Phase.8『過去』part.4
「ひぅっ……!?」
突然、永夜は悪寒を感じた。
キョロキョロと辺りを見回すがそこには一般人しかおらず、夜の商店街の人間は帰宅中の酔っ払いばかり。
しかし、『ばかり』と言うだけで『だけ』ではない。
所々に女生徒がいる。
永夜が見ても可愛いと思えるほどの子はいないが、おそらく彼女らのような人物がキョンシーに狙われるのだろう。
「門限を無視してまで、よくもまぁ」
ただし、そう言う永夜も周りから見れば彼女らと何ら変わりはないのだ。
夜中に商店街に訪れている少女|(女装した成人男性)。
それはそうと、永夜を追ってくる三人の男達が気にかかっていた。
「また、ああいう奴等もいるのか……」
永夜は裏路地へ身を隠し、少し奥に入った。
誰も見ていないのを確認した後、建物の屋上に飛び上がる。
少しして先程の三人の男達が走ってきたが、当然そこに永夜の姿は無い。
「ここだよ、バーカ」
小声で男達を馬鹿にすると、月明かりの照る屋上をひょいひょいと飛び越えて移動した。
時刻はもう日付を越えた時間。
キョンシーは既に活動を始めているはずである。
「ん、あれは」
ふと、商店街の真ん中を歩く団体を見つける。
スクールティンカーだ。
「…………っ!?」
自分を探しているのかと様子を見ていると、背筋が凍る程の殺気を感じて、永夜は身を伏せる。
永夜を驚かせる程の殺気を放てるのは、スクールティンカーでは桜にしか思い当たらない。
そっと、もう一度覗いてみると、今度は桜と目が合った。
「しまった!」
永夜は弾かれたようにその場を駆け出したが、一人の少年が永夜の行く手を阻んだ。
「ようやくお出ましか」
以前より自由が効くのか腕はだらりと垂らし、膝も曲がるようになっているようだ。
「もしかして……」
永夜は後ろ手で銃にサイレンサーを取り付ける。
「狙った獲物は逃がさない……って訳ないか。どうか、喋れるか?」
「ふーっ、ふーっ」
「期待なんてしてねぇよ。悪いがお前には死んでもらうぞ。世の中の為にな」
永夜はその瞬間、キョンシーに向かって引き金を引いた。
予想通り弾は弾かれるが、これは牽制。
鞄に入れた思いレーザー銃は確実に当てなければならない。
キョンシーは弾など無視して、突っ込んでくる。
「うらぁ!」
永夜は鞄に手を突っ込むと、中でレーザー銃を掴むと、鞄ごとキョンシーに向かって構える。
ィィィィィィン! と、中でモーターが回る音がすると、キョンシーはすかさず横に跳んだ。
直後、鞄を突き破って熱線が飛び出す。
「発射までのタイムラグが大きいな」
「ふーっ、ふーっ」
レーザーを警戒してか、キョンシーは距離をとって近づこうとしないでいる。
「また逃げるか。それとも……」
すると、キョンシーは夜空に向かって高くジャンプをした。
空中で両手を上にあげると、それを振り下ろしながら落下してくる。
「所詮子供だな」
永夜はキョンシーの攻撃を難なく躱し、羽交い締めにして上空へ飛ぶ。
50メートル程の高さに来た所で、急降下。
屋上の床のギリギリまで降下し、キョンシーを手放すと自分は空中で静止する。
キョンシーの体はそのまま床に叩きつけられ、動きが止まる。
すかさず永夜はレーザー銃を放つ。
キョンシーはレーザーを躱そうとするが、熱線はキョンシーの下半身を吹き飛ばした。
「…………終わりだな」
永夜は静かに降り立ち、ゆっくりとキョンシー歩み寄る。
キョンシーは恐怖に顔を歪め、逃げようともがく。
「ごめんな。吸血鬼の俺がやるのも何だけど……せめて安らかに眠れよ」
永夜は残ったレーザーでキョンシーの頭を撃ち抜くと、レーザー銃を投げ捨てる。
深い深いため息をついた後、端末から連絡をとる。
「吸血鬼の犯人と思われる、キョンシーの排除に成功。至急、死体の回収と破壊された床の修復、そして記憶操作の能力者を寄越してください。場所は……」
永夜は場所を告げると端末の電源を切り、その場にうずくまる。
「やっと、終わった。……長かったぁ」
「いえ、まだ終わってませんよ」
「そうだな、まだお前達が残ってたか」
少しくらい休ませろよ、と未練がましく思いながらまた立ち上がって振り返ると、スクールティンカー全員が永夜とキョンシーを見ていた。
「キョンシー抹殺、お疲れさまですね。柳永夜」
「そうだな」




