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【吸血鬼の変奏曲(パルティータ)】  作者: 稲木グラフィアス
第一章『銀髪の追跡者(チェイサー)』
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Phase.1『銀髪の吸血鬼』part.4

 

「さて、校長室は……と」


 何せ永夜は学校に行ったことなどない。

 ウィアドのメンバー達に最低限の知識は教わったが、永夜の知識の殆どは生き延びる為の知恵。

 銃の扱いや戦闘についての知識ばかりで、おおよそ普通の学校の教育など受けていない永夜の成績はどんなに悪いか知ったものではない。

 ミッションを引き受けてからここに送られてくるまでに女性の仕草を女性メンバーから一通りは教わったが、気を付けられるかはその場によると言った感じだ。

 ハッキリ言って自信がないのだ。


「あれ、あなたは?」


 声をかけられ、振り向くと女性が一人立っていた。

 星亮高校の教師だろうか。

 背は俺より少し小さい位。

 雰囲気はとても大人の女性とは言いがたいが、胸の膨らみは……とそこまで思ってから目を反らす。


「先生ですか?」


「そうですけど?」


「良かった。校長室の場所を教えてくれませんか?」


「はい、どうぞ」


 その先生は永夜を校長室の前まで案内してくれた。

 星亮高校は永夜の想像していたより大きな高校だった。

 何でも、星亮市では一番大きな高校らしい。


「ここですよ?」


「ありがとうございます」


 永夜は先生にお辞儀をすると、校長室の扉をコンコンと叩く。


『どうぞ』


「失礼します」


 扉を開けて入ると、二人の人物がいた。

 永夜は扉をしっかり閉めると、扉の向こうに誰かの気配が無いことを確認し、くるっと向き直ると二人を見た。


「ウィアド調査班、コードネームチェイサー7です。本日付でこの学校に所属させてもらいます」


「よろしくお願いします。校長の松下(まつした)光三(こうぞう)です。……あの、ウィアドからは男性の方が派遣されると聞いていましたが」


 そう言われて永夜は言葉を詰まらせる。

 だが、ちゃんと事情を説明せねばなるまい。


「この高校で天月真夜と名乗らせてもらいますが、自分は本当は男でして。吸血鬼を誘き寄せる為にこんな格好を……」


 校長と、隣にいる教頭だと思われる人物が永夜の事をじっと眺めている。

 永夜は恥ずかしさに少し下がる。


「……ふん、そうですか。申し遅れました。私、教頭の初瀬川(はせがわ)晴夫(はるお)と申します」


 と丁寧に挨拶きたので、永夜は「どうも」とお辞儀をしておく。


「それにしても、こんな若いお方がウィアドの調査班ですか……」


「若いって、自分はこれでも今年で二十歳なのですが」


「そうなのですか? いやぁ、とても可愛らしいので、まだ高校生と同じ年齢かと」


 ははは! と盛大に笑う二人。

 永夜は拳を握り、怒りを抑える。


「いやぁ、すみません。えー、では我が校の寮に寝泊まりしていただくと。ついでに高校の授業の課程も受けると聞いたのですが?」


「え、それは聞いてませんが」


「まあ、いいですよ。これからお世話になりますし、授業料も別に頂いてますから。今日から転校生として授業を受けていただいて、調査の方は放課後にでも」


 勝吉が何を考えているのかなど永夜に知ることはできないだけに、とても気になった。

 同時にミッションが終わっても潜入は続くのだと悟った。

 更に、女装も続ける羽目になるのだと思うと心の底から自分の義父親を殴ってやりたいという噴気にかられた。


「佐野先生。入って来てくれますか?」


 校長が呼ぶと、先程の先生が入ってきた。


「転校生をおねがいします」


「わかりました。……えっと、佐野(さの)美鶴(みつる)です」


「雨月真夜です」


「大丈夫ですよ、ウィアドの方の事は校長先生から聞いていますから」


「そうですか……はははっ。(この人達、本当に聖職者なのか?)」


 女装をした男を校内に放置して。不純ではないだろうか。

 当然、永夜に不埒な気は無い。

 無いのだが『女装なんて認められない』とくらい言って欲しかったのだ。


「じゃあ、寮の部屋に案内しますね」


「あ、はい。よろしくお願いします」











「はい、ここです」


 佐野先生の案内で永夜は星校の学生寮に来た。

 しかし着いた途端、永夜はガクッとその場に膝を付いてしまう。


「ど、どうかしましたか?」


 恐る恐る聞いてくる佐野先生に永夜は力無い声で答える。


「いえ、やっぱり女子寮になるんだなぁ……と」


「それは仕方ないと思いますよ? 天月真夜さんは皆からすれば、女の子なんですから」


「…………はぁ」


 朝の男二人に美佳、校長、教頭、佐野先生までが自分の事を女の子呼ばわりする事が、永夜に少しずつ諦めを感じさせていった。


「これは任務、任務……なんだけどなぁ。三年間ここで過ごす事になるなんてぇ……」


「大丈夫ですよ。皆も真夜さんと仲良くしてくれますよ」


「むしろ放っておいてください」


 永夜の頭の中は後悔が7割、心配が3割を支配していた。

 佐野先生は永夜に207号室の鍵を渡すと仕事場に戻っていった。


「今日はもう寝るか」


 しかし鍵を開け、室内に入ろうとした所で見知った顔に出会う。


「あ、貴女!」


「へ、……ひぐっ!?」


 永夜は聞こえた声に振り向くが、それが誰かとわかった途端、素っ頓狂な声を出した。


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