Phase.7『再捜査』part.4
通信終了。
「あの……」
「え、なんですか?」
「いや、やっぱり……キョンシーを……その、殺すんですか?」
遥は歯切れが悪く、恐る恐る聞いてくる。
「そうなるでしょうね」
しかし、永夜の返答は無慈悲な物だった。
「言ったはずです。俺は人を殺す事だってある、と」
「それは……そうですが」
「あらかじめ言っておきます。俺達ウィアドは善にも悪にもなります。俺が今、遂行中の吸血鬼事件の解決という任務は、人間から見れば善ですが、あのキョンシーから見れば、悪なんですから」
キョンシーの吸血は、人間で例えれば食事だ。
人が牛や豚を食べるように、キョンシーは人の血を吸って生きる糧としている。
「普通の人間に戻す方法は無いんですか?」
「それは、死んだ人間を生き返らす事ができるか。と聞いているのと同じですよ」
「あ、そうですね」
遥の顔が曇り、口元はわなわなと震えている。
永夜は何も言えなかった。
言った所でどうにかなる物でもないし、今何か言うと『できる限り努力します』と、嘘が出てきてしまいそうだったからだ。
できる事は、いち早くキョンシーを殺す事。
「でも、まだあんなに小さいのに……」
「小さくても、大きくても関係ありません。人間にとって危険な存在であるのは間違いないのですから」
しかし、永夜は殺す瞬間にまた迷ってしまいそうで怖かった。
感情というものは本当に厄介な物である。
引き金を引く指は感情の影響をとても受けやすい。
どんなベテランの殺し屋でも、心の中では躊躇いが生まれる筈。
それがないのは機械か天災、そして本当に感情の無い者。
「でも……でも……」
「でもじゃありません。高校生でしょう? 危険な物とそうでない物の区別はつく筈です」
遥はもう何も言い返せないでいる。
「わかりましたね? じゃあ、この話は口外しないようにお願いします。……と言っても、美佳の能力が心配ですから」
すると、永夜は自分にかけた魔術と同じ魔法陣を足元に書く。
「ほら、遥さん。この上に立ってください」
「え? は、はい……」
遥は恐る恐る魔法陣の上に立つ。
「逃走。能力妨害、追跡能力に設定」
魔方陣の線が光だし、遥の体を包む。
「固定完了、術式発動」
光は更に輝きを増し、遥の体の中に溶けていった。
「何をしたんですか?」
「美佳の能力の妨害です。これくらいの簡単な物だけなら」
「あ、でも皆は……」
「そうですね。少しだけなら送りましょうか?」
「あ、あのその……お願いします」
「はぁ、はぁ……もう……駄目。疲れ……た」
美佳は全力疾走の果てにも永夜を見つける事ができず、疲れ果てて止まってしまう。
「訓練をしていたであろう、彼に追い付けるとは思っていませんでしたけど」
「そうなら、走り出す前に言っといてよ」
「言ったけど、気が付かずに行っちまうんだもんな」
他二名も息を切らして追い付く。
と、美佳は一人足りない事に気が付いた。
「……遥は?」
『……あれ?』
同時刻。
「ちょっと、永夜さん? こんな明るいのに飛んで大丈夫ですか?」
遥を抱え上げ、永夜は美佳が走っていった方向へと飛んでいた。
現在、遥は永夜の腕の中で顔を真っ赤にして永夜の体にしっかりとしがみついている。
確かに叩きのめされてはいない。
「大丈夫ですよ、多分」
「途端に心配になりました」
翼をはためかせる毎に二人の髪が風になびく。
見た目だけは二人の美少女が空を飛んでいるとなっているが、地上を歩く者達はそんな光景を夢にも思っていないだろう。
「本当に叩きのめさないんですね」
「え、あぁ。精一杯我慢しています」
「え、本当ですか?」
「嘘です」
冗談を言えるのなら余裕なのだろう。
永夜はそれに安堵感を覚えながら翼を動かす。
「あ、いました! あそこです」
遥の指し示す方向に何かを探しているような三人組を発見。
もう遥がいない事に気が付いたのだろうか。
永夜は建物の影に降り立つと、誰にも見られていない事を確認し、翼をしまう。
「便利な羽ですね」
遥は物珍しそうに永夜の背中をさする。
「ふぇ!? は、はい」
「あれ、背中は弱いんですか?」
なおもさすり……というより、くすぐる様にさわる遥。
「いや。背中というより、羽の付け根にあたる部分が……って、止めてくださいよ!」
ばっ、と遥の手を振り払うが、遥はクスクスと笑っている。
「じゃあ、さっきの事は口外しないでくださいね?」
「それはフリですか?」
「フリじゃないです」
「ではフラグ……」
「何の話ですか?」
「冗談です」
普通にしている時は遥に話の主導権を取られている気がした永夜であった。
永夜はため息をつく。
「冗談抜きで、お願いしますよ?」
「わかりました。私、命を狙われても言いません!」
「いやいや、どんな状況ですか……。……ほら、早く行ってください。皆探してますよ」
「そうですね。じゃあ、また」
すると、遥は手を振りながら走っていった。
遥が行った後、永夜はボソッと呟いた。
「また、……か」




