128 おっぱいには、勝てなかったよ……
前を見る。おっぱいがあった。
後ろを見る。おっぱいがあった。
右を見る。おっぱいがあった。
左を見る。おっぱいがあった。
どこを見ても、おっぱいがあった。
合計数にして二十四。十二人のたわわなおっぱいだ。
誰もが平均以上に大きい。されどもみんな異なる形状をしていた。
柔らかそうなものがあった。張りがありそうなものがあった。吸いつきたくなるものがあった。揉みしだきたくなるものがあった。
(みんなちがってみんないい――)
太陽は赤面して顔が熱くなる。
おっぱいだ。念願のおっぱいだ。むしゃぶりつきたくてしょうがなかった。
でも、ここで欲望のままに動けるのであれば、彼はここまで童貞ではなかっただろう。
加賀見太陽が童貞である最大の理由は、顔――ではなく、実はそのへたれな性格にある。
チャンスはたくさんあった。
でも、そのチャンスを掴みきれない、彼の女性に対する勝負弱さが原因なのだ。
今もそうである。
エッチなおっぱいを前に、されども太陽は動かない。
「……っ、ぬぁ」
変なうめき声を出しながら口をパクパクするだけである。
緊張で言葉が出ないようだ。
「さぁ、行け! 加賀見太陽に胸を押し付けろっ」
と、この場で最もエロいと言っても過言じゃないアールヴが、意気揚々と声を上げた。
彼女はとても愉快そうである。加賀見太陽に対して優位に立てる状況が嬉しいらしい。
いつも負けてばっかりだったので、意趣返しをするつもりのようだ。
「ひ、ひぎぃ」
迫りくるおっぱいに、太陽はなおも動けない。
結果、アールヴによって集められたエルフ娘たちのおっぱいを、その身に押し付けられることに。
むにゅん、と感じた。
そして生温かかった。
(おっぱいって、チートだろ……っ)
見せつけられるだけで、押し付けられるだけで、太陽は身動きができなくなる。
腕に、お腹に、背中に、足に、首元に、後頭部に、色々な場所に感じるおっぱい……太陽はもう指一本動かせなくなっていた。
ヤバい。このままでは、興奮で死ぬ。
身の危険を感じた太陽は、即時離脱を決断した。
「あ、あのっ。みんな、別に好きでこういうことやってるわけじゃないだろ? やっぱり、愛って大事だと思うんだ。そうやって、命令とかで人におっぱいを向けるのはやめた方がいいぞっ」
おっぱい要員として集められたエルフ娘一同に語り掛ける太陽。
情に訴えかけて、正気に戻ってもらうつもりだったのだが。
「いやですわ、太陽様?」
「私達エルフを救ってくれた、英雄様?」
「魔物を討伐してくれて、感謝しています」
「どうぞ、自由に……私達の体を使ってください」
おっぱい要員のエルフ娘たちは、どうやら最初から正気じゃなかったようだ。
「くっくっく! 甘いぞ、加賀見太陽!! こ奴らはな、妾が用意した夜伽部隊じゃ! といっても、ルナなる娘に進言されて作ったのじゃが……ともあれ、説得は無駄と心得よ!」
ドヤ顔で勝ち誇るアールヴに、太陽は頬を引きつらせることしかできなかった。
「そ、その部隊は、俺に対して効果ありすぎだろっ」
痴女エルフ集団に加賀見太陽は恐怖を抱いている。
「り、理不尽だ……反則だ! せめて、戦えっ。卑怯だぞ!!」
「そなたに卑怯とか言われたくないのじゃ……存在自体が卑怯者のくせにっ。くらえ、ハーレムアタック!!」
「――ぐはぁ!?」
更に強く、おっぱいが押し付けられる。
加賀見太陽は立っていることすらできなくなって、その場に倒れ込んでしまった。
そのまま痴女集団は抑え込みに入る。おっぱいによって手足が封じられて、太陽はいよいよ動けなくなった。
いや、抑え込みは弱い。ちょっと力を込めれば脱出は容易である。ただ、おっぱいを押しのける必要があった……そんなの、童貞にはできない。
今でさえ、おっぱいに触れてドキドキして吐きそうなのだ。
冷や汗も流れている。まさかここまでおっぱいに狼狽するのかと、太陽さえも驚いていた。
ゼータのおっぱいを触って、彼は自分が大人になったと思っていたのだが……そんなことはまったくなかったようだ。
現に、太陽はおっぱいで動揺している。
見ず知らずの者のおっぱいは、それはそれで厄介というか……エロかった。
「よし、そろそろ……妾の番じゃ」
そして、ここで最終兵器が出てくる。
「ぐぎっ……」
(――おっぱい爆弾!)
太陽はそう思った。
アールヴのおっぱいは、それはもう大きくて……ヤバかった。すっごいヤバい。ヤバすぎて逆にヤバい。どれくらいヤバいかというと、語彙力が低下するくらいヤバかった。
「しかと堪能せよっ。妾の恨み、ぶつけてやる!!」
アールヴが、おっぱいを太陽の顔にぶつける。
でかいのに柔らかくて、温かい。最高のおっぱいに太陽の体はぴくぴく痙攣していた。
(え、エロすぎィ!!)
全てを投げ出して、むしゃぶりつきたくなるおっぱいだ。
しかし、彼はそうしない。何故なら――脳裏に、ゼータを思い浮かべていたからだ。
ゼータなら、見ず知らずのおっぱいを太陽が触ったら、何と言うだろうか。
欲望に流されました、と言ったらなんとなく嫌われる気がしたのである。
だから耐えてきた。不可抗力で触る分にはセーフだと思い込めるが、自分から触ろうとすることはできなかったのである。
「耐えるね、太陽くん。がんばれがんばれ」
おっぱいに埋もれる太陽を、一歩引いたところからミュラが応援している。
「た、たすけっ」
アールヴのおっぱいにもみくちゃにされながら、どうにか声を発するが……ミュラは微笑するのみだった。
「ボク、太陽くんの困った顔、そこまで嫌いじゃないんだよね」
「……え?」
唐突に語りだしたミュラの顔には、嗜虐的な表情が浮かんでいる。
「困ってる顔も素敵だよ。もっと、困らせたくなっちゃう」
まさしく、ミュラは小悪魔的な……悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。
太陽は涙目で首をブンブン振る。ここで、追い打ちをかけられては、どうしようもないと分かっていたのだ。
「ボクも、行かせてもらおうかな」
しかしミュラは容赦しない。
そこそこ豊かに育った胸を持ち上げて、彼女もまた太陽の顔に押し付けてきたのだ。
アールヴのおっぱいを押しのけるように、ミュラのおっぱいが乗ってくる。
二十四のおっぱいに包まれて、太陽の頭はほとんど沸騰していた。
(もう、無理……っ)
エロい。とにかくエッチだ。
おっぱいは好きだ。でも、心の準備とか、女性経験のレベルが太陽には足りなかったのである。
「――――」
だから、彼は――多数のおっぱいに、気絶してしまったのだ。
途端に脱力して、彼は四肢を伸ばす。
「あれ? 太陽く……ん!? き、気絶してるっ」
「おお! 勝った……とうとう、勝った! あの化け物に、勝ったのじゃぁあああああ!!」
白目を剥く太陽。
その姿は、どこからどう見ても……情けなかった。
ヘタレ童貞は、なおも健在である。
こうして加賀見太陽は、敗北したのだ。
おっぱいには、勝てなかったよ……




