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家出少女と将来の夢

 夕飯の時間、ふと広野さんはこんなことを私に言った。


 「君は将来の夢とかあるの?」

 「将来の夢、ですか?」


 突然の話題にどう答えていいかわからず、おうむ返しに尋ね返した。すると、広野さんはいつもの眠たげな目をこちらに向けて首をかしげた。


 「えっ、まさか決めてないとか・・・」

 「はい、えっと、何で突然?」

 「いや、気になったから聞いただけだよ」

 「そうですか」


 そういえば、広野さんはどうして小説家になったのだろうか。気になって聞いてみることにした。


 「どうして、広野さんは小説家になったんですか?」

 「・・・なんとなく、かな」


 そんな曖昧な返事を返した。なんとなくで小説家になった、ある意味すごいかもしれない。


 「そうなんですか」

 「そうなんですよ」


 夕飯を食べ終わり後片付けをしながらぼんやりと考えてみた。私がなりたい職業はどんなものだろうかと、しかし、考えてもあまり浮かばなかった。とにかく、今の現状ではまともな職に就けるのかさえも分からないのだ。


 「はぁ・・・」


 私は今、学校に行っていない。それはつまり勉強をしていないことにもなる。それは後々のことの障害となるだろう、頭ではわかってはいる、学校に行かなければならないことを。

 考えれば考えるほど気分は暗くなっていく。


 「なんて暗い顔をしているんだ」

 「えっ・・・そりゃ、暗い気持ちにもなりますよ」

 「・・・何かあったの?」

 「別に、何もないですよ」

 「何もないことないでしょ、そんな暗い顔をしてるんだから」

 「・・・」


 思い切って相談してみようか、そうしたらなんかアドバイスを言ってくれるかもしれない。


 「実はですね・・・」


 私は先ほどまで悩んでいたことを広野さんに打ち明けてみた。広野さんは何も言わずにただ聞いていた。


 「ふーん、なるほどね」

 「何か、アドバイスとかありませんかね?」

 「うーん、なんか特技とかはないの?趣味とか」

 「特技はないです」

 「うん、わかった、趣味は?好きなこととかさ」

 好きなこと、心の中でつぶやいて考える。私の好きなこと・・・・。


 「・・・そんな難しいことじゃないでしょ」

 「思いつきません!」


 本当のことを言ったら、広野さんは何も言わずにただ何かを考えていた。


 「でも、なんとなくこんな仕事がいいな、というのはあります」

 「へぇー、どんなの?」

 「人の役に立てる仕事がいいです」

 「なるほどね、たくさんあると思うよ、それに向いてるかもね」

 「本当ですか?」


 そういわれて少し安心した。向いてる、と言われたこともうれしかった。自然と笑みがこぼれる。


 「まあ、ゆっくり見つけていけばいいしさ、それに・・・君、まず高校に行かなきゃね」

 「はい、そうですね・・・」

 「今からでも遅くないし、勉強したらいいと思う」

 「間に合いますよね?」


 そう尋ねると広野さんは「間に合うよ」と優しく言った。


 「じゃあ、私がんばって勉強します!」

 「がんばれ」

 「はい!」


 一つ見つけた目標、それは高校に入ることだ。そのためには勉強をしなくてはならない。

 私の場合、みんなより遅れているから人一倍がんばらなくてはならない。


 「よし!」

 「あ、そうそう」

 「なんですか?」

 「勉強は何も学校でなくてもできるからね、心配しなくて大丈夫」

 「・・・はい」


 前から不思議に思ってたけど、どうして広野さんの言葉には説得力があるのだろうか。なんとなく、広野さんに大丈夫と言われたら不思議と何でもできるような気がした。


 次の日、帰ってきた広野さんは重たそうな袋を下げて帰ってきた。


 「なんですか。それ・・・」

 「何って、君の参考書とかノートとか買ってきたんだよ」

 「え!いいんですか」

 「もちろん」


 受け取った袋にはたくさんの参考書が入っていた。申し訳ない思いと少しばかりの嬉しさがあった。


 「ありがとうございます」

 「いいえ、どういたしまして」


 重たい参考書の一冊を取り出し、早速取り掛かった。久しぶりの感覚に懐かしさを覚えた。


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