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【吸血鬼の変奏曲(パルティータ)】  作者: 稲木グラフィアス
第一章『銀髪の追跡者(チェイサー)』
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Phase.7『再捜査』part.5


「あ、いました」


 桜が言うと、美佳と修は同時に桜の目線を追う。

 その先に、走ってくる遥がいた。


「すいません、途中で転んでしまって……」


「心配しちゃったよ。気付いたらいないんだもん」


「美佳は一人で行っちまうからな」


 遥が見つかった事で三人の顔に安堵の表情が生まれる。

 本当は永夜と会っていた、など言えない遥は心の中で罪悪感を感じていた。

 仕方ない。永夜が事件を収拾するまでの辛抱だと思い、ぐっと奥歯に力が入った。

 事件を収拾する事とはつまり、吸血鬼事件の犯人であるキョンシーを殺す事であるからだ。

 遥の中では、天月真夜|(柳永夜)という人物は善人である。と認識されている。

 永夜本人が善人ではないと言っていても、人の第一印象が簡単に変わるはずがない。

 善人である永夜が、他人を殺す事などしてほしくないのだ。


「ん、どうかしたの。遥?」


「いや、何でもないですよ?」


 美佳が遥の顔を覗き込むが、遥は笑って誤魔化す。

 しかし、それを桜は見逃さなかった。


「遥様、本当に転んだだけですか?」


「ほんとほんと、大丈夫だから。血もでてないし」


「いえ、そういう訳では……」


 遥は桜の勘の鋭さに冷や汗をきそうになった。


「で、真夜さんは見つかって……ないみたいですね」


「私達じゃ追い付けなかったみたい」


「まず無理って話だな。見た目だけは麗しい……おっと」


 修の言葉に桜が拳を振り上げるが、修はそれを悟る。


「ダメですよ、修さん。ちゃんと最後まで言ってもらわないと、私の出番が無くなるじゃないですか」


「出番作りのためだけに何度も殴られてたまりますかっ! あ、でも殴ろうとしたら、って事も……ふぼぉ!」


 修が言い終える前に桜が修の頭をはたく。


「何するんですか、桜さん。俺まだ言ってないっすよ?」


「早めに出番を作っておきました」











 時刻は午後六時。

 永夜探しを諦め、スクールティンカーは解散する。

 桜は帰り道、遥に本当の事を訪ねた。


「遥様、本当に何も無かったのですか?」


「言ったでしょ、何も無かったんだって」


「嘘ですね」


 ふと、桜は遥の髪の毛にキラキラと光っている物を見つけ、それを取る。


「白髪……ではなくて、銀髪ですね」


「えっ? 私の髪に銀髪が生えてたのかな?」


「そんな訳ありませんよ。誤魔化さないでください」


「うぅ、ごめん」


 遂に遥が折れる。

 もちろんその銀髪の正体は永夜の物であるし、それが遥が永夜と会っていたという証拠になる。


「真夜さんと会っていたのは皆に黙っていてね。約束だから」


「約束も何も」


「約束なのっ」


「了解しました」


 遥は心の中で桜には敵わないな、と思いながら永夜を見つけてから、別れた時の事を話す。

 しかし、話せば話すほど桜の目が怖くなっていく。


「桜は何か永夜に敵意を持ちすぎじゃないかしら?」


「そうでしょうか?」


 当然ではありませんか? とでも言うかのように首をかしげる。


「確かに、永夜さんが私達を騙していたのは許していい事ではないけど。桜はそうじゃなくて、もっとこう……」


「憎んでいる?」


「そう、それ。……え?」


 遥は桜に先を越されて、戸惑ってしまう。

 憎んでいる。桜自身が言うのだから、桜は永夜を憎んでいるといえ事になる。

 遥は桜の過去を知っているが、桜が永夜を憎む理由が思い付かない。


「永夜さんを憎んでいるの?」


「まあ、否定はしません。理由を知りたいですか?」


「……えっと」


「私は永夜さんを憎んでいるのではなく、ウィアドを憎んでいるのです」


「でも、桜を助けたのはウィアドの人だし……」


「確かに、私はウィアドの方に助けられました。ですがそれは私だけ、だったのです」


「どういう事?」


 桜の顔にだんだんと影が刺してくる。


「私だけしか、助けなかったのですよ」


「桜しか助けられなかったんじゃないの?」


「いいえ、助けなかったのです。あの時、まだ助けられた命が何十とあったのに、ウィアドは彼らを見殺しにしたんですよ」


 桜は歯を食い縛り、拳を握る。

 遥は当時幼かったためか、ウィアドがどのような事をしたのかハッキリとは覚えていない。

 それでも、桜と出会えたのはウィアドのお陰だという事は覚えているのだ。ハッキリと。


「でも、助けてくれたのは事実なんだし」


「助けてくれたから感謝するのですか? 人はそんなに簡単じゃないと、私は思います」


 桜はもう、遥の事を見て話していない。

 目の前に永夜がいるかのように、その目は憎しみで満ちていた。


「あれっ、ちょっと待って。桜、あなた覚えてるの?」


「忘れるはすがないじゃないですか、あんな事。そもそも、遥様が覚えてる方がよっぽど驚きですよ」


「桜……」


「さて、着きましたよ。遥様」


 桜が立ち止まり、遥は辺りを見回す。

 そこは自宅の門の前。


「私の気持ちは遥様にもご理解いただけないと思います。これは当事者でなければわかりませんから」


 遥が門の中に入ると、桜は門を閉めながら言った。


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