Phase.7『再捜査』part.5
「あ、いました」
桜が言うと、美佳と修は同時に桜の目線を追う。
その先に、走ってくる遥がいた。
「すいません、途中で転んでしまって……」
「心配しちゃったよ。気付いたらいないんだもん」
「美佳は一人で行っちまうからな」
遥が見つかった事で三人の顔に安堵の表情が生まれる。
本当は永夜と会っていた、など言えない遥は心の中で罪悪感を感じていた。
仕方ない。永夜が事件を収拾するまでの辛抱だと思い、ぐっと奥歯に力が入った。
事件を収拾する事とはつまり、吸血鬼事件の犯人であるキョンシーを殺す事であるからだ。
遥の中では、天月真夜|(柳永夜)という人物は善人である。と認識されている。
永夜本人が善人ではないと言っていても、人の第一印象が簡単に変わるはずがない。
善人である永夜が、他人を殺す事などしてほしくないのだ。
「ん、どうかしたの。遥?」
「いや、何でもないですよ?」
美佳が遥の顔を覗き込むが、遥は笑って誤魔化す。
しかし、それを桜は見逃さなかった。
「遥様、本当に転んだだけですか?」
「ほんとほんと、大丈夫だから。血もでてないし」
「いえ、そういう訳では……」
遥は桜の勘の鋭さに冷や汗をきそうになった。
「で、真夜さんは見つかって……ないみたいですね」
「私達じゃ追い付けなかったみたい」
「まず無理って話だな。見た目だけは麗しい……おっと」
修の言葉に桜が拳を振り上げるが、修はそれを悟る。
「ダメですよ、修さん。ちゃんと最後まで言ってもらわないと、私の出番が無くなるじゃないですか」
「出番作りのためだけに何度も殴られてたまりますかっ! あ、でも殴ろうとしたら、って事も……ふぼぉ!」
修が言い終える前に桜が修の頭をはたく。
「何するんですか、桜さん。俺まだ言ってないっすよ?」
「早めに出番を作っておきました」
時刻は午後六時。
永夜探しを諦め、スクールティンカーは解散する。
桜は帰り道、遥に本当の事を訪ねた。
「遥様、本当に何も無かったのですか?」
「言ったでしょ、何も無かったんだって」
「嘘ですね」
ふと、桜は遥の髪の毛にキラキラと光っている物を見つけ、それを取る。
「白髪……ではなくて、銀髪ですね」
「えっ? 私の髪に銀髪が生えてたのかな?」
「そんな訳ありませんよ。誤魔化さないでください」
「うぅ、ごめん」
遂に遥が折れる。
もちろんその銀髪の正体は永夜の物であるし、それが遥が永夜と会っていたという証拠になる。
「真夜さんと会っていたのは皆に黙っていてね。約束だから」
「約束も何も」
「約束なのっ」
「了解しました」
遥は心の中で桜には敵わないな、と思いながら永夜を見つけてから、別れた時の事を話す。
しかし、話せば話すほど桜の目が怖くなっていく。
「桜は何か永夜に敵意を持ちすぎじゃないかしら?」
「そうでしょうか?」
当然ではありませんか? とでも言うかのように首をかしげる。
「確かに、永夜さんが私達を騙していたのは許していい事ではないけど。桜はそうじゃなくて、もっとこう……」
「憎んでいる?」
「そう、それ。……え?」
遥は桜に先を越されて、戸惑ってしまう。
憎んでいる。桜自身が言うのだから、桜は永夜を憎んでいるといえ事になる。
遥は桜の過去を知っているが、桜が永夜を憎む理由が思い付かない。
「永夜さんを憎んでいるの?」
「まあ、否定はしません。理由を知りたいですか?」
「……えっと」
「私は永夜さんを憎んでいるのではなく、ウィアドを憎んでいるのです」
「でも、桜を助けたのはウィアドの人だし……」
「確かに、私はウィアドの方に助けられました。ですがそれは私だけ、だったのです」
「どういう事?」
桜の顔にだんだんと影が刺してくる。
「私だけしか、助けなかったのですよ」
「桜しか助けられなかったんじゃないの?」
「いいえ、助けなかったのです。あの時、まだ助けられた命が何十とあったのに、ウィアドは彼らを見殺しにしたんですよ」
桜は歯を食い縛り、拳を握る。
遥は当時幼かったためか、ウィアドがどのような事をしたのかハッキリとは覚えていない。
それでも、桜と出会えたのはウィアドのお陰だという事は覚えているのだ。ハッキリと。
「でも、助けてくれたのは事実なんだし」
「助けてくれたから感謝するのですか? 人はそんなに簡単じゃないと、私は思います」
桜はもう、遥の事を見て話していない。
目の前に永夜がいるかのように、その目は憎しみで満ちていた。
「あれっ、ちょっと待って。桜、あなた覚えてるの?」
「忘れるはすがないじゃないですか、あんな事。そもそも、遥様が覚えてる方がよっぽど驚きですよ」
「桜……」
「さて、着きましたよ。遥様」
桜が立ち止まり、遥は辺りを見回す。
そこは自宅の門の前。
「私の気持ちは遥様にもご理解いただけないと思います。これは当事者でなければわかりませんから」
遥が門の中に入ると、桜は門を閉めながら言った。




