Phase.8『過去』part.2
「……か。……美佳?」
ふと、微睡みかけていた美佳は名前を呼ぶ声に徐々に覚醒する。
時間はすでに放課後。
「あ、あぁ……修。何?」
「何、じゃないだろ? 今日も真夜さん探しに行くんだろ?」
名前を呼んだのは修で、天月真夜が男だと知っても未だに真夜と呼んでいる。
本当の名前も知っているというのに。
それは、修がまだ真夜という女生徒が永夜という成人男性だという事を認めたくないのか。
修なら『いや、俺は信じないぞ!』とでも言いそうだ。
ふと、美佳は桜の方を見た。
桜は遥と何かを話している。
小声で話しているようで何を話しているのか聞こえないが、もしも永夜に遭遇した時はどうしろ、という事を話しているのだろう。
そう解釈して、美佳は再び修に目線を戻す。
「真夜がいなくなってから、もう随分経ったわね」
「いつまで休んでいるつもりなんだろうな」
「そりゃ、正体がバレたんだもの。キョンシーを倒して、自分が吸血鬼事件の犯人じゃないって証明してからじゃないの?」
「桜さんがそれで信用するのかなぁ」
「さぁ、分からないけど。桜も桜で、ウィアドを知ってたみたいだし。なんか恨みがあるみたいだったし」
「ふーん、あの桜さんがねぇ。まぁ、他人には知らない場面があるってのが俺らA組だからさ。気にしないようにするけど」
周囲からどんな目で見られていたかは、同類とでもいうべきA組の生徒のように普通ではない力を持っている者にしかわからない。
そう。吸血鬼であろうと、サイコメトリストであろうと、パイロキネシストであろうと、邪鬼眼であろうと、怪力であろうと、それは変わらないのだ。
A組の生徒は皆、同じ経験をしてきた仲間なのだ。
だからこそお互いを理解できるし、同類として仲良くしていける。
しかし、永夜のソレはA組の生徒の誰の経験よりも残酷で、目を覆う程の物であったと美佳は直感した。
力がもっと強ければ、永夜の過去を知り、慰めることもできたのに。
美佳は思った。わからないなら、聞いてあげればいい。
桜の場合も同じ、ウィアドの何を恨んでいるのか分からないなら聞けばいい。
自分の目の前で全て吐き出してもらい、それを受け止めてあげようと。
「よし、じゃあ永夜探し。今日もしますか!」
「おう!」
勢い良く外に飛び出してみたが、まず手がかりがなかった。
「まぁ、分かってはいたけどねー」
「もう一度、情報を整理してみましょう。ただ闇雲に探しても時間の無駄ですし」
「もっと早くに言って欲しかったかも……」
スクールティンカー達は一旦近くのファミレスに集まり、情報を整理にてみる事にした。
まず、永夜の目的は吸血鬼事件の犯人の確保、もしくは殺害。
初めは吸血鬼の仕業だと思われていたこの犯行は、実は中国の妖怪のキョンシーによる物だった。
美佳の能力で、キョンシーの体格は子供だと断定。
永夜との戦闘中、キョンシーは突然逃走。
…………。
「さっぱりわからないわ」
「キョンシーは何故突然逃げ出したんだ?」
「わかんないわよ。永夜が戦いの後に何かして、私の能力が無効化されちゃってるんだもん」
「それはもう一人の吸血鬼の仕掛けていた物と同じ物なのでしょうか」
「それについては、有紀斗君に聞くしかないね」
三人が話し合っている間、遥は永夜の事を話すべきか迷っていた。
永夜の事情も承知しているつもりだが、美佳達の調査はこれ以上発展しそうにない。
キョンシーが鏡状の物に近づけなくて、永夜はウィアドから届くレーザー銃でキョンシーを殺すつもりという事を言えば、かなりの発展に繋がるだろう。
しかし、桜はウィアドを敵視しているため、キョンシーを殺すつもりだという事を聞けば『やはりウィアドは殺しを……』と言って、ますます永夜の風当たりが悪くなるだろう。
「遥……どうかしたの?」
「いえ。とは言え、まず有紀斗さんを呼んで目を壊してから探しませんか?」
「まぁ、それはそうだけど……」
「今すぐ壊すのは得策ではないかもしれません。ウィアドはキョンシーを殺すつもりでしょうし、殺す直前に壊して位置を特定し、急いで向かわないと。……でないと再び結界を張られてしまうでしょう」
「一応、永夜の部屋にあった櫛は確保してるんだけどね」
また振り出しである。
確かに永夜の現在地を見つけるには、いますぐ結界の、目を破壊する必要があるのだ。
「ともかく、ウィアドはキョンシーを殺害する筈です。ならば人の少ない、犯行現場ともなった裏路地。時間帯は夜中になるでしょう」
すると、桜は一枚のノートのページを出して見せた。
「過去に発生した吸血鬼事件の時間と場所です。ガード時代の仲間からの情報ですので、信用できます」
紙には簡単な地図と所々に赤丸と時間が書いてある。
「見ればお分かりの通り、星亮市のある特定の条件が揃った場所です」
特定の条件。
それは、裏路地の奥である事。
それに加え、始めに犯人と疑っていた吸血鬼の少女の隠れ家だった下水道の場所からほぼ等距離に発生している事だった。
「後は、のこの距離にある場所の何処に現れるかね」
「…………あ、あのっ!」
突然、遥が声を上げた。




