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126 炎龍討伐

 炎龍はかつて、世界の災厄だった。

 数えきれないほどの人間を殺していた、天災だった。


 炎龍は自らを最強だと定義づけていた。

 誰もが自分に劣る、雑魚だと認識していた。


 これらの全ては、過去形でしか語れない話。


 今となってはただの挑戦者である。

 加賀見太陽という、炎龍を大きく回る化け物を前に……かつて化け物だった炎龍は、プライドをかなぐり捨ててがむしゃらに挑む。


『死ね……死ね! 貴様が死ぬまで、この魂は朽ちることもできない!』


 肉体はとっくに滅ぼされていた。太陽が炎龍山脈で焼き尽くしていた。


 ちなみに、補足すると太陽の着ている衣服は大体が炎龍を素材にしているものだ。火炎耐性が高いのでお気に入りらしい。


 炎龍からすると、相手が自分の肉体を使っているわけなので、たまったものではないが。

 ともあれ炎龍はもう、ほとんど死んだ存在である。


 されども、太陽に復讐したいがために、魂を他の存在に呪縛してもらうことで強引に現世を生き続けている。

 太陽に負けたままでは死ねないと、炎龍自身が魂の消滅を拒んでいたのだ。


 かつての、最強だったという矜持はない。他に隷属される存在になろうとも、関係ない。

 全てが、加賀見太陽を殺すために。


「【火炎龍のかぎ爪(ファイヤ・クロウ)】!」


 空中にて、火炎を纏ったかぎ爪が振るわれた。

 太陽はそれを手で受け止める。皮膚を薄皮一枚削られるが、しかしそれだけだ。


「もっと根性入れてみろよ、おら!!」


 お返しの一撃を腹部にもらい、炎龍の身は上方へと吹き飛ばされる。

 だが、痛みなどもう無視していた。炎龍は自らの体が崩壊しようとも、躊躇しない。


 ただ、太陽を殺すために攻撃を重ねるのだ。


『【灼熱熱線ファイヤ・ウェイブ】!』


 吹き飛びながらも、火炎を咆哮する。

 閃光のごとき炎は真っすぐに太陽を貫いた。


「――いいじゃねぇか、その意気だ!」


 それでも、彼にダメージはない。

 不敵な笑みを浮かべたままに、太陽は咆哮を辿るように炎龍へと迫った。


「【爆発エクスプロージョン】!」


 接近して、ゼロ距離からの爆撃。


『ギガッ……』


 爆風によって、炎龍はまたしても上空に吹き飛ばされた。

 上に、上に。アルフヘイムが点になるほど上空まで至ってようやく、炎龍の体は止まる。


 高度は雲に迫っていた。

 白い霞が視界にちらつく中で、太陽もまた平然とその場に漂っている。


「うーん、空気薄いかな? この体、丈夫だからよく分かんないな」


 緊張感はない。

 炎龍という災厄を前にしても、まるで蚊を相手にするような態度。


『どこまでも、舐めてくれる』


 だが炎龍に怒りはなかった。

 もう慣れてしまったのである。加賀見太陽は、こんな奴だ。


 それを理解できるくらい敗北を続けた自分が、炎龍は情けなかった。


『やはり、まだ足りないか。貴様を殺すには、もっと……肉の一片を、魂の一片を、全てを賭さなければ――貴様を殺すことなど、できないか』


 感じた実力差はなおも歴然。

 肉体は頑強になった。攻撃力も上がっている。それでもまだ、太陽には届かない。


『……ならば、全てを捧げよう』


 炎龍は拳を握って、太陽を睨んだ。


『本当は使いたくなどなかった……が、もうこの身の矜持は無に等しいか。今更、プライドがどうのこうの言ったところで、意味もない』 


「……おい、何でさっきから独り言ばっかり言ってんの? 脳みそ爬虫類かよ」


『黙れ。この身は、貴様の娘から力を授かっている』


「――ルナから、力?」


 そう言われて、太陽はなんだか嫌な予感がした。

 炎龍は厄介だが、さっきまでの炎龍なら負けない自信があった。時間はかかるかもしれないが、いずれは倒せると確信していた。


 ただ、ルナがまた絡んでいるとなれば……どうなるか分からない、というのが本音だった。

 あの娘は、スペック的には太陽に迫る――化け物なのだから。


『【堕獄の焔フォール・フレア】』


 炎龍が呪文を口にすると同時に、その身体が赤黒い炎に覆われた。

 その炎は、太陽が天界で使用していた闇と炎が混合したものである。


 つまり、ルナが仕込んだ魔法だった。


『これは、我が魂と肉体を代償に、力を与えてくれる魔法』


「……あのクソガキ、本当に余計なことしやがって」


 ため息をつく太陽。明らかに、炎龍の力が増したのだ。


『この身の存在も、あと僅かだ――貴様を、殺してやる』


 まさしく、全てを捧げて太陽を殺そうとしていた。

 炎龍の覚悟を前に、太陽もまた自らにムチを打つ。


「まぁ、そうだな。今までいろいろ言ったけど、根性だけは認めてやろうかな」


『認める必要はない。貴様は死ねばいい』


「死んだらカッコ悪いだろうが。俺、お嫁さんにはカッコイイって思われたいし、お前も普通にぶっ殺してやるからな」


 お互いに戦闘の態勢をとる二人。


 アルフヘイムのはるか上空で、炎龍と加賀見太陽は向かい合う。

 これは、最後の戦いだった。


『グガァアアアア!!』


 炎龍は雄叫びを上げた。

 加賀見太陽を殺すべく自らを奮い立たせる。


『【灼熱熱線ファイヤ・ウェイブ】!』


 今度の咆哮は、ルナの魔法のおかげで威力が段違いだった。


「っ……【灼熱の業火ファイヤ・ブラスト】!」


 即座に太陽も魔法を放つ。膨大な量の炎は炎龍の咆哮と拮抗して――押し返された。


「ちょっ、強くなりすぎだろ!?」


 炎の咆哮が直撃して、太陽は若干の熱を感じる。

 火炎耐性の高い彼が熱さを感じた時点で、炎龍の炎は異常であることを意味していた。


「【火炎龍の掌撃ファイヤ・ショット】」


 と、気付いた時には既に炎龍が太陽の背後に回り込んでいた。

 ルナの魔法で、一時的だが全能力が向上しているらしい。


「ぐっ」


 攻撃を腹部に受けて、今度は太陽の方が上に吹き飛ばされることになる。

 高く、高く……雲を突き抜ける。


 煌々と輝く太陽の下で、二人は再度の殴り合いへを開始。


 今度は見た目だけでなく、内容も互角だった。

 一撃もらうたびに炎龍もダメージを受けるが、対する太陽も一撃をもらうためにダメージを受ける。


 こうなれば、最早勝利の軍配がどちらに上がるのか予想がつかなくなる。


 そのまま戦いが長引けば、あるいは炎龍が勝っていてもおかしくなかっただろう。

 しかし、炎龍の力は――刹那的なものなのだ。


『……ッ』


 想像より早く、限界は訪れた。


『ここまで、か』


 自身の限界を感じて、炎龍は歯を食いしばる。

 ここまできてなお、かつて災厄だった魔物は諦めてなかったのだ。


『だが、最後に殺す。絶対に、貴様を殺す!』


 炎龍は太陽へと掴みかかる。両手を合わせて、取っ組み合いの状態へと持ち込んだ。


『最後だ――死ねぇえええええええええ!!』


 そして、自爆。


 炎龍は己の持つ全てを賭して、太陽を殺そうとしたのだ。

 太陽はそれを見て、自身も同様に最大限の攻撃魔法を展開する。


「上等だ……【超新星極大爆発(ハイパーノヴァ)】!!」


 瞬間、爆発と爆発がぶつかり合った。

 爆風が雲を吹き飛ばし、大気を灼熱へと変える。それほどまでの大爆発だった。


 当然、ゼロ距離で爆発を受けた方はただでは済まない――はずだ。


『……グ、ガァ』


 炎龍はもう限界だった。

 肉体を闇の焔が喰らい、肉体が炭へと変わっていく。太陽爆発のせいもあって、肉体がボロボロになった。


 その中で、炎龍は最後に……太陽の死体を、探した。

 死んでることを、祈っていた。





「ふぅ、熱かった」





 だが、太陽は――無傷だった。

 あれほどの爆発を受けてなお、太陽を倒すことはできない。


 炎龍の全てをかけても、加賀見太陽には届かなかったのだ。


『化け物、がっ』


 これではもう、どうしようもない。

 炎龍は最後の最後に、ようやく理解した。


 加賀見太陽には、勝とうと思うだけ無駄。

 何をしても勝てない――と、炎龍は重ねた敗北から学ぶ。


 彼はあまりにも強すぎる。

 かつて、災厄だった龍は……加賀見太陽に勝つことを、諦めたのだった。




 これは、加賀見太陽の復活を告げる幕開け。

 世界に、最強の再来を告げた瞬間である――

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