第1章 2
「え~~~!!」
最後の一人が揃ったところで、人が増えるたびに最初に言われる羽目になった驚くなよ、という前置きに続く話に、みんなが期待通りの反応を示した相手に紗弓は苦笑いを向ける。
「紗弓、ほんとなの?」
「なぜか……」
そうして飲み物が揃い、ご飯も出始めて乾杯をしたところでようやく、詳しい話に入れるとばかりに質問が浴びせかけられるのだ。これはみんなの近況報告と久々に楽しく離して飲むという場所ではなく、完全にこの話題に染められそうな予感があった。集まったのは十人強だろうか。
「はい、じゃあ報告」
あらたまって康介が楽しそうにそんな風に切り出したのは、ひとえに紗弓がしぶっていたからだろう。それを楽しんでいるだけなのだ。こんな報告を楽しむ性格はしていないから。
「俺と紗弓、近々結婚するから」
「……それはもう聞いた。けど改めて言われるとやっぱり信じられないんだけどなぁ」
「でも言い出したの牧村くんだから。ドタキャンあるかもしれないし」
企画倒れ王、ドタキャン王とも面と向かって言われる飽きっぽさというか、そんな性格の康介をさして紗弓は苦笑いする。康介の方はそんなことを言われてもどこ吹く風だ。
「さすがにこのネタでそれやるほど、俺も人間堕ちてないから」
「そうあって欲しいけどな」
周りからそんな風に言われながらその前に、とようやく一人が口を開いた。本当は誰もが聞きたかったことだ。
「大学入った頃からつき合いあるからオレ達としては、まあようやくというか今さらというかおさまるところにおさまったような気がしないでもないんだけど。根本的な質問が。牧村、お前いつ彼女と別れたの?」
「紗弓にプロポーズする一週間前」
その彼女だって、ここにはいないけれど一応仲間内のようなものなのだ。康介の彼女ということで、旅行サークルだった彼らの集まりに何度か顔を出したこともあって皆顔見知りなのだから。
「それはさすがに……ひどくないか?お前。何で別れたんだよ」
「結婚話が煮詰まって。向こうはしたそうな感じを匂わせてたんだよなぁ、ずっと。でも俺の方は結婚願望皆無だし。でまあ、堂々巡りだから家庭持ちたがってる奴を見つけろよって事で」
それで何でこうなるんだというのは誰の頭にも浮かぶ疑問だ。それはもう、紗弓にしても何度も尋ねているけれど。
「で、あんた達付き合ってたの?というかその期間的にそれはないような……牧村二股?」
「するか、んなもん」
そうだと言われた方がまだ分かりやすい。
「俺でも一応、落ち込むのよ」
「説明になってない」
「牧村が非常識な奴だってのは分かってたけど……状況が全然分からん」
頭を抱え込む仲間内の中で紗弓と康介は顔を見合わせた。ほらね、と言わんばかりの紗弓に康介は何とも思っていないような顔で笑う。人を混乱させるのを面白がっているような、本当に質の悪い奴だ。
「そう言えば、前の彼女と別れた時にも康介、その日に紗弓ちゃん部室から引っ張り出して飯食いに行ってたよな」
「ああ、あったなぁ……そう言えば」
当の本人がそんな言い方をしている。自覚がないらしいそれに関しては、紗弓の方が覚えていた。
「八つ当たりされたんだよ、あの時は」
「しても怒らねぇだろ、お前」
「怒らなかったのは、いつもと違ったから」
そこでの思い出話はここでは置いておいて、と口を挟んでそれで、と質問攻めは続く。
「で、何でそうなる」
「一応付き合ってたの長かったし、そこそこ落ち込んでこいつ引っ張り出して飯食いに行って。で、その頃結婚話に悩まされてたから頭に浮かんだんだよなぁ。で、こいつならまあいいかと思って言ってみたらいいよって言うから」
「冗談だと思うでしょ、普通」
「で冗談で返したのかよ」
「それは……」
言葉に詰まった方の紗弓に今度は視線が集まる。そんな理屈で、結婚する気がなくて別れた康介が他の、しかももともと知っていた女友達にプロポーズをする気になったのも突っ込みどころは満載なはずなのだが、それが康介だとなるとそれはそれで何となく納得してしまうからおかしな話だ。
「まあ、紗弓ちゃん絶対に言おうとしなかったし隠してたけど、大学の頃から康介のこと結構好きだったしねぇ」
「でもあの、恋愛する気のない紗弓ちゃんが……」
女友達のそんなはっきり言う感想に紗弓は軽くそっぽを向く。少しアルコールが入って言ってもまあいいかという気分になってきたのかもしれない。
「冗談だと思ってたけど。でも、ちゃんと正直にたまには答えないと後悔すると思ったの。いい加減。それで向こうが冗談だったとしても、そんなことだと思ったよって笑い飛ばせるし。牧村くんなら」




