エピローグ
子供達を犬と一緒に隣の家に預け、紗弓と康介は外に連れ出される。ずっと話し込んでいたのにまだ話し足りないのだから、会っていなかった時間の長さが分かるというものだ。
「そう言えば紗弓ちゃん」
オグの声に紗弓は振り返る。オグに並びながら首を傾げた。
「前に言ってたじゃない。結婚する前。約束したって。あれ、何?」
「覚えてたの?恥ずかしいなぁ……」
困ったように笑ってごまかそうとする紗弓を、オグは離さない。
「どういう風に転んでも、お互いに相手を知らなかった頃みたいにはならない。こんな風な話が出る前の状態以前にはならない。要するにね、ずっと友達ではいようって事。なくしたくないから、約束させたの」
「でもそんなの……約束しちゃったら、今の状態はその約束のせいかもとか考えて落ち込んで、かえって無意味じゃない?」
「鋭いなぁ、確かに思ったよ。でもまあ、そんなのが分かった時にはね、思いっきり、だからお前はばかなんだって言われて終わったけどね」
ああ、なるほど、と、やっとあの時の紗弓の言葉のいろんな意味が分かってきた気がする。康介なら大丈夫だと思ったと言ったわけ。康介なら確かに、大丈夫なのかもしれない。
「お互いのんびりマイペースにしか動けないからね。ちょうどいいよ。色んな事にはゆっくり慣れていけばいいし、困ったらどうにかしてもらえばいいし」
「人任せなんだ」
笑うのを見ながら、紗弓は平然と、当たり前、と言い返す。一緒に歩くと決めたのだから。自分の荷物をそれぞれ片手に持って、二人の荷物を間で二人で持って。どっちかが疲れたらもう一人が手伝って、二人で疲れたら一緒に休んで。
「とりあえず、わたしは約束した自分を目指して日々精進中」
「?」
「わたし意地っ張りで、素直じゃないでしょ。だからせめて、ごめんなさいとありがとうは上手に言える人になりたいって言ったの。簡単だけどわたしには難しくて、それなのに大事な言葉だから」
「言えてると思うけど」
「言えないこともあるんだよ」
笑いながら歩いていく。躓いて転びそうになった紗弓の腕を、どうやらしっかり見ていたらしい康介がつかんだ。
「アホ……足下見て歩けって言ってるだろ、そそっかしいんだから」
「見てるよ」
「もっと見ろ。こっちが目が離せないから」
何となく、ずっとこんな調子で二人はいるんだろうなぁと腹におさまる実感でその場の面々は感じながら眺める。
もう盛り上がっている様子の酒場に二人を押し込むようにして入りながら、次々に回ってくるグラスを打ち鳴らした。




