第4章 1
まだ明るい時間に外から帰ってきた康介は、ポストに入っていた郵便をひっくり返して封筒を開ける。ここにまで届くのか、と思いながら。
「手紙?」
椅子に腰掛けた康介の肩越しにのぞき込む紗弓に、目を通した手紙が見えるように少し移動させた。
「今年の旅行はヨーロッパだと。最近贅沢だなぁ」
「……あの子達、たかる気ね」
くすくすと笑って紗弓は応じる。二年前、アジアに旅行をした時を思い出す。しばらくは参加できないのだな、などと思っていたのだ。
「ドイツにはいつ来るの?」
「二月の終わりだな。……紗弓、何か火、かけてないか?」
鼻をひくひくさせて康介が顔をしかめる。しまった、と、紗弓が慌ててキッチンに走っていくのを見送ってため息をついた。本当に、そそっかしくて抜けているのだ。
「去年は結局全然顔出さなかったしね、行事」
マグカップを二つ持って戻ってきた紗弓は康介の前に一つ置きながら、向かい合わせの椅子に腰掛ける。
「去年は無理だっただろうが……今年もか。来てくれて、嬉しいんだろ?」
「オグちゃんとか、参加するのかな」
「ここだけ、便乗してくるんじゃねぇの。征一はもう、そう言ってるみたいだし」
数日後、帰ってきた康介は家の中から聞こえる話し声にそちらに足を向ける。電話口で楽しそうに笑っている紗弓が振り返った。
「あ、今帰ってきたよ。待って、代わるね」
「誰?」
「オグちゃん」
顔をしかめて見せながら受話器を受け取った康介は、電話の向こうの、国際電話の音声の悪さと、そして多分向こう側の後ろのざわめきで聞き取りにくい、ハイテンションなオグの声を聞く。苦笑いしながら受話器を指さす康介に、紗弓は笑っているだけだ。
ぞんざいに応じながら電話を切った康介を笑って眺めている紗弓は、暢気に伸びなどしている。
「どうしようか。ゲストルーム足りないね」
「雑魚寝でいいだろ、雑魚寝で」
よりによって、あえて「牧村家を訪問しようツアー」なんてものをOBで企画したというのだから。泊めろという言葉に、そう言われても泊められるスペースにも限りがあるというものだ。それなのに、紗弓の方は楽しそうに笑っているのだから。
「お前また、楽しんでて深く考えてないだろ」
「じゃあ、何か考えてるの?」
「アホ、考えるわけないだろうが。なるようにしかならないんだから」
「ほんと、成り行き任せだよね」
お前が言うな、と小突きながら康介は頭をかいてリビングに足を向ける。こっちでの暮らしには慣れたけれど、何となく、ここに日本の友人達が来るということがうまくイメージできなくて。




