを使うことが、へパちゃんのお願いだゾ☆」


 そのまま困惑していると、おもむろにヘパイストスが真面目な調子で言葉を紡ぐ。


「キミの娘に気を付けて。あれは、ちょっと分からない」


 全能の神でさえ、ルナという存在は理解できないと言う。

 だから新たな力となる武器を持たせてくれた、とのことだ。


「キャハッ☆ そういうことだから、頑張れヨ♪」


 真面目な顔は一瞬だった。すぐにふざけたヘパイストスは、ぽかんとする太陽の下半身をもう一回触る。


「ぬわぁああああ!? だから、触るなって! セクハラだぞっ」


「知らないのかヨ♪ 神様はエッチ大好きなんだゼ♪」


「だからって触るなっ……はぁ。もういい。武器はもらっとく。ありがとう」


 とりあえず礼を伝えると、ヘパイストスは満足気に笑う。


「神様の気まぐれだからネ☆ ありがたく思えヨ♪」


 そう言って、彼女は手を振るのだった。


 太陽の世界が、再び暗転する。

 彼が新たな力を手に入れた瞬間だった――

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