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家出少女と変人さんのコーヒータイム

 その日は朝から夜まで広野さんの姿を見なかった。ずっと仕事部屋にこもっていたのだった、心配になり見に行くといつもの眠たげなぼんやりとした顔で机の上に置いてあるぼんやりと明るい光を出しているノートパソコンを見ていた。


 「大丈夫ですか?」

 「んー?何が?」


 心ここにあらずと言ったような生返事で答えた。


 「何をしているんです?」

 「んー・・・新しい小説のアイデアを考えてる」

 「そうだったんですか、おじゃましました」


 邪魔しないように仕事部屋から出て行こうとすると「ちょっと待って」と後ろから言われた。


 「はい?」

 「コーヒー持ってきてくれるかな」

 「いいですよ」


 広野さんはコーヒーはブラックの無糖が好きらしい私にはコーヒー牛乳が精いっぱいだった。大人になったら私も飲めるのかなと思いながら香りをかいでいるとすごくいいにおいで飲んでみたくなったので私も飲んでみることにした。

 ブラックはたぶん無理なので砂糖を少し入れた。お盆に載せて持っていく。


 「コーヒー持ってきましたよ」

 「ありがとう、ん?君も飲むの?」

 「はい」

 「飲めるのかい?」

 「わからないんで飲んでみます」


 少し冷ましてからお茶を飲むのと変わらない調子で喉にコーヒーを流した。すると口いっぱいにコー ヒーの苦みが広がった。


 「うぇえ・・・まずいよ・・・」

 「飲めないのに飲むからだよ」

 「砂糖入れたのに・・・」

 「まだ君にはコーヒーは早いんだ」


 そういうと私のカップをどこかに持っていきしばらくするとまたカップを片手に戻ってきた。


 「はい」

 「あっコーヒー牛乳だ!作ってくれたんですか?」

 「捨てたらもったいないしちょうど牛乳があったしね」

 「ありがとうございます!」

 コーヒーの苦みが薄れ甘さが引き立つコーヒー牛乳がやっぱり一番だなと思いつつごくごくと一気に飲んだ。


 「そんなにコーヒー牛乳が好きなの?」


 苦笑気味に言って広野さんはコーヒーを飲んだ。部屋中にコーヒーの香ばしい香りが漂っている。


 「はい、でもココアも好きですよ」

 「ふーん、甘いのが好きなんだ?」

 「そうですね、チョコレートとかもケーキとかも好きですし・・・」

 「お子様だ」

 「えー!おいしいじゃないですか!」

 「俺は甘いコーヒーより苦いほうが好きだね」

 「・・・なんか大人みたいです」

 「だって俺大人だし」


 言い方が若干子供っぽかったのが面白くて小さく笑った。


 「もう10時だな、お子様は寝る時間だよ」

 「もう15才なんですけどね」

 「はいはい」

 「でもおじゃまになるといけないんで寝ますね、おやすみなさい」

 「お休みー」


 布団に入っても全く寝れる気はしなかった。なんでだろうと考えていると余計に目が覚めたのでてれびを見ることにした。廊下を歩いているとコーヒーを飲みながら歩いている広野さんと会った。


 「寝てなかったの?」

 「眠れないんです・・・」

 「まあ、でしょうね」

 「どうしてです?」


 不思議に思ってて聞き返すと「あれ?知らなかったわけ?」と言われたので首をかしげる。


 「コーヒーは夜寝る前に飲んだら眠たくなくなるものが入ってるんだ」

 「ええ!」

 そうかだから眠れなかったんだ、でもなんで広野さんは教えてくれなかったんだろうか教えてくれたっていいのに。


 「文句言いたげな顔だね」


 どうやら心の中を見透かされたらしい。図星だった。


 「眠れなかったら俺の部屋で本でも読んでれば?」

 「いいんですか?」

 「もちろん」

 「じゃあ、お言葉に甘えて」


 仕事部屋の本棚の本をじっくり吟味していると何冊かの本を広野さんは持ってきてくれた。


 「この本は全部読みやすい」

 「なるほど」

 「本を読み始めたばかりの初心者向けだな」

 「はあ」


 本に初心者向けなどあるのだろうか。そんな疑問を聞く暇もなく広野さんは机の前の椅子に座り腕組をしてアイデアを絞り出しているようだった。邪魔するのも悪いので静かに本を読むことにした。 


 その夜はいつの間にか寝ていて起きると体に新聞紙がかけられていた。


 「なんで新聞紙なんです?」

 「布団とかとりに行くのがめんどくさかったから、それと新聞紙は温かいって誰かから聞いたことがあるような気がしたから」

 「ありがとうございます?」

 「なんで疑問形なわけ?」


 眠たげに目をこすりながらあくびをしてそのまま「寝る」と一言言って眠ってしまった。かすかな寝息が聞こえてきた。

 私は新聞紙などは使わずに座っている広野さんにタオルケットを掛けてあげた。

 でもそれは広野さんの何気ない優しさなのかなと思った。

 

 

 

 

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