変人さんと猫
日常小話みたいな感じで短いです。
広野さんの家に子猫がやってきて数日が過ぎた。
相変わらず広野さんの猫嫌いは続いている、それはもう私の想像をはるかに超える猫嫌いだった。
「にゃー」
「こっちに来るな、猛獣め!」
ちょっと近づくだけでこの反応である。
「こんなにかわいい子のどこが猛獣なんですか?」
「君は知らないだけだ、猫の裏の顔を・・・それはもう恐ろしいぞ」
「どこがです?」
「・・・気を抜いたらすぐにひっかいてくる」
それは広野さんの接し方が悪いのでは、言わないでおこうめんどくさいことになりそうだ。広野さんのことだ正しい猫との接し方とか研究し始めそうで怖いから。
しかしそんな広野さんとは裏腹に子猫は広野さんに懐いている、構ってほしい子猫が近づくと広野さんは煩わしそうに追い返すのだ。追い返されて子猫はいつもしょんぼりとする、そんな子猫を見て私は可哀そうに思っていつも以上に構ってしまうのだ。
「そういえば、広野さん子猫の名前を付けていませんでした」
「そうだね」
「今から考えましょう」
「んー、猫」
「真面目に考えてください!」
広野さんの見ているテレビを消した。そうしたら渋々ながらもこちらを向いた。
「タマ」
「適当につけてはだめですよ、この子はもう家族のようなものです」
「えぇー・・・」
改めて子猫を見る。この子はトラ猫だ、愛くるしい瞳でじっと私たちを見ている。ああ、この子にふさわしい名前が思いつけるだろうか。
「猫はオスなの?」
「いえ、女の子です」
「ふーん・・・トラ子なんてどう?」
「斬新ですね。真剣に考えましょう」
しかし、私もこれと言って浮かばない。トラ柄なのでトラという名前しか思いつかない。
「案外、思いつかないものですね・・・」
「だろう?」
「トラちゃんでいいですかね?」
「いいと思う」
「じゃあ、トラちゃんで」
「了解」
「トラちゃーん」
「にゃ」
気に入ってくれたのか、トラは返事をした。
こうして子猫の名前はトラと名付けたのだった。
「広野さんも呼んであげてくださいよ」
「嫌だ」
「えー、だめですよ、広野さんが名付けたんですから」
「いつの間にそうなったわけ?まあ、いいけども」
広野さんは小さな声で「トラ」と呼んだ。聞こえないだろうなと思ったけどトラは耳がいいらしく広野さんの声に反応した。嬉しそうに広野さんのほうに駆け寄って行くトラ、それを見てすかさず追い払おうとする広野さん、私は広野さんを止めた。
「頭くらい撫でてあげてくださいよ」
「えー・・・」
「一回だけでいいんですよ、拒まないで上げてください!」
「うーん・・・」
「にゃ・・・」
トラは恐る恐ると言った様子で広野さんに近づいて行った。そんなトラの頭を広野さんはぽんと一回撫でた。トラは嬉しそうに「にゃ!」と元気に鳴いた。
「これでいいよね?文句ないよね?」
「はい、ばっちりです!」
それだけ言うと広野さんは手を洗いに洗面所まで早歩きで向かった。
「よかったねートラ」
「にゃう」