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【吸血鬼の変奏曲(パルティータ)】  作者: 稲木グラフィアス
第一章『銀髪の追跡者(チェイサー)』
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Phase.8『過去』part.1


 朝方。時刻にして、午前三時ちょうど。

 星亮高校の裏門で、永夜は物資が届くのを待っていた。


「……ん~」


 コクリ、コクリ。と立ちながら船を漕ぐ永夜。

 捜査と緊張感、そしてスクールティンカーの捜索から逃れなければいけない状況から、充分に睡眠を取れていない。


「チェイサー7? 起きてください」


「んっ……んあ?」


 睡魔に負けそうになった所に、聞き覚えのある声に助けられる。


「まさか、ルナか?」


「そ、久しぶりね。永夜」


 にやにや、と笑うルナがウィアドの補助班の服を着て、重そうに荷物を抱えて目の前にいた。

 荷物の中身は試作品のレーザー銃なのだろう。


「何でルナがそんな物を運んで来るんだ?」


「話すと長くなるから短く言うとね。ウィアドに行って、更生が認められて、補助班に入ったって事」


「早い更生だな……ふむ」


「ほらっ、例のブツよ」


「あ? あぁ……」


 中々様になってるルナに見とれてしまっていた。

 露出は高くはない服装だけに、永夜の中のルナの第一印象がウィアドの制服と見事に合わさっていた。

 ルナの声に我に帰ってすぐに、荷物の中を確認する。

 中にはレーザー銃のパーツが綺麗に整理されて収まっていた。


「確認した」


「よしっ、任務完了! ……っと、そうだ」


「ん、何だ?」


「キョンシーについて、新しい情報が入ったわ」


 ルナは勝吉に情報を伝える事を頼まれていたらしく、永夜は通信で伝えればいいのに、と心の中で呟いた。


「キョンシーは鏡に弱くて、近づけないらしいわ」


「鏡? なるほどな。俺のナイフが鏡の役割を果たしてたってわけか」


「そういう事だから、ナイフを出すとまた逃げられちゃうかもね」


「じゃあ、ナイフは使えないな……とすると」


 ナイフが使えないなら、キョンシーの接近を全力で阻止しなければならない。

 この前のように空のない空間だと不利である。


「うまく誘きだすしかないか?」


「さあ? まずキョンシーがでる場所がわからないからどうにもならないわね」


 なんて他人事な。と永夜は心の中で呟く。

 何と言うか、ルナならスクールティンカーに入っても、上手くやっていけるのではないか。

 そうも思えた。


「……いやいや。んなバカな」


「何が?」


「何でもないよ」


 ルナが入学してきたら、十中八九自分と行動を共にしそうだった。

 そんな事をすれば、美佳にスクールティンカーに入れられ、すぐにバレてしまいそうだ。

 余計にややこしくなる。


「…………ふぁ」


「ん、眠いのか。ルナ?」


 ルナは目の前で大きなあくびをする。


「うん、私が届ける事が決まってから、永夜に会えるって楽しみだったから」


「遠足前の子供かよ」


「うーん。むしろ、久々に父親が帰ってきて、それを待つ妻?」


「いや、寝ろよ」


「あ、永夜は妹の方がよかった? お兄ちゃん?」


 ルナはもじもじとしながら、上目使いに言う。


「お、に、い、ちゃん♪」


「…………やめろ、馬鹿///」


「あ、顔赤ーい」


「うるせっ」


 妹属性とやらではないぞ、と永夜は心の中で何度も唱え続けた。

 背の高さ、赤い目、そして同じ吸血鬼という同種族での異性とあって、意識してしまう所はあった。


「ん゛んっ! とにかく、レーザーが撃てるのは何回だ?」


「えーっと、フルチャージで精々三回だって」


 三回、この回数に永夜は不安を覚える。

 射撃は得意だ。しかし、レーザー銃は鞄のままで結構な重さがある。

 振り回すのはもちろん、接近して使うことはできない。

 遠距離攻撃しか対処法はなく、キョンシーの動きもかなり速い。

 その三回しか撃てないレーザーを確実に、キョンシーを無力化する箇所に当てなくてはならないのだ。

 キョンシーは死体。つまりら簡単に胸部を撃ち抜けばいいと言う事はない。

 撃つのは足か頭。

 初めに足を撃った場合、次は逃げないようにもう片方の足か頭を打つ事になる。

 もし外したら、というのは考えないことにした。


「少ねぇなぁ」


「あら、可憐な女の子がそんな口をして」


「誰だよ、お前」


「吸血鬼のルナです!」


「いや、知ってるし」


「私はルナ。貴女は真夜。可憐な星亮高校の生徒だよね~。っと、隙有りっ!」


 カシャッ、という音と共に閃光が広がる。

 朝方でまだ暗いためか、暗闇に慣れた目に激しい明かりは刺激が強く、目をつぶってしまう。


「よしっ、もう一つの任務完了! じゃあねー♪」


 目が痛くて開けられず、暗闇の中でルナの声がする。

 今の光がカメラのフラッシュだという事はすぐに分かった。

 視界が戻った時にはもう、ルナの姿はなくなっていた。

 ふと、自分の服を見てみる。

 制服ではないにしろ、女性用の私服。つまり、ルナのもう一つの任務というのはこの姿を撮影してこいというもので。


「あの、くそ義親父がぁ……」


 大声を辛うじて小声にとどめる。

 その時、不思議と永夜の心から不安が消えていた。


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