変人さんのお兄さんとお姉さん 2
これでこの話は終わりです。
「純の部屋に来るのほんと久しぶりねー」
「本当だね、でも、少し殺風景な部屋だなあ」
広野さんのお兄さんとお姉さんは部屋に入るなりそんな感想を述べた。
「で、話がそれたけど、純そこに座りなさい」
「俺の部屋なんだけど」
「いいから」
そういわれてお兄さんとお姉さんと向き合う形で私と広野さんは座った。お姉さんは先ほどとは違って真剣なまなざしで私たちを見ていた。なんだかとても緊張する。
「その子はどうしたの?」
「居候だよ、家出してきたらしい。行く所がないらしいからここにいる」
「家出?家族は心配しているんじゃないか?」
「さあね」
広野さんの答えに呆れてしまったのか、お姉さんは眉をひそめて肩をすくめた。
「俺、知らなかったよ・・・」
お兄さんは俯いたままそうつぶやいた。
「純に、幼妻がいるだなんて、そっか、そんな趣味があったんだね」
「違う、神に誓って否定させてもらう」
焦る様子もなく淡々と広野さんは言った。そういわれたお兄さんは少し安心した様子を見せた。
「よかったー、俺が心配しすぎただけみたいだね」
「お門違いにもほどがある」
私は悩んでいた。この場で家出の理由を話すべきなのか、話さないほうがいいのか、自分でもよくわからなかった。そんな私をお姉さんはじっと見ていた。なんとなく目を合わせたくない私はずっと俯いてお姉さんを見ないようにしていた。
「あなた、名前はなんていうの?」
「えっと、宮川瑠璃です」
「そっか、瑠璃ちゃんて言うのね」
「はい」
お姉さんは気さくな笑顔で私に話しかけてきた。その笑顔にいくらか私の緊張はほどけた。
「早速なんだけどね、聞いていいかな?家出の理由」
「・・・・」
「言いたくないの?」
「いえ、あの・・・」
なぜ、私ははっきりと頷かなかったんだろう。
「言える?大丈夫、安心して、追い出そうとしたりなんてしないから」
「はい」
私は家出の理由をゆっくりと話していった。親との不仲、学校でのいじめ、本当は死のうと思ってたけれど勇気が出せなくて死ねなかったこと、全部、心の奥にしまいこんでいたものを外に吐き出した。どす黒い霧が少し晴れたような気がした。その場にいた三人は何も言わずに私の話を聞いていた。
「そっか、つらかったんだね」
「はい」
「んー・・・、親御さんは心配しているだろうけれど、もうしばらくこのままでいいと思うな」
お兄さんは人当たりのいい明るい笑顔でそう言った。
「私は、そうだね、瑠璃ちゃんは今まで頑張って耐えてきたんでしょう?だったらちょっと心の休憩が 必要かもね」
「心の休憩・・・?」
「そうよ、ちょっと休んでまたゆっくり進んだらいいよ」
「はい」
その言葉が妙に温かくて、心にしみわたって行くような不思議な言葉だった。やっぱり兄弟って似るもんなんだなと思った。
「じゃあ、私たちもう帰るわ、明日も仕事あるし」
「うん、もうしばらく来なくていいから」
「今度は純に会いに行くんじゃなくて瑠璃ちゃんに会いに行くの!」
「はいはい」
「じゃあ、瑠璃ちゃんも純も体調に気を付けるんだぞ風邪ひくなよ」
「はいはい」
「はい、気を付けます」
そういいながら二人は帰って行った。二人が帰ると部屋が途端に静かになった気がした。
「広野さんのお兄さんとお姉さん、とても賑やかな人たちですね」
「うん」
「あんなお兄さんとお姉さんがいたら楽しいでしょうね」
「・・・どうだろう、人それぞれなんじゃないかな」
「いいなー私も兄弟欲しかったな・・・あっでも、私にとっては広野さんはお兄さんみたいな感じです ね」
「ふーん、そうなんだ」
広野さんはそういうとすたすたとどこかに行ってしまった。照れてるのかな、と思って面白くなって、一人でこっそりと笑った。