家出少女とおばあさん
最近外に出ていないなと思った。だからと言ってその辺を平日なのにぶらぶらと歩くわけにもいかなかった、もし知り合いにあってしまったらいけないからだ。
私は安全そうなマンションの近くにある小さな公園に行ってみることにした。あそこだったら誰にも会わないかもしれない。
「うう・・・寒い」
外に出てみると予想以上に風が強くて寒かった。いったん家に戻ってマフラーを首に巻いて公園へと向かった。向かう途中は平日なだけあって誰にも会わなかった、まるで私一人だけの世界のようだと錯覚してしまいそうなほどだった。
公園には古いブランコが二つと小さな塗装の剥がれかけた黄色の滑り台がある物悲しい公園だった。
「ふぅ」
私はブランコに乗り少しだけこいでみた、ブランコに乗るのは小学生以来のことだった。
しばらく乗ってると入り口近くのベンチに誰か座っているのが見えた。
「誰だろう?」
ブランコから降りてベンチに近づいてみた。座っていたのはおばあさんだった。
おばあさんは私に気が付くとにっこり笑いかけてくれた。その優しい笑顔に安心して、私はおばあさんの隣に腰かけた。
「こんにちは!」
「こんにちは、今日は寒いわねぇ」
「寒いですねー・・・」
会話は続かなかった。隣に座っているおばあさんを横目で見てみるとその横顔はどこか寂しげに見えた。何かあったのだろうか。
「あの」
「はい?」
「何かあったんですか?」
いきなり変な質問をしてしまっただろうか、おばあさんは不思議そうに私のほうを見た。
「どうしてそう思ったの?」
「えっと、なんだか寂しそうに見えたので・・・」
そう言うとおばあさんは小さく笑った。
「そうなの?やっぱり分かるのかね」
意外にも私の推測は当たっていたようだった。
「もうすぐ冬休みでしょう?」
「そうですね」
もちろん学校に通っていない私は毎日冬休み状態なのだけど、世間一般の学生はもうすぐ冬休みの季節であった。
「でもね、孫が今年は帰ってこないんですって」
「そうだったんですか、それは寂しいですね」
「そうでしょう?私は去年主人を亡くしてから毎日一人きりで家にいるの、それが寂しくてね。最近はほぼ毎日この公園に来ているの、でも結局ここに居ても誰もいなかったのだけどね」
「・・・」
何も言えなかった。私の貧相な語彙力ではおばあさんを励ます言葉は思いつかなかった。
「でも、今日あなたに会えてよかったわ、私久しぶりに人に会って話した気がするわ」
「それはよかったです」
そう言われると何だか嬉しかった。
「一つ聞いていもいいかしら?」
「何ですか?」
「あなた、学生さんよね?学校は?」
私とおばあさんの間に微妙な沈黙が流れた。
「聞いちゃまずかったかしら・・・ごめんなさいね」
「いえ、全然、私事情があって学校に行ってないんです」
「・・・そう」
おばあさんは私に何も詮索はしなかった。
「じゃあ、また会えるのかしら」
「えっ、も、もちろんです!」
笑顔で答えるとおばあさんは嬉しそうに笑った。
「名前はなんていうのかしら?」
「宮川瑠璃です」
「瑠璃ちゃんて言うの、素敵な名前ね」
「おばあさんの名前も教えてください」
「私はね、望月ウメです」
おばあさんは自己紹介した後公園から帰って行った。私はおばあさんの名前と同じの梅味の飴玉をもらった、口に含むと甘酸っぱい梅の味が口いっぱいに広がった。