家出少女と正月太り
新年も無事に迎えてようやく正月浮かれも落ち着いてきたところだ。正直、私は正月の三が日で太ってしまった。気にしている私に広野さんはずばりと躊躇いもなく言い放った。
「あれ、君太ったんじゃない?」
「・・・え、何のことでしょうかね」
何とか誤魔化そうと分からないふりをした。だが広野さんは話を終わらせようとはしない。
「正月に餅をたくさん食べたからなんじゃない?餅みたいな体系にならないように気をつけなよ」
「分かってます!」
完全な図星だった。このままダイエットもせずに食べ続けていたらきっと広野さんの言うとおり、餅のような体形に成長してしまうだろう、それだけは嫌だった。
しかし、私のダイエットは長続きをしない。三日坊主である、いや、三日も続かない時もある。三日続いたらまだいいほうだ。ひどいときには計画だけ立てて実行しないこともあった。
それに私はめったに外に出ない、出たくないこともないのだがあまり人ごみには行きたくない。せいぜい行くとしたらマンションの近くの公園までだ。
「よし!今度こそ頑張ろう」
「何々?ダイエットでも始めるの?」
「はい!私、ダイエットして体重を元に戻します!」
声高らかにそう宣言した。その直後、広野さんはいつもと変わらないぼんやりとした一言で私の決心を揺るがすようなことを言った。
「無理じゃない?君、ダイエット続かないだろ」
その一言が地雷を踏んだ。同時に私を燃え上がらせた。
「いえ!私はやるときはやる人間なのです!絶対に痩せて見せますからね!」
「そーか、まあ、頑張れ」
いつも以上に感情のこもっていない声で広野さんは言った。
今に見ているがいい、絶対に痩せてやるんだ。私はもう一度決心した。
やはり、私の一番の問題は食事だと思う。ついつい食べ過ぎてしまうのだ、自分で言うのもあれだが私はかなりの大食いである。最近は正月ということもあってたくさん食べていた、きっと胃が大きくなっていることだろうな。
「まずは、野菜中心のご飯に・・・」
広野さんには悪いが私のダイエットに付き合っていただこう。
「炭水化物も少なめに・・・」
献立を考えただけで少し悲しくなってきた。食べたい・・・たくさんご飯を食べたい・・・。
「だめだ!」
自分を律するのだ、欲に打ち勝つのだ。欲に打ち勝ち痩せるのだ。
「運動をしよう」
痩せるのに一番いいのはやはり運動だろう、でもどんな運動をすればいいのだろうか。とりあえず思いついたのが定番で簡単にできる腹筋だった。
床にあおむけに寝転がって膝を立てて起き上がるだけだ。
「ふん・・・!」
10回くらい繰り返しただろうか、その辺りで私の腹筋は力尽きた。意外にも腹筋は疲れるものだ、甘く見ていた私が馬鹿だった。
そんな私に広野さんの言った一言が脳裏をよぎる
『無理じゃない?』
そうだ、無理なんかじゃない。私はやればできる人間だ、自分でそう信じる、いや、自分のことを信じられないでどうする。
「よし!少しずつ頑張ろう!」
そうして私はこの日50回の腹筋を見事やり遂げたのだった。達成感が心地いい。
晩御飯の時間、私の目の前に置かれているのは野菜だけの野菜炒めとご飯とみそ汁だ。ご飯は少しだし、きっとお腹がすくだろうな、でも今の私なら耐えられる気がした。
「野菜炒めに肉が入ってない」
「野菜炒めですから」
「・・・そうだけどさ、肉も人間に必要な栄養源なんだよ?」
「私が痩せたら肉入り野菜炒めを作ります、それまで一緒に頑張りましょう!」
「いや、俺は痩せる必要なんてないし・・・肉食べたい」
文句を言いながらも広野さんは野菜炒めを食べてくれた。
そんな生活が一週間ほど続いた。その結果私の体重は見事、正月前に戻った。
「やりましたー!痩せましたよ、広野さん!」
「そうか、よかったね、それじゃあ今日の晩御飯は肉で」
「もちろんです、お祝いを兼ねて」
「食べたらまた太るんじゃないか?俺が君の分まで食べてあげるよ」
「結構です」
痩せてから食べたお肉はかなりおいしかった。
今年も広野さんと一緒に暮らせるのかな、そんなことをこのときの私は思っていた。




