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116 五年越しの約束

「あれ? ルナちゃん、思ったよりあっさりだったね。もっとはしゃぐかと思ってたのに」


 ルナが魔王城でゼータとお喋りしている頃。

 太陽邸では、取り残された二人が顔を見合わせていた。


「あれで、あっさり……?」


 十分にはしゃいでたというか、ちょっと面食らっていた太陽は目をパチパチと瞬きする。


「ん? 太陽くん、戸惑ってるの?」


「ああ……たぶん、お前が思ってる以上に困惑している。いきなり娘ですとか言われたら、誰だってそうなるだろ」


 こめかみを抑えて呻く太陽。

 ルナとの顔合わせを終えて、太陽は現実を受け入れられていないらしい。


「しかも、俺の想像より遥かに破天荒だし。ダイナミックすぎて逆に関心してしまった……」


「あはは。まあ、そう言わないであげて。ルナちゃん、太陽くんのこと大好きなんだから、大目に見てあげなよ」


 ミュラはどうやらルナの味方らしく、肩入れするようなことを言っていた。


「そういえば、お前とルナっていつ頃知り合ったんだ?」


 ふと二人の関係性が気になって、太陽は問いかけてみる。


「ルナちゃんと知り合ったのは、一年くらい前かな。ちょうどフレイヤ王国が陥落して、その後彼女がここに来たんだよ。で、すぐに意気投合して、仲良くなったんだ」


「なるほど……で、そもそもなんだけど、あいつフレイヤ王国滅ぼしてるのに、どうしてここは無事なんだ?」


「君の家だからでしょ。あの子は君のためにならないことなんてしないよ」


 だから、屋敷も壊さなかったし、ミュラを傷つけることもしない。


 ルナにとって、太陽は全てのようだが……だからこそ、太陽が大切に思っている存在についても、理不尽を働くことはしていないらしい。


 反面、太陽に仇名した存在に対しては徹底的に攻め立てているので、そういった線引きのあるところもまた太陽にそっくりである。


 加賀見太陽も、人間の敵とみなした相手には容赦しない。一方で、身内には過剰なまでに甘い。

 なんだかんだ、二人は親子なのだ。類似点は多い。


「……そうか」


 ミュラの言葉を耳にして、太陽は息を零す。

 色々、混乱もあるようだが……どうにか整理したみたいだ。


「とりあえず、ゼータは無事って言ってたし。あいつも俺の娘っていうのなら、危険はないだろ……そのあたりは心配しなくて良さそうだな」


「で、これからどうするの? ルナちゃんの言ってた通り、エルフのところに行く?」


「もちろん……ってか、色々言ってるけど、あいつは俺の娘なのは間違いなさそうだし。子供がしでかしたことなら、親である俺が責任とらないといけないからな」


 世界規模でファザコンしている娘を見捨てるなんて、父親である太陽にはできなかった。


「悪いことしてたら代わりに謝るし、良いことしてたら褒めるよ。それくらいなら、俺にもできる」


 だから、ルナの思惑に付き合うと、太陽は口にした。

 その言葉に、ミュラは関心したように目をキラキラと輝かせる。


「お、なかなか素敵なこと言うねっ。それこそ、太陽くんって感じがする」


「……いや、別に普通のことだと思うんだけど」


「君はたま~に、自己評価低くなるなぁ。そういうところは、あんまり良くないと思うよ?」


「ミュラに諭されている、だと……!?」


 正論なので反論もできず、太陽は頬を掻くことしかできなかった。

 



「なんか疲れた……今日は休憩して、明日出るか。ミュラはどうする?」


「行く。また放置されたら、流石のボクでも寂しくて死ぬ」


「そ、それはごめんって……よし、分かった。じゃあ一緒に行くから、お前も準備しとけよ」


 と、いうわけで太陽は休憩することにした。


 久々の屋敷である。思う存分に羽を伸ばして、英気を養おうと思ったのだ。


「腹減ったな……ミュラ、そういえばお前ごはんってどうしてるんだ? お店もなくなってるだろ」


「普通に自炊してるけど。材料はお庭に植えている野菜と、定期的にルナちゃんが持ってきてくれるお肉があるし、特に困ってはないよ」


「いやいや、ミュラがご飯とか作れるわけないから」


「太陽くんの中の僕ってどれだけポンコツなの……? 誰かさんが放置してたおかげで、家事全般はできるようになりましたっ。お昼の残りあったはずだから、ちょっと待ってて」


 そう言ってミュラはキッチンの方に向かう。

 太陽は本当に大丈夫なのか? と疑心暗鬼のようだったが、やって来た料理を一目見て評価を変えた。


 太陽の世界でいうところの、シチューに似ている料理である。


「……お前、本当にミュラか? 俺の知ってるミュラが、こんなに美味しそうなごはんを作れるわけがないんだけど」


「いいかげんボクも怒っていいかな……はぁ。とりあえず食べて」


 ぐいっと、スプーンを突きつけてくるミュラ。

 反射的に太陽が口を開けると、そのまま口内に放り込んできた。


 俗にいう『あーん』である。


「どう? 美味しいでしょ?」


「……う、うん。ゼータにも負けないくらい、美味いな」


 想像を遥かに超えたクオリティに目を見張る太陽。

 そんな彼にミュラは小さく笑ってから、更に一口すくって『あーん』するのだった。


「やっと、約束を果たせた……」


「約束って?」


「太陽くんに、美味しいごはんを食べさせるって約束。ほら、君が天界に行く前にしたでしょ?」


「あー、あれか……ごめん、あの時はまったく期待してなかったな」


「ふーん? ま、いいよ……君に『美味しい』って言わせることが出来たから、ボクの勝ちだね」


 クスクスと微笑みながら、ミュラは太陽に食べさせてくれる。


 恥ずかしいというか、照れくさいので本当は自分で食べたかったらしいが……どことなく楽しそうな彼女の行動を、太陽が否定できるはずもなく。


 以降も、太陽はされるがままに。ミュラの手によって、完食するまで食べさせら続けるのだった。

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