変人さんと家出少女と夏バテ
久しぶりの更新です。
9月に入ったものの一向に涼しくならない、そんな残暑厳しい日々がまだ続いていた。
ニュースの天気予報をふと見れば今日もまだ暑さは続きそうだった。
「まだ、秋は来ないんでしょうかね?」
床に寝転がりながら同じくソファーに寝転がっている広野さんに言った。
「そんなの俺が知りたいよ、ていうか、エアコンの温度、何度に設定してるの?」
「27度です」
「何で?」
不機嫌な顔をしながら、ゆらりと起き上がった。ここのところの暑さですっかり広野さんはバテているらしい。
「あんまり冷やしすぎると体に悪いし、エコじゃありませんから」
「暑いほうが絶対に体に悪いし、だいたい、エアコンを聞かせないと異常気象に負けてしまう!」
珍しく大きな声で持論を持ち出してきた。エアコンのリモコンを取ろうとした広野さんからエアコンのリモコンを取り上げた。
「ダメですよ!我慢してください」
「無理」
「大人でしょう?」
「関係ない、暑い」
一歩も譲らない広野さんに内心あきれつつ、一度だけ下げてあげた。この調子じゃあ電気代も大変なことになっているだろうな、と思った。まあ、この場合は広野さんの自業自得なのだけど。
「一度だけ下げましたから」
「・・・もう一声」
「いけません!」
全く、この人は今まで夏の間どんな暮らしをしていたのか。想像できるが、したくはなかった。
「あっ、おひるごはん何が食べたいですか?」
「そうめん」
「・・・またですか?昨日食べましたよね?」
「食欲ないから、別に食べなくてもいい」
この一言で完全に分かった。広野さんは夏バテをしている。
このまま、そうめんばかり食べさせていたらだめだ、栄養の面もあるけれど私も毎日そうめん生活は嫌だ。夏に入って何回そうめんを食べたことか・・・。
「お米を食べましょう、今日のお昼はおにぎりです」
「えぇー・・・お米なんて胃もたれするもの食べれない・・・麺類かパンでお願いします」
「日本人は白米です、塩たっぷりのおにぎりを食べたら夏バテなんて吹っ飛んで元気になりますから」
納得したのか広野さんは何も言わなかった。お米を研ごうと水を出すと生ぬるい水が出てきた。
「うわあ・・・」
生ぬるい水の後、冷たい水が蛇口から出てきた。早く秋にならないかな、そう思いながらお米を炊いた。
「どうぞー、召し上がれ」
台所のテーブルに置いたのは、たくさんの塩おにぎりと甘しょっぱい卵焼きだ。
「・・・なんかお腹すいてきたかも」
「でしょう?さあ、食べましょう、いただきます」
「いただきます」
一口おにぎりを頬張ると、塩のしょっぱさが広がり、食欲が進む。やっぱり夏の塩おにぎりは癖になるなと思った。
「どうですか?」
「うん、おいしいよ」
「そうですか、よかった」
その日のお昼ご飯は、私がおにぎり3つ、広野さんが4つ食べた。
広野さんは大部食欲が戻ったようで、もうそうめんを食べるとは言わなくなった。その代り今度は塩っ辛いものを食べたいというようになった。
「塩っ辛いものを食べすぎたら病気になりますからね!」
「・・・夏は汗かくからちょっとぐらい大丈夫だよ」
作ったおにぎりにこれでもかというほど塩を振りかけている広野さんは私がそういうと、おとなしく塩の入った瓶をテーブルに置いた。