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プロローグ 強すぎて話にならない

 魔王城に、魔族の絶叫が響き渡っていた。


「や、やめろぉおおおおおおお!」


「来ないで! 来ないでっ」


「化け物かよぉ……」


「魔王様……魔王様はどこだ!? あいつが……チート野郎が来てるんですよぉおおおお!」


 城内は騒然となっている。三桁を超える数の魔族が、我先にと逃げ惑っているのだ。


 原因は、先程侵入してきた一人の人間である。ずっと前に侵入して、魔王を倒すために魔王城を攻略していた勇者連合チームもいるのだが、彼ら彼女らではない。むしろ勇者連合が相手だろうとここまで魔族が取り乱すことはないだろう。


 たった一人の人間に、魔族一同は恐怖していたのだ。


 予め断っておくが、別に魔族が弱いわけではない。彼らは一人で人間でいうところのCランク冒険者に分類される実力を持っているし、幹部ともなればAランクの冒険者とも互角に渡り合える。一部の幹部に限定すればSランクの勇者だろうと簡単には負けない実力を持っていた。


 だが、そんな彼らだろうと今しがた侵入してきた一人の人間には手も足も出ない。勝負にすらならないから、こうやって逃げていたのだ。


 彼ら魔族の希望は、ただ一つ。


「魔王様なら、あのチート野郎を……っ!」


 魔族の王、魔王。魔族随一の実力を持つ王ならばと、彼らは願いにも似た希望的観測を抱いていたのだ。


 しかし、次の一報によって彼らの希望は砕かれることとなる。


「魔王様は逃げた! ここにはいないぞおおおおおおおおお!!」


 魔王が、逃げた。その一報に、泣き叫んでいた魔族は表情を失う。

 誰もが、絶望に冷や汗を流していた。


「え? 魔王いないの?」


 そんな中で、一人の少年が声を発した。魔王城大広間に、今しがたゆっくりと歩いてきた少年は、この場にそぐわない気楽さを見せている。

 その声の主こそ、魔族から忌み嫌われ恐怖されていた人物に他ならなかった。


 加賀見太陽。元日本の男子高校生で、つい数ヶ月前に異世界ミーマメイスにやってきた転生者である。


 黒髪黒目の、見た目はこれといって怖さのない平凡な少年である。

 しかし、彼を見て……魔族は一斉に、涙を流すのだった。


「終わった」「もう無理ぃ」「俺、死んだ」「最後に母ちゃんに会いたかったなぁ」


 魔王城大広間。いたる所から響き渡る諦めの声に、しかし太陽は聞こえていない。


「魔王いないのかぁ……じゃあもういいや。飽きたし、さっさと終わらせるかな」


 へたりこむ魔族に手を向けて、彼は自らの力を発現させようとする。すぐにでも掃討して、戦いを終わらせようと思っていたのだ。


「ま、待ってください! 太陽さん、ちょっと待って!」


「魔族も戦意喪失してます! どうか、どうかご慈悲をっ」


「彼らは確かに敵ですが、無抵抗の敵を葬るのは戦士としてどうかと……」


 そんな太陽を止める人物がいた。騎士のような甲冑に身を包む者や、それ鎧? と不思議に思ってしまうくらい面積の小さい鎧を着ている者、あとはローブや白衣などそれぞれ個性のある格好をしている人物たちだった。


 彼ら彼女らこそ、勇者連合である。人類が誇る英雄一同なのだが、太陽に対しては何故かみんな及び腰であった。


「えー? でも、敵だし」


 気勢を削がれて不服そうに唇を尖らせる太陽。不機嫌そうな彼を見て魔族は祈ったこともない神に祈りをささげ始める。


「……それに、俺ってあれだから。人類の守護者だから」


 そう言いながらも、太陽はチラリと女性勇者の方に視線を向けていた。彼は女の子にいいところを見せたくて仕方なかったのである。人類のことなんて割とどうでも良かったりする。


「うん、やっぱり殺そう。人類の敵は、死ぬべし」


 そう決意して、彼は再び右手をかざした。その瞬間、魔族は大地に身を投げて生きることを諦めた。幹部ですらお互いに今までの生を分かち合いながら、静かに抱きあっている始末。


「や、やばいっ。逃げるぞ、みんな!」


「ううん、もう遅いよ! 全力で防御魔法張って!」


「急げ、間に合わなくなるぞっ!!」


 勇者連合はすぐに太陽から離れ、彼の攻撃に備えて防御魔法を展開し始めた。人類最高峰の実力者達が連携して張る防御魔法は、恐らく誰であろうと破ることなどできないだろう。


 ――彼を、除いて。


「っし、行くぞ……【火球ファイヤボール】!!」


 そして、魔法が放たれた。

 階位は低級。詠唱はなし。通常なら、小枝一本燃やす程度にしか使えない程度の低級魔法。


 だが、太陽の放った火球は、まさしく太陽のように膨れ上がって――




 全てを、燃やしつくした。




 城内にいた魔族は声もなく消失していく。痛みなどない。圧倒的な熱量にただただ圧倒されるだけだった。それだけでなく、火炎は城そのものを燃やしつくし、あまつさえ周囲の森林さえも呑み込んでいく。


 たかだか低級魔法一つで、周囲数キロメートルが更地となるほどの威力。これこそが、太陽が恐れられていた理由だった。


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名前:加賀見太陽

種族:人間

職業;低級魔法使い

属性:火

魔力:計測不能

スキル:【火炎魔法適性】【火炎耐性】【火炎熱増量】【火炎魔法膨張】【火炎魔法暴走】【火炎魔法威力向上】【火炎魔法威力上昇】【火炎魔法威力増幅】【火炎魔法威力倍化】【火炎魔法炎上】

冒険者ランク:分類不能

二つ名:【人類の守護者】【炎神】【人間失格】【チート野郎】

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 加賀見太陽はつまるところ、チート級の能力を持つ人類最強の男なのだ。

 いや、恐らくは人類ではなく、生物最強と評した方が正しいだろうか。


 放つ魔法は地形を変え、生命を蹂躙し、見た者の心に恐怖を植え付ける。そういった意味で、彼は異世界ミーマメイス中から恐れられているというわけだ。


「くっ」「なんとか、耐えきった」「でも、もう限界」「みんな、よく頑張ったね……」


 そんな加賀見太陽の魔法だったのだが、流石は冒険者ランクSの勇者一同。なんとか耐えきったようで、誰も死んでいなかった。


 しかし、持てる力の全てをつぎ込んだのだろう。


「え? みんな? えっ。私を残して気を失わないでよぉ……」


 一人の勇者を残して、力尽きて気を失ってしまった。

 後には、面積の薄い鎧……俗にいうビキニアーマーを着た女勇者のみが残される。


「よーし、魔族倒したぞー。楽勝だったぜー。あ、この後時間あるなー。誰か一緒にお茶してくれないかなー」


 一方の太陽は空気が読めていないようだった。彼は年齢で考えると高校二年生である。女の子にモテたくてしょうがないのだ。故に、ビキニアーマーを着た女勇者に俺強いアピールをしているというわけである。


「う、うぅ……そうだよね。みんな、頑張ったもんね。私も、頑張らないとねっ」


 女勇者もそれなりに経験を積んできた女の子なのだろう。太陽の思惑には気づいているようで、すっと太陽に身を寄せてきた。


 自らの体を抱きしめながら、涙目で……何かに耐えるように、身を震わせていた。


「う、うへへ? 何? この後、お茶してくれるの?」


 鼻の下を伸ばす太陽。女勇者は小動物のように震えながら、おもむろに膝をついて――


「私の体は好きにしてください。でも、どうか……仲間は、見逃してください!」


 そして、彼女は土下座して懇願するのであった。


「先程はご無礼をして申し訳ありません。どうか、どうか仲間だけはっ」


 仲間たちの身の安全を。

 最強で最悪な太陽から、守るように……自らの身を捧げようとしていたのだ。


「あ、違う……そうじゃない。別に、そういうつもりないから! そ、そんなに乱暴者じゃないぞ!?」


 女勇者の勘違いに太陽は首をぶんぶんと振るが、彼女は頭を下げたまま頑なに上げようとしない。泣いているのだろうか、時折鼻をすする音が聞こえてきた。


 ここまでされて、何も感じないほど太陽は鈍感じゃない。


「あ、分かった。帰る! 帰るから、泣かないで? お茶も別にいいから! じゃ、じゃあねっ」


 居心地が悪くなって、彼は逃げるように走り去るのだった。

 今日もまた、女の子と仲良くなることができなかったようである。


「おいおい、神様……話が違うぞ」


 走りながら、彼もまた涙を流す。


「確かにこの力はチートだよ? でも、でもさ、ハーレムができないんですけど! 俺、女の子と仲良くなりたくて異世界来たのに、未だにお喋りすらできないんですけど!」


 とにかく女の子と仲良くなりたかった。

 ハーレムをつくって、うはうはしたかった。


 しかし、力が強すぎるあまり……彼は、全ての存在から恐怖されることしかされなかったのだ。


「つ、強すぎて話にならないっ」


 ハーレムどころか、友達すら一人できない状況に太陽は涙を流す。

 これは、そんなチート少年が主人公の物語である。

お読みくださりありがとうございます!

新作『モテモテハーレム主人公様が愛している幼馴染の無口ヒロインがモブキャラの俺にだけオシャベリで可愛いんだが』の方もよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 空気読めない+圧倒的チート=恐怖の象徴 うん、仕方ないね…… セクハラ講習で社長の権力に逆らえない女性社員もいる訳で、それどころか世界を相手に余裕勝ち出来そうな奴が人心を解しない訳で、どうし…
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