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変人さんと編集さん

 「コーヒー・・・入れてもらえるかな?」


 目の下に大きなくまを作ってふらふらとしたおぼつかない足取りでこちらに歩み寄ってくる広野さんはまるで幽霊のようだった。ここのところ広野さんは新しい小説の締め切りが近いらしくここ最近全く寝ずに書いているらしい。


 「広野さん・・・少し寝たほうがいいんじゃないですか?」

 「ん・・・寝れるわけないじゃないか、締め切りは明後日なんだから」


 低いドスの聞いた声で私を見下ろしながら言った。どうやら相当追い詰められているようだった。


 「じゃあ無理しないようにしてくださいね」

 「んーわかった」


 そう言って広野さんは仕事部屋に戻って行った。心配だけど何を言っても聞かなさそうだから忠告をしておいてから一人でテレビを見たり本を読んだりしていた。

 うとうととまどろんでいたら玄関からインターフォンの音が聞こえてきた。ぼんやりとした頭でそういえばここに来て初めてインターフォンの音を聞いたなと気がついた。


 「はーい・・・・」


 玄関のドアを開けると黒髪の理髪そうな顔立ちの人が立っていた。


 「あっこんにちは」


 目の前の男の人は私を不思議そうに見た後笑顔でそう言った。


 「こんにちは」

 「えっと・・・広野いますかね?」

 「いますけどどちらさまでしょうか?」

 「僕は広野の編集者です!」


 元気よくそう言った。そうだ、広野さんは小説家だから編集さんだっているだろうと思い至った。最初は驚いたがとりあえず部屋に通すことにした。


 「広野さん、編集さんが来ましたよ」

 「よお!はかどってるか?」

 「・・・見ての通りですよはかどるわけないです」


 げんなりとした顔で編集さんを見ている。対照的な二人の態度と顔がなぜだかおかしかった。


 「そうかそうか、で聞きたいんだがこの子誰なんだ?」


 編集さんがちらりとこちらを見て言った。


 「その子ね居候」

 「居候?」

 「うんそうだよ」


 唐突に今までドアの近くにいて蚊帳の外だった私のほうを編集さんは怪訝そうに見た。どうすればいいんだろうとぐるぐる考えていると編集さんがこちらに歩み寄ってきた。


 「君、学校は?今日は平日だよね?」

 「えっと・・・その」


 広野さんはこちらのやり取りを居眠りしかけながら見ていた。目で訴えてもぼんやりしたままこちらを見ているだけだった、助け船は期待できそうにない。


 「その子は学校には行ってないよ」


 ようやく口を開いたと思ったら事態を悪化させることをさらりと涼しげに言った。


 「学校に行ってないのか?行かなきゃだめだろう、君まだ中学生か高校生くらいだろ?」

 「高校は義務教育じゃないだろ、まあその子は中3だけどね」

 「義務教育じゃないか!」

 「本人が行きたがってないなら行かせる必要はないし学校なんて行かなくていいって俺が言ったんだ」

 「それは正論だな」


 意外とあっさり納得したようだった。うなずきながら笑いかけてくる。


 「じゃあ自己紹介をしようか、僕は広野の編集の九森崎です困ったことがあればなんでも相談してね」

 「はい、ありがとうございます」


 にこにこと人のよさそうな笑顔を浮かべながら言った。私もそれに倣い自己紹介をした。


 「で、なんで九森崎は今日来たんだ?締め切りは明後日だろう?」

 「暇だったから来たんだ」

 「仕事しろよ」

 「これも仕事の一つだろ?」

 「九森崎がいるとはかどらないから早く帰れ!」

 「はいはい、じゃあまた明後日くるからなちゃんと書き終われるようにしろよ」


 そう言って九森崎さんは帰って行った。


 「あいつはかなりの変人だからな・・・はぁもう疲れた、少し寝るから三十分たったら起こして」

 「はーい・・・」


 あなたもかなりの変人では、という言葉は心の中にまでにしておこう。

 変人さんの編集さんも変人だった。

 

 


 




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