変人さんと暮らすことになりました。
私が変人さんに助けてもらって二日が過ぎたころ。
「あの、そろそろお暇させていただきます」
この人は一日中本を読んでいる、働いていないのだろうか尋ねるのは失礼だと思い言わなかった。
「ん?行くとこがないならここにいてもいいんだよ」
「えっ?」
本を読みながら顔を上げずに言った。一瞬何を言ったのか分からず聞き返した。
「だから、ここにいてもいいって」
「えっでも・・・迷惑でしょう?」
「全然」
あっさりと相変わらず淡々と言った。
「行くとこ無いんだろ?俺は全然迷惑じゃないし遠慮なくいていいよ」
私は迷った、迷惑ではないと言ってはいたがいきなり知らない人のお世話になるのもどうかと思う。いろいろ考えてみたけれどやっぱりどうすればいいのかわからなかった。
目の前に立っている人を見る。目の前の変人さんはこちらを観察しているように見ている。
「どうするの?」
「えっと・・・いいんですか?本当に・・・」
「いいよ」
「・・・じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
「どうぞ、まあ気楽に暮らしてね」
そういうと再び本に集中し始めた。この人見ず知らずの人を居候させてくれたり、介抱してくれたり、初対面の人に変な質問してきたりといい人なんだけど変人だ。
「ねぇ、名前は?」
「あっはい、名前は、宮川瑠璃です」
「そう、瑠璃ね、俺は広野よろしくね」
「広野さんですか」
「中学生なの?」
「はい」
「学校は行ってるの?」
「っ・・・」
学校、それは私が一番嫌いな場所だった。あんなところに一秒でもいたくない、吐き気がする。
「行ってません・・・」
「ふーん・・・不登校なの?」
またこうやって直球で聞くんだ。溢れそうになる涙を必死にこらえるようにしてうなずいた。
「そうか、学校なんて行きたくなかったら行かなくていいんだよ」
「へっ・・・」
「俺も行かなかったときがあった、でも今こうして生きてるよだから別にいいんじゃないかな?」
「・・・」
「と、俺はこう思うんだけどどうかな?少しは楽になったかい?」
そう言って私の頭に手をポンと置いた。心がふっと楽になって涙がこらえきれなくなり子供のようにただ声もあげずに泣き続けた。広野さんは本を読みながら私が泣きやむまで手を頭の上に置いてくれていた。
「泣いたら、すっきりしました・・・」
「涙は心の治療薬だからねー」
本に目を移しながらティッシュを渡してくれた。
「まあ、いつか話してくれればいいな」
「・・・何をです?」
「なんで家出してきたのかをね、聞きたいんだ」
「話せたら今度話させてもらいます。その時は・・・聞いてくれますか?」
恐る恐る尋ねると相変わらず眠たそうなぼんやりとした顔でこちらを見ていた。
「うん、わかったよ」
「・・・よろしくお願いします」
今日から広野さんのところに居候させていただくことになりました。
「広野さん、外に出てみてもいいですか?」
「いいけど、何するの?」
「この家の外を見てみたいんです!」
「どうぞ」
玄関のドアを開けてみると結構高い場所の部屋だったんだなと思って下を見るとくらくらするほどに高かった。上を見上げるとこの階より上はないことに気がついた。まさか広野さんは結構なお金持なのだろうか、そうじゃなければ居候なんてさせてもらえないだろう。
しかし広野さんは一日中家にいる、何の仕事をしているのだろう。
その日一日広野さんについての疑問が尽きることはなかった。
次は広野さんの仕事についての話です。