家出少女の悪夢
今回は少し暗めの話です。
これは、夢、なのかな。
私が家に帰っている。夢の中の私は暗い顔で母の作った朝ごはんを黙々と食べていた、身につけているのは中学校の制服。私は重い足取りで玄関へ向かう。
ふと、振り返ってみると台所で食器を洗っている。私には見向きもしない。
「行ってきます・・・」
過去の私は母には聞こえないであろう小さな声でそう言った。
目の前では過去の私はクラスメイト数人にいじめられていた。
過去の私は何度も「やめて!」と叫んでいたけれど一向にやめる気配はなかった。それどころかその子たちは笑っていて、他の子たちは見て見ぬふりをしていた。
「助けて・・・」
手を伸ばすけれどその手をつかんでくれる人はだれ一人としていなかった。
私は命からがらにかばんを持って学校から逃げた、もう限界だったのだ、何もかも。
家でも、うまくいかなくて、それも私にはどうにもできないことだった。
解放されたくて、この日私は逃げだした。
そして、広野さんと公園で出会ったのだ。
あの日、本当は死ぬつもりだったのだ。でも、私にはそんな度胸なんてなかった、ただ一つ思ったことは「生きたい、死にたくない」だった。
「っ・・・」
そこで夢は終わった。目を覚ますと嫌な汗を全体的にかいていた。
「はぁ・・・嫌な夢」
思い出したくもない自分の過去。広野さんは私の家出の理由を今は聞かないけれど、いつかは言わなくてはならないのかな。
それにいつかはここを出で行かなくてはならない、いつまでもお世話になるわけにはいかない。
部屋を出ると喉がからからに乾いていた、グラスに水を注ぎそれを一気に飲みほした。嫌な思い出を水で流し込めたらどんなにいいか、そう思った。
「あっ起きてたんだ」
「はい、おはようございます」
「顔色悪いね、どうかした?」
広野さんは意外と観察眼が鋭い、人のちょっとした変化でさえもすぐにわかるのだ。
私は気付かれないように努めて明るい表情を浮かべた。
「全然大丈夫ですよ!なんにもありませんよ」
「・・・そう?」
「はい」
「それならいいけど」
そういう広野さんの横顔が一瞬暗く陰ったような気がしたけれど、すぐにいつもの眠たそうな顔に戻った。きっと、気のせいなんだろう。