家出少女と変人さんと雨の日
今日の天気は午後から雨らしい。昨日の夜、気象情報の番組で知ったことだ。
「だから、傘持って行ってって言ったのにな・・・・」
窓の外から大粒の雨が降り続けているのを眺めていた。広野さんは今日は出版社に仕事があったらしく、今日は朝からいなかった。出ていくときに傘を持っていくように言ったのだが、広野さんは持っていかなかった。
今朝はまだ晴れていたのだ、しかし、気象情報では午後から夕方にかけて雨が降ると言われていたのを思い出し、私は傘を渡したのだ。
しかし、広野さんは持っていかなかった。
「傘なんて荷物になるだけだし、第一、こんなに天気がいいのに雨なんて降らない」などと言って傘を持っていかなかったのだ。
「まったく、頑固者なんだから」
そういって私は広野さんに傘を押し付けはしなかったのだ。今考え直したら、無理やりにでも持たしておけばよかったと後悔している。雨の様子を見るが、止むどころかだんだんと土砂降りになり始めている。
タクシーかバスで帰ってくるだろうと考えていたが、あの人は考えが読めないのでもしかすると歩いて帰ってくるかもしれない。
「きっと、タクシーとかで帰ってくるよね」
そう自分に言い聞かせた。テレビでも見ようとリモコンを取ろうとしたときに机の上に見慣れた財布が置いてあった。それは広野さんがいつも使っている財布だった。
「あの人、お財布忘れてる!」
これではタクシーやバスは使えない。何で財布を忘れていくんだろうか、私には不思議でたまらなかった。
私は広野さんを迎えに行くため傘を持って、土砂降りの雨の中外に出かけて行った。
出かけたものの困ったことに、広野さんが行った出版社がどこにあるのかもわからないし、もしかしたら入れ違いになってしまったりするかもしれない。
とにかく、私の知っているところの出版社に向けて歩を進めた。相変わらず雨は降り続けている。
あたりに広野さんが歩いていないかを確認しながら歩く。たまに歩行者とぶつかりそうになった。
ふと、前を見ると横断歩道の向こう側のコンビニに見慣れた顔が見えた。広野さんかもしれない、そう思って横断歩道を急ぎ足で渡った。
「広野さん!」
大きな声で名前を呼ぶとコンビニの前で雨宿りしていたらしい広野さんが顔を上げた。
「傘持ってきましたよ!だから持って行ってって言ったのに!」
少し怒り気味にそう言って広野さんの顔を見ると、なぜか呆けたような顔をしていた。
「・・・どうしたんですか?」
「いや、考えてもいなかったから」
「何がです?」
「君が傘を持ってきてくれること」
そう言って私の手から傘を取った。
「ありがとう」
こちらを見もせずに相変わらず抑揚のない声で言った。
「どういたしまして」
傘をさして広野さんの横まで小走りで駆け寄った。
「天気予報当たりましたね」
「だね」
「これからは天気予報の言うことを聞いてくださいね!」
「はいはい、わかりましたよ」
その後もなぜか広野さんは気象情報の信ぴょう性など私には理解のできないことを話し始めたが無視しておいた。