Phase.8『過去』part.5
中間テストでかなり遅くなりました。
すいませんです。
またすぐに実力テストですが、それまで頑張って投稿したいと思います。
……って、そろそろ一章が終わりそうですねぇ。
永夜の予想よりも早く屋上に上がってきたようだ。
「……桜さん」
「気安く名前を呼ばないでくれますか?」
「はぁ……はぁ……桜、走るの速すぎ」
すぐ後に三人が来る。
美佳も遥も修も戦力として見なくても大丈夫だろう。
三人は疲れているし、スクールティンカーの中で永夜に殺意を向けているのは桜だ
けなのだから。
「五分もかからないよな」
五分というのは、ウィアドの仲間が到着するまでの時間で、これから永夜はその前に桜を追い払うか説得しなければならないのだ。
「……ふぅ」
桜はスカートのポケットに手を入れる。
ナイフの可能性が高い。
まず拳銃や重いぶきではないはず。
もしそうなら、法に引っ掛かってしまう。
接近戦になると思い、永夜もナイフを掴む。
「……っ」
「はっ!」
永夜がナイフを掴んだ瞬間、桜はポケットから手を出した物を振る。
咄嗟に永夜はそれを流すが、それは予想通りの小型ナイフだった。
「でぇや!」
桜はすぐに方向を転換し、ナイフで永夜の胸を突く。
永夜は後ろにステップ。それを追って桜が突く。
もう一度後ろにステップ。また追って桜が突く。
もう一度と言わんばかりに桜が突くが、永夜は横にステップ。
勢い余って桜は転びそうになるが、なんとか立て直す。
「さすが、戦闘のプロですね」
「ただ訓練してただけだよ、このくらい。それに俺は戦闘じゃなくて、捜査が専門なんだけど?」
「凄いな。元ボディガードと現役が戦うと、こんなになるのか」
「早すぎて、ナイフの先の動きに目がついていかないわ」
「…………桜、どうしてウィアドをそこまで……」
美佳と修が呆然としている時、遥だけは桜と永夜の二人を心配そうに見ていた。
「貴様等ウィアドが来なければ、彼女はっ!」
「……彼女?」
「彼女はぁっ!」
桜の目尻にキラリと輝く物が見えた。
どんな過去だったかなど、永夜は知らない。
たとえ知っていたとしても、他人の永夜には知り得ない事だろう。
「このっ!」
桜の猛攻に永夜は次第に体力を削られていった。
「しばらく寝てなかったからな。集中力がっ……!?」
その直後、桜のナイフが永夜の頬に触れた。
血が垂れ、決して浅くない事がわかった。
「…………(ドクン)」
桜のナイフに付着した自分の血を見て、永夜の心の底から沸々と込み上げてくる。
それは激しい吸血本能。
それがわかると、永夜は左腕に噛みついた。
「っ……ふーっ!」
「え……、永夜?」
どうしようもない吸血本能が永夜の心を犯していく。
昔から永夜は、血を見ると吸血本能が込み上げてくるのだった。
ウィアドの調査で、それは吸血鬼なのに血を飲まないからだという事がわかった。
つまり吸血鬼の禁断症状だ。
今まで、ウィアドから血液をカプセルに入れた物を支給され、それを飲んで吸血本能を抑制していた。
もちろん、このカプセルに入っているのは人の血だが、あらゆる手段の採血で集められた色んな人の血が混ざった物である。
故に、吸血本能を剥き出しにする前に抑えるのだ。
それが最近、多忙で飲んでいる暇が無かったのだ。
「見てください。これが吸血鬼です。吸血鬼はやはり血を吸わなければならない化け物! 大方、血がほしいのでしょう?」
「そんな事は……ないっ!」
苦し紛れに自らの腕に噛みついて、自分の血を自分で吸って気を落ち着かせている物の、自分から吸っては意味がない。
「ならば、いつもの天月真夜のように振る舞って見せてください。できないでしょう。それは貴方が吸血鬼だからです!」
「俺は……人から直接に血は吸わないと……決めた!」
永夜は頭がクラクラするのを堪えながら、桜から目を外さない。
「私はウィアドが憎い。だから……」
「もうやめて(なさい)、桜!」
美佳と遥が声を荒げた。
その場の全員が言葉を失い、視線を二人に向けた。
「美佳……? 遥……さん?」
「遥様……?」
「桜、貴方は間違ってるわ!」
「な!? ……何をですか」
遥は永夜を庇うようにして桜の目の前に立ちはだかった。
その行動に、その場の全員が言葉を失う。
「離れて……、二人と……も……」
「桜が永夜さんを……いや、真夜さんを殺そうとするのをやめるまで退く気はありません!」
何をしているのかは、二人にもわかっている。
彼女らの頭には、天月真夜が戻ってきてほしいという願いでいっぱいだった。
「桜、貴女の過去何があったかは私程度の能力じゃ分からないけど。それがどんなに辛かったかはわかるのよ!」
「私達は同じ、スクールティンカーのメンバーじゃないの」
「そうだな」
「修さんまで……?」
いつの間にか、修までもが永夜を庇っていた。
永夜は自分を恥じた。
こんなにも自分の事を想ってくれている仲間がいるのに、どうして自分は彼らを頼らず……いや、信じずに一人で行動していたのか。
ウィアドに入ったばかりの時もそうだった。
吸血鬼の身体能力を買われて攻撃班に入れられた時、自分以外は皆人間だったものだから信用ができずに一人で行動して仲間を危険に晒した。
それもあって、永夜は単独行動の多い調査班に転属させてもらった。
調査班に転属してから幾多の月日が過ぎ、ウィアドの仲間とも親しくなっていったが、それでも永夜は一人だったのだ。
「皆さん、まだわからないのですか。その天月真夜……本名、柳永夜は!」
「吸血鬼だから何? 実は男だったから何?」
「…………っ!?」
ふと、永夜は空を見た。
煌々と夜空に輝く月の中に、小さな影。
コウモリに似た、吸血鬼の翼。
ウィアドの仲間が来たのだ。
そうだ、星亮高校にはスクールティンカーが。ウィアドには新しくルナがいるじゃないか。
永夜は密かに感じていた孤独感を忘れ、小さく笑う。
そして、右手でゆっくりと桜にバレないように魔法陣を描く。
「ねんねんころり、ねんころり」
魔法陣が輝き出し、スクールティンカー達が異変に気付く。
桜が一目散に止めに掛かるが、もう遅い。
「夢心地の良い世界にお休みなさい……」
瞬間に魔法陣から柔らかな光が迸り、その場を包む。
光で視界が効かない中、ドサッと四人が倒れる音がした。
光が弱まり、視界が戻ってくると四人全員がその場で寝ているのが見えた。




