変人さんと家出少女の真夜中のコンビニ
今日は広野さんの締め切りの日だった。広野さんは九森崎さんに原稿を渡した後死んだように眠りについた。私もお昼寝がてらソファーに寝転んで寝てしまった。それも3時間も、起きたら夜の7時だった。
「お昼寝の域を超えているだろう?」
「はい・・・」
寝ぐせのついた髪をかきながら広野さんは言った。当然ながら夕飯を作るのも忘れて寝ていた。
「まあ、いいやあんまりお腹すいてないし二度寝するし」
「そうですか、私もあまりおなか減ってないんでいりません」
「そっか、まあお腹すいたらその辺のもの食べておいて」
「はーい」
そしてまた仕事部屋にゆっくりとはいって行った。私はテレビをつけてクイズ番組を深夜まで見た、クイズに正解したタレントがうれしそうにはしゃいでいるのをぼんやりとみていた。
時計を見るともう夜の12時を過ぎようとしていた。三時間も寝ていたので眠れるはずもなかった。
「む、おなか減ったなあ・・・」
台所に行き何かないかを探す、けれど何も食べるものは何もなかった。でも夕飯を食べていないので我慢できない。どうすることもできずにただお腹が鳴るばかりだった。
「・・・君もおなかすいたわけ?」
「はい」
「それは奇遇だね、俺もお腹がすいて何か食べようとここに来たわけだが・・・何かあった?」
「いえ、それが・・・何もないんですよ」
「ええ・・・嘘だ」
「嘘じゃありません」
「このまま寝るのは無理だな、よし」
そう言って広野さんは玄関のほうに歩いて行くと靴を履き始めた。
「どこに行くんですか?」
「どこって何か食べる物買いに行くんだよ」
「でもスーパー閉まってますよ」
「コンビ二に行く」
「私も行きたいです!連れてってください!」
「いいよ、行こうか」
「やった!」
そうして真夜中にコンビニに行くことになった。外に出ると冷たい風が頬をなでた。
「寒いですねぇー」
「薄着で外に出るんじゃなかった・・・」
身震いをしながら広野さんは言った。案外寒がりだった、私よりも寒そうに身を縮こまらせている。
「もう、情けないですよ」
「うるさいな、俺は君のように動き回らないから身が燃えないんだよ」
「自業自得ですよ私に当たらないでもらえます?」
真夜中に二人で大声で言いあいをしているとすぐ目の前に明るい光で宵闇を照らすコンビニに早くも着いた。中に入ると暖房がかかっておりすぐに顔は温かくなった。
何を買おうかと歩いていると広野さんは甘い菓子パンの並ぶ棚の前に真剣な顔つきでパンを選んでいるようだ。
「食べたいもの見つかりましたか?」
「うーん、この菓子パンとこっちの菓子パンだったらどっちが甘いのか・・・」
手に持っている菓子パンは生クリームたっぷりのクリームパン、それに砂糖がきらきらと輝くメロンパンだった、どちらも私にとっては甘くて一口で食べるのをやめそうなくらい甘そうなパンだった。
「クリームパンじゃないですかね」
「でも今俺はメロンパンが食べたいんだ」
「じゃあ買えばいいじゃないですか?」
「でも糖分を取りたいんだよ」
私は話すのが面倒になってその場を後にした、私はレジの横に置いてある肉まんに決めた。
「決まった?」
「はい、肉まんにします」
結局広野さんは両方を買うことにしたらしい。さんざん悩んだ末の結論らしかった。
帰り道、私と広野さんはそれぞれ買った物をほおばりながら帰っていった。肉まんは温かくとてもおいしかった。
「久しぶりに食べたらおいしいです」
「そっか、それはよかった」
「ありがとうございます」
「俺はどちらかと言えばあんまんのほうが好きだけど」
「私はカレーまんも好きですよ」
「ふーん」
家に帰る頃にはもう肉まんは食べ終えてしまいなんだか名残惜しい気がしたけれど、寝転ぶとすぐに眠気が襲ってきて考える隙もなくまた眠りに就いた。
真夜中に行くのは初めてで夜空の星を見上げたりしてなんだか大人になった気分だった。