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10 盲目の戦闘狂

「たのもう!!」


 不意に響いた男の声に、屋敷でダラダラしていた太陽はめんどくさそうに舌打ちした。


「はいはい、どちらさんですかー」


 ニョルズ洞窟にて邪神を討伐した翌日。約束通りゼータが休暇をとってしまったせいで今、屋敷には太陽しかいなかった。新しい魔法人形もまだ買ってないので、客人でも彼が対応しなければならない。


 ガチャリと扉を開けて、そこに見えたのは一人のいかつい男性であった。


「貴君がカガミタイヨウなる人物でよろしいのか?」


 年の頃は30代だろうか。いかつい体つきをしていて、髪の毛は一本もなかった。衣服は太陽が地球に居た頃に見たことある、道着のようなものを着用している。


「ああ、俺は太陽だけど……そちらさんは?」


「某はヘズというものだ。突然押し掛けて申し訳ない」


「いや。それはいいんだけど……」


 太陽は彼の態度に少し気になる点を見つけていた。男性――ヘズは、先程からずっと目を閉じたままである。そしてその手には杖のようなものがあるので、太陽はもしかしたらと眉をひそめた。


 そんな彼の態度をヘズも察知したのだろう。


「失敬。某は目が見えない。先に伝えておくべきだった」


 自分からそう言って、彼は肩をすくめるのだった。太陽はそうかと頷き、気にしないでもいいと言葉を返す。


「で、ここに来たのは何の用? 俺の名前知ってるんだから、俺に何かあるんだような?」


 それから、用件を問いかけると。


「然り。某は、貴君に勝負を挑みに来た」


 ヘズは好戦的な笑顔を浮かべた。いかつい相好が崩れ、子どものような無邪気さを垣間見せている。


 対する太陽はうんざりしたように肩を落としていた。


「……なんで?」


「強さを、確認するために」


「……確認したいの?」


「男なら最強を求めるものだ。貴君の噂は世界中に広まっている……なんでも【チート野郎】と呼ばれるほどの実力者なのだろう? なれば、対戦を願うのは男として当然のこと」


「せ、世界中……噂になっちゃってるのかー」


 恐らくは王女様経由。あるいはギルド経由で世界の国々の知れることとなったのだろう。だからこんな意味不明な人物を引き寄せてしまったのかと、太陽は息を吐き出す。どうせなら美少女が引き寄せられてほしかった。


 こんないかつい男は要らない。


「某は盲目だが、心配は無用。戦う術は持ち合わせている」


「まあ……そこは心配してないけど」


 一人で屋敷まで来たのだ。目に変わる何らかの手段で周囲の様子を把握できる力でも持っているのだろう。


「手合わせを願いたい。某は今、武者修行の旅をしていてな……とにかく戦いたいのだ。どうか、引き受けてほしい」


「武者修行……戦闘狂ってところか」


「否定はできぬ。戦闘こそが、某の人生といってもおかしくはない」


 カツンと、杖を鳴らして悠然と佇むヘズ。はっきり言うとめんどくさいが、断ったところで引く気はないように見える。


 故に、結局太陽は引き受けてしまうことになるのだ。


「はいはい、分かったよ……でも、どこか広い場所でしかやらないからな? 俺の魔法、規模が大きいからせめて四方数キロは何もない場所でしか戦えないんだ」


「心得ている。確か、少しいったところに【屍の森】があっただろう。あそこであればいくら破壊しても構わんだろうし、広さもある。難点は死霊が襲ってくることだが、倒せば良いだろう」


「…………」


 ――屍の森。魂の抜けた肉体を勝手に操る死霊共がうようよしている場所である。気味の悪い場所として有名なので、なくなって困る人はいないだろう。


「ゆ、幽霊とか、怖くないのか?」


「見えぬ故に、何とも思わない」


「……ふ、ふーん? 俺も別に怖くないけどね? 分かった分かった。さっさと行こう。日の出ているうちに、早く」


「うむ。某は別に夜になっても構わぬが」


「お、俺も? 夜でも平気だし? 何なら深夜でもいいけど、ほら。やっぱりお日様の下で戦った方が健康にいいから。だから早く行こう。すぐに行こう」


 実のところ、加賀見太陽という人物はお化けの類が苦手である。この世界に来てもアンデッド系の魔物討伐は拒否していたくらいだ。そのため、屍の森にも行きたくはなかったのだが……ヘズの手前、行かないわけにもいかない。


 だからこそ、せめて日のあるうちに。彼は戦いを終わらせるべく、ヘズと共に早足で向かうのだった。







 屍の森は森林を少し歩いた場所にある。周囲を巨木で覆われたその場所は、昼間だというのに少し薄暗かった。


 空気もひんやりしているようである。地面のいたる個所に墓石のようなものが刺さっているため、太陽は日本のお墓を思い出していた。


 今にも何かが出そう……と思ったところで、不意に地面から骨の手が飛び出て来た。


「ひっ」


 息を呑む太陽。足首を掴まれたので、おもいっきり振り払うと骨は簡単に砕けた。


「想像以上に魔物が多い。邪魔だ」


「……た、確かに、邪魔だな。うん、邪魔だぁああぅえ!?」


 そう頷きながら、またしても足首を掴まれたので驚く太陽。力の限りに踏みつけると、やはり簡単に砕けた。


「正面から来てくれるとまだ対処できるのに……地面とか物影とかに隠れてるからタチが悪いというか……っ!!」


 と、今度は両足がつかまれて思わず転んでしまう太陽。手をつけば今度は手がつかまれる。力づくで振り払おうにも体勢が悪くてうまくいかない。


「ちょ、こいつ!」


 地面に押し倒そうとでもしているのだろう。ぐいぐいと引っ張ってくる骨の手に、太陽は冷や汗をかく。


「……油断大敵である」


 そんな時に、ヘズが助けてくれた。手に持った杖を振るって骨の手を砕いてくれる。


「しかし、貴君はよく狙われるものだ。死霊に好かれやすいのかもしれぬな」


「そ、そんな体質要らない……あー、もう。ウザい。これ、ウザい!」


 地面から飛び出る、骨。骨。骨。実は太陽が怯えているのに気付いているのか、執拗に狙っているようだった。


 そんな骸骨に太陽はいよいよキレたようである。


「ヘズさん、ちょっと待って」


「ん? どうかしたか?」


「ここ、燃やす」


 魔力を集中させる太陽。もう色々めんどくさくなったので、屍の森はなくすことに決めたらしい。


「幽霊なんて、みんな死ねばいい」


 幽霊だからもう死んでるだろうに、というツッコミはなく。


「【火球ファイヤボール】!!」


 彼の魔法が、墓地の真ん中で弾けた。


 ――爆発。轟音をまきちらしながら、爆風と熱波が周囲に広がる。ただでさえ炎系統に弱い死霊系の魔物は、太陽の尋常じゃない火球によって焼き尽くされていた。地面に潜んでいた魔物も例外なく、屍の森そのものを灰にする太陽。


 煙が晴れれば、もうそこはただの焦土となってしまっていた。


「よし、これでいいだろう」


 先程のひんやりとした空気はどこにもない。それどころか、爆風で木々もひらけたようで、陽の光さえ差し込んできている。


「心置きなく戦えるな」


 太陽は満足気に頷いている。

 一方のヘズは、太陽の異常な力を目の当たりにして……


「……フッ。フハハハハハハ!」


 笑っていた。

 欲しい物を手に入れた少年のように、三十代の男性が笑っていた。


「圧倒的な力! ああ、某は感謝する……貴君がこの世界に生きてきた運命を、ただ幸福に思うばかりだ! なんという幸運……まさか、ここまでの力を持つ者と闘えるとは、重畳!」


 声を高らかに笑うヘズ。その目は軽くイッていた。

 そんな彼を見て、太陽は一言。


「……こいつは頭おかしそうだな」


 太陽の力を目にして喜ぶヘズの姿は、最早変態にしか見えなかった。

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