変人さんの誕生日 2
何も準備できないまま広野さんの誕生日が前日に迫ってしまった。私はカレンダーを恨めしそうに見ていた。どうにかこうにか広野さんに用事が入らないかと心の中で祈るしかなかった。
そんな折家の固定電話が鳴った。なかなか広野さんが出る気配がないので私が出ることにした。
「はい、もしもし」
『おう、瑠璃ちゃんか?』
電話の主は九森崎さんだった。声が大きく耳が痛いので受話器から少し耳を話した、そのまま聞いていたら鼓膜が破れてしまいそうだった。
『悪いがあいつに言っといてくれ、明日打ち合わせがあるから朝9時までに出版社に来てくれってな』
「はい、わかりました」
電話を切った私はその場で大きくガッツポーズをした、声こそ出さなかったものの心の中では歓喜の叫びを放っていた。ここから出版社までは遠いのでたぶん帰ってくるのは夕方かもっと遅くかだろう。
「あっ早く伝えとかなくちゃ」
広野さんに伝えるために仕事部屋に向かった。入ると机の上で突っ伏して寝ている広野さんがいた。
すぐそばにベットがあるのだからそこで寝ればいいのに、そう思いながら起こすことにした。
「広野さん、起きてください」
「・・・・・」
反応がない。その後も大声でおこしにかかったのだが身動き一つもしないのだった。こうなればもう一つの方法しかなかった。私は広野さんの頭を平手でたたいた。
「痛っ!」
「おはようございますー」
「何するんだよ・・・起こすにしてももっと優しく起こしてくれよ」
「何回起こしても起きないので」
「で、何の用?」
「九森崎さんから電話がありまして、明日朝9時に出版社のほうに来てほしいそうです」
そう伝えると嫌そうな顔した。
「めんどくさい」
「行かなきゃだめですよ!」
そうだ、言ってもらわなくては困るのだ、私のためにももちろん九森崎さんや出版社の人も困ってしまうだろうから。
「・・・・なんでそんな必死なの?」
「えっ別に・・・」
「まあ、いいや行くよ、帰ってくるの遅くなるかも」
「全然大丈夫ですよ!」
「なんでうれしそうなの?」
不思議そうに尋ねられた、しまった不自然だっただろうか。気を取り直して真剣な顔を作る。
「とにかく遅れないようにしてくださいね」
「分かったー・・・・」
本当に理解したのかどうかは怪しいがともかく誕生日の用意ができることを私は心から嬉しく思った。広野さんに日ごろの感謝の気持ちを伝えるいい機会でもあった。とびっきり美味しいケーキを作ろうと意気ごんだのだった。
次の日の朝、広野さんが家を出て行くのを確認してから私は布団から起き上がった。まずは料理で何を作ろうかと考えた。
「うーん」
まず、卵焼きは作ろうと思った。前に好きな食べ物になったと言ってくれたので卵焼きは作ることを決定したのだった。他は何がいいだろうか。
「から揚げとか、お寿司とか・・・・?」
お寿司は無理そうだがから揚げはなんとかできそうだった。メインはから揚げにすることに決めた。
案外簡単に決まってしまったのだが冷蔵庫に材料があるかどうかだった。
案の定材料はなかった。あったのは卵とベーコンと玉ねぎ、ニンジン、バター、牛乳、ケチャップだった。
「これじゃから揚げは無理そうだな・・・・」
ケーキは自分のお金から生クリームと小麦粉くらいを買ってくるので大丈夫だったが予算を決めずにいた自分の計画性のなさを痛感した。
「これで何が作れるんだろう」
目の前にある材料を眺めながら考える。
「オムライスだ!」
これなら卵も使えるし、冷凍庫にある冷ご飯を使えばいい、オムライスにしよう。