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歩く速さで  作者:
2/14

第1章 1

 大学時代の仲間と集まる久々の飲み会に行きながら紗弓はため息をついた。そんな紗弓を見下ろして涼しい顔で人を小馬鹿にしたような顔で笑う康介を紗弓はもう一度ため息をついて見上げた。久々にみんなと遊びたいと言い出してみたら、意外とたくさん人が集まったのだ。場所は大学時代から行きつけの店。多分もう店の中に入っている人も何人かいるだろう。

「んなにため息つくんなら一緒に行かないでばらけて行けば良かっただろうが」

「一緒に行くだけなら誰も何とも思わないよ。あんたとわたしじゃ」

「だろうな」

 けらけらと笑って言う長身の康介を紗弓はまったく、と今度は苦笑いで見上げる。こういう奴なのは、学生時代から分かっていたから。そして、相手の言動の予測がつかないことも。

「牧村くん」

「ん~?」

「今日はやめとかない?」

「後回しにして何が変わる」

 きっぱりと言われては何も言い返せない。まだ友人の誰にも言っていない……というより言えていないこと。この機会にちゃんと話してしまおうということになったのだ。その機会を自ら進んで与えてしまったようなもので、墓穴堀もいいところだと気づいた時には紗弓には後の祭りだったというわけで。

「ぶっちゃけてしまうと、わたしのまだちゃんと理解も納得もできてないんだけど」

「しつこいねぇ、お前も」

 笑いながら言う康介は、店に着くとそのまま階段を上がっていってしまう。紗弓に心の準備、というものをする間も与えてくれない。このヤロウ……と内心拳を固めながらその後を素直に追ってしまうのだけれど。


 顔なじみの店員たちに示された方に、もう来ている友人たちがテーブルを囲んでいる。大半は仕事帰りだ。一部はまだ、学生だけれど。大学院に進んだ人、あるいは、単にまだ卒業できないでいる人。

「紗弓!こっち」

 手を振って呼ぶ女友達に手を振り替えしながら、その隣の空いた席に紗弓はおさまる。康介の方は康介の方で、男仲間の適当な場所に腰を落ち着けていた。飲み物は出ていて、食事は揃ってからということだろう。軽いつまみだけがテーブルの上にはあった。

「何、一緒に来たの? 駅かどっかで偶然会った?」

 のっけからの質問に、紗弓は目をそらす。

「紗弓のことだから一人で店に入りづらいからって牧村巻き込んだんじゃないの?」

「う゛……」

「図星か」

 目をそらす紗弓を見て仲間たちは簡単にそんなこともう、見抜いてしまう。ついでにもう一人、紗弓を呼んだ女友達が目ざとかった。紗弓の薬指に目を止める。大学時代から、アクセサリーなんて絶対に身につけなかった紗弓だ。中でも指輪なんてもってのほか、邪魔だと言い放っていた紗弓だ。

「紗弓……彼氏いるの?今」

 何ぃ、と、色めき立つ中、紗弓はため息を新たにした。所詮、久々にあった仲間内は近況報告から始まるのだ。そしてつき合いがある程度あって深かった分、みんな目ざとい。

 康介の何となく偉そうな笑い顔が悔しかった。



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