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変人さんと家出少女と炬燵とミカン

今回は少し短めです。

 「今日は炬燵を出そうか・・・」


 広野さんが物置の前でぽつりと言った。


 「炬燵あるんですか?」

 「当たり前でしょ」

 「へぇー・・・」


 最近、ついこの間までの暑さが嘘のように寒くなってきていた。ちょうど炬燵に入りたいなと思っていたが広野さんが炬燵を持っているとは意外だった。

 いつもめんどくさがり屋の広野さんが今日は炬燵を出すためにてきぱきと動いているのを見て炬燵って改めてすごいなと思った。めんどくさがり屋の広野さんをここまで動かすとは、炬燵よあっぱれ。


 「ちょっと、手伝って」

 「いいですよ」


 炬燵机を運び、手際よく炬燵布団をかけてコンセントをさして完成だ。


 「意外と早く終わりましたね、広野さん・・・」


 広野さんは早速炬燵に入っていた。今までに見たことのない早さだった。


 「あったかい・・・」


 そう言って寝っころがる広野さんはまるで猫のようだった。


 「なんか、いつもの広野さんじゃないみたい」

 「どうして?」


 心底不思議そうに尋ねてきた。この人は普段自分がどれだけ日々の日常でめんどくさがっているか自覚していないのだろうか。


 「ちょっとちょっと」

 「なんですか?」

 「ミカン取ってきてくれない?」

 「はーい」


 鮮やかなオレンジ色のミカンを何個かおぼんに乗せて炬燵に置いた。広野さんはミカンを一つ手に取って剥き始めた。

 私が炬燵に入ろうとすると広野さんは「あっ」と声を上げて


 「ゴミ箱取ってきて」

 「・・・嫌ですよ」

 「どうして?」

 「自分で取ってきてくださいよ!私だって炬燵に入ってミカン食べたいんです!」

 「ケチ」


 言いながらも広野さんは自分でゴミ箱を取りに行った、多分広野さんは一度炬燵に入ったら出られなくなる人なんだな。まるでコタツムリだ。私はミカンを剥きながら心の中で毒吐いた。


 「寒い・・・全く、君は鬼だな」

 「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ」

 「ごめん」

 「全く、そんなんじゃあ冬を越せませんよ、今からそんなに寒がって・・・」


 呆れてそう言うと広野さんはこう言った。


 「僕は君のように脂肪が多くないからね、寒いの」

 「・・・なんですって?」


 その一言は完全に私を怒らせた。広野さんは今私に一番言ってはいけないことを言ってしまった。


 「冗談だって、そんなに怒らなくても・・・」

 「思春期の少女にそんなこと言っちゃだめです!」

 「はい・・・」


 私はやけになってその日ミカンを4つも食べた。おかげで手が黄色くなってしまった。


 「美味しかったですね、少しすっぱかったけど」

 「うん、作ってくれた滝口さんにお礼を言わなくては」

 「誰ですか?知り合いですか」

 「違うよ」


 そう言って広野さんはミカンの入っていた袋を持ってきて、生産者の名前を指差した。確かに滝口さんが作ったものだった。


 「愛媛県の滝口隆一さんに感謝だ」


 私はその一言をスルーして5個目のミカンの皮を剥ぎはじめた。

  


 


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